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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編

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111立ちふさがる男たち

「お姫ちゃん! お買い物は終わった?」

 お米の調理方法についてエルシィがあれこれ考えていると、粉屋の天幕にバレッタが飛び込んできた。

 いつの間にか一行から勝手にはぐれていたようだ。

「あ、はい。終わったと言いうか、目的のモノは無かったと言いますか」

「ふーん?」

 正直に言えばバレッタはエルシィの欲しかったモノにあまり興味が無いようで、気のない返事をしつつ、露店で買って来たらしいモノをもふもふとかじる。

「姉ちゃんまた食べてるのか」

「いいじゃない。自分のお小遣いで買ったんだから」

 そんな姉弟の何気ない会話を聞きながらも、エルシィはその手にある食べ物に興味を惹かれた。

「それはなんです?」

 訊ねれば、バレッタはにぱっと笑いエルシィの手を引いて天幕を出た。

 これには側仕え衆も慌てて飛び出す。

「ご主人、お騒がせしました」

「お、おう」

 キャリナだけは最後に少しだけ残り、粉屋の主人に幾ばくかの貨幣を握らせてから後を追った。

 買い物もせず仕事を邪魔した礼である。


 さて、バレッタに手を引かれながら、エルシィはその手にある食べ物を観察してみる。

 きつね色で少し曲がった棒状だ。

 質感から言って揚げ菓子のようにも見える。

「ここよ!」

 いろいろ思案している間に目的の店に着いたようで、油と甘い匂いがふわりと流れて来た。

 エルシィの予想は大方当たっていたようだ。

「へいらっしゃい。

 ……嬢ちゃんまた来たのかい?」

「うちのお姫ちゃんが欲しいっていうから、また来たわ!」

「まいど!」

 すでに顔見知りの様な気楽さで話す店主とバレッタを尻目に、エルシィは露店を覗き込んだ。

 中華鍋の様な丸くて広い鉄鍋に油が半分くらい煮立ち、そこで大きなとぐろを巻いたドーナツのような菓子が揚げられていた。

「ほほう……露店でこれほど使えるくらいに、食用油は普及しているのですか」

 ジズ公国本土でアジフライを作った時のことを思い出しつつ、エルシィは感心気に声を漏らす。

 と、揚げ物をしている店主は少し怪訝そうに首を傾げた。

「そりゃ油は安くはないが……。

 まぁ、(ジズリオ)じゃ高級品って聞くけどなぁ」

 そこまで言ってハッとする。

 ハッとして、店主はすぐに口をつぐんだ。

「ふふふ、あなたのように察しの良い人は好きですよ」

 エルシィはそんな店主ににっこりと笑いかけて、また鍋を観察した。

 噂の鎮守府総督だと気づいた店主は緊張しながらも手作業を続ける。

 最近、吟遊詩人が唄う話を信じるなら、真っ当に生きている人に対して無体を言うお人ではないはずだ。

 それでも一気呵成にハイラス伯国をとってしまったのは確かであり、普通、お目にかかる機会などあるはずのないお偉いさんを前に固くなるなという方が無理である。

「ご主人さん、このお菓子はなんというものです?」

 甘い美味しそうな香りを堪能しつつ、エルシィは質問する。

「へぇ、ハルチュラと言いやす。

 甘味(あまみ)の強い小麦を練って揚げるんですわ」

 店主はビクッとしながらも答えた。

 その間も手は狂いなく作業しているあたり、真面目に仕事を重ねて来た職人なのだろう。

「砂糖は使わないのですか?」

「とんでもねぇ。

 砂糖なんざ使ってたらとてもじゃねえが市場に来る連中が食べれる値段になりませんぜ」

 会話しつつ、エルシィはなるほど、と頷いた。

 油はそこそこ高いが庶民の手に届かないほどではなく、また砂糖はとても庶民からしてもやはり高価な品である、ということが判った。

 こうした細かい価値観の情報こそ、エルシィが市場で求めていたものと言っても過言ではないのだ。

「ではご主人さん、それを一つ……いえ全員分くださいな」

「へ、へい。まいど……」

 こんな庶民のお菓子を貴顕に食べさせていいのかな?

 などと畏れながら、店主は揚げたてのハルチュラを切り分けてエルシィたちに手渡した。


 一行はハルチュラを食べながら暢気に市場を歩く。

 いや、一行というのは間違いで、キャリナなどはその行儀の悪さに眉を寄せながら楚々とついて歩いているし、護衛の二人はすぐ口に放り込んで両手を空けている。

 つまり食べ歩き状態なのはエルシィ、バレッタ、そしてカエデの三人だった。

「カエデ、あなたもちょっと自覚なさいな」

「出された食べ物を残す方が行儀悪いにゃ。

 よく味わって感謝しながら食べるにゃ」

 まぁこれは詭弁でもあるが、文化の違いとも言えるだろう。

 そもそもカエデは山の民であり、一応元ハイラス伯国の国民だが街の人間とは生活習慣が違うのだ。

 そうして一部ピリピリしながら進むと、露店の天幕は途切れてやけに寂しい通りへと辿り着いた。

「エルシィ様、そろそろ引き返した方がいいと思います」

 いつものほほんとしたタヌキ顔のフレヤが幾らか引き締めた面持ちで静かに言う。

 彼女がこういう時は本当に危険が迫っていそうなときである。

 ゆえにエルシィも耳を傾け足を止めた。

 見れば、人の行き来が極端に少なく、左右に並ぶ建物もいつの間にか粗末で古い物に様変わりしていた。

 初めはスラムか? とも思ったが、ただそれにしては様子が違う。

 道は良く掃き清められ、建物は粗末ながらも良く手入れされているのが判る。

 場合によっては人が多い市場よりキレイかもしれない、とさえ思えた。

「ここはどういった場所でしょう?」

 同じ感想を持ったのだろう。

 キャリナが困惑気味にキョロキョロしながらそう呟く。

 だが答えられる者はこの中にいない。

 一行にこの街の出身者は一人もいないからだ。

 そうして足を止たまま、アベルとフレヤは皆を挟み身構えて警戒する。

 とにかくエルシィが下知を出したらすぐにでも引き返せるように。

 だが、エルシィが「戻りましょう」という判断を下すより早く、その男たちは姿を現した。

 顔に傷を持ち腰にナイフを差した濁り眼の男を筆頭に、野盗かと見まがう様なやせ型だがガッシリした身体つきの者たちばかりが六人、エルシィたちの行く手を塞ぐように道の先へと布陣した。

 アベルとフレヤが前に出て短剣を抜く。

 アベルは本来、こうした差し料を必要としないが、だからと言って丸腰でいると舐められるからと勧められて所持している。

 護衛の役目は威嚇でもあるのだ。

 もっとも子供である時点で威嚇の効果があるかはなはだ疑問ではあるが。

 話を戻す。

 濁り目の男がある意味やる気に満ちた護衛二人に声をかけた。

「おいおい物騒だな!

 俺たちは何もあんたらをどうこうしようとは思ってねえ」

「なら何のために行く手を塞ぐのですか?」

 男たちの数人はフレヤの剣幕に「ひゅー」と茶化すような口笛を吹き、にやにやと様子を眺めている。

 フレヤとアベルの緊張は徐々に高まっていく。

 一触即発。

 この状況を、エルシィはそう例えて呟いた。

次回更新は来週の火曜を予定しています

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