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じょじたん~商社マン、異世界で姫になる~  作者: K島あるふ
第二章 ハイラス鎮守府編
100/458

100これはせんそうですね

 ユスティーナを迎えた会食が終わり、ひとまず彼を急ぎ用意した客間へと送り出した後のことである。

「第一〇二四回、お側衆かいぎ~」

「いえーい」

 エルシィが突然そんなことを言いだしたので、周囲のほとんどの者はポカンとし、バレッタはノリ良くパチパチと手を叩いた。

「そんなにやってましたっけ?」

「いや、回数は適当なので気にしないでください」

 真面目に指折り数え始めるフレヤを軽くなだめ、エルシィは「こほん」と改めて姿勢を正す。

「えー、では各々、ユスティーナくんに対する意見があればどうぞ。

 おっと、立ってる人も座って座って」

 言われ、キャリナとフレヤもおずおずとバレッタやアベルの横の席に着いた。

 まぁ当然、給仕の為にいるような使用人は立ったままだ。

 彼ら彼女らはあくまで使用人枠であり、側仕え衆ではないのだ。

 つまり、キャリナの助手の様な事をしているねこ耳メイドのカエデ嬢も、すまし顔で立ったままだった。

 それについては側仕えたちも使用人たちも、皆が皆「当然」という顔だったので、エルシィは少しだけ残念そうな顔をして、無言で了承した。

 現地の習慣に、自分の価値観で異を唱えるのは不和の元なのである。

 中東に行ってアブラハムさんに文句言ったら袋叩きにあっても文句は言えないのだ。

 そのように軽い話し合いの場が整ったところで、食堂の扉にノックが響いた。

 エルシィに側仕えが足りないため、こういう時はカエデが動く。

 ねこ耳をぴょこぴょこ揺らしながら大きな扉をそっと開いて来客を確認したカエデは、またトテトテと静かな足音で戻ってきてキャリナに耳打ちする。

「……はい、そうですか。

 エルシィ様、クーネルさんが本日の報告にいらっしゃったようです」

「おお、ちょうどいいですね。

 会議に参加してもらいましょう!」

 そのように承諾され食卓まで案内されたクーネル氏は、席に着く者たちを見て少しだけ面倒そうな顔をした。

 食事後のティータイム中だろう、くらいに思っていたので、まさかミーティングに参加を求められるとは思っていなかったのだ。

 彼も忙しい身で、報告したらまた財司に戻るつもりだったのだ。

「まぁまぁ、お茶でも飲みながら少しのんびりしてください。

 カエデさん、クーネルさんの分もお願いします」

「承知したにゃ」

 エルシィはクーネルの目元に定着しつつあるクマを見て苦笑いしつつ、ハーブのお茶を振舞うことにする。

 これはもうエルシィ旗下の武官文官関わらず、最近定番の様相である。

 ちなみに「お茶の木」は無いのか未発見なのか、今のところ「お茶」と言って出てくるのはたいていハーブティーだ。

 緑茶や紅茶も飲みたいので、暇が出来れば探してみたいと思っているところだった。

 当然、エルシィにそんな暇ができるか、という問題が残るのだが。

 ともかく、エルシィ、バレッタ、アベル、キャリナ、フレヤ、そしてクーネルの六人が席に着き、いよいよ会議の体裁が整った。


「さて。

 それでみなさん、ユスティーナくんについて、どう思いました?」

「どう、とは?」

 改めて議題を言ったエルシィに、腰を折る様に口を挟むのはクーネルだ。

 彼は今来たばかりで話の筋が見えないので仕方ない。

 すぐさまキャリナがこれに答えを提示する。

「ユスティーナ氏は吟遊詩人ユリウス氏から派遣されたお弟子さんです。

 ですがどうも彼自身、ユリウス氏から疎まれているという意識があるようで。

 詩吟の腕前は幼いわりに有望と思えるのですが」

「なるほど、そういうことですか……」

 クーネルはこれを聞いて、少し納得したように頷いた。

「ハッキリしないヤツみたいだから、イライラするんじゃないか?」

 と、これはアベルの言。

 別にそれで苛めてやろうとか思わないが、それでも同じ男子として、アベルにはあのオドオドした態度が少々うんざりするようだった。

「かわいい顔してるから、お弟子仲間から苛められるのかもね」

「かといって、それで弟子を下に置くというのは、ユリウス氏の人格を疑います」

 そしてこれはバレッタとフレヤの意見。

 普段から孤児と触れ合うことが多いフレヤからすれば、何かに怯えたような子供は日常的に見るのだ。

 それで差別してたらきりがない。

 これら予測的な意見を聞き頷いたエルシィは、実情を知っていそうなクーネルに期待の目を向ける。

 クーネルはチョビ髭を一撫でしてから、思い出しながら口を開いた。

「ユリウス氏の弟子はたいてい見目麗しい男子ですから、それで苛められるということはないでしょうな」

「そうなのですか?」

 少し感心した顔で先を促すようなエルシィだ。

 吟遊詩人と言えば、いわば人気商売の芸能人である。

 ならば美形ぞろいでも頷ける。

 そしてクーネルは続けて口を開く。

「ええ。

 ユリウス氏はいわゆるお稚児趣味なので、有能なはずのユスティーナという弟子が疎まれているなら、そっち方面でなにか粗相があったのかもしれませんな」

 これを聞いて反応が幾らか別れる。

 神孫の姉弟はよく解らないとキョトンとし、フレヤはあからさまに表情を歪めた。

 孤児の中にはその手の輩から酷い扱いを受けた者も稀にいるのだ。

 そしてキャリナは「なんてことを姫様に聞かせるのだ」と苦い顔をした。

 エルシィはさっきの納得が台無しになって「そっちかー」と目をバッテンにした。

 お稚児趣味。

 つまり幼い美少年を侍らせることに愉悦を感じる性癖のことだ。

 そして食堂が何とも言い難い雰囲気に包まれたところで、使用人らしく黙っていたねこ耳メイドのカエデが控えめにスッと手を上げた。

「発言よろしいにゃ?」

「あ、ハイどうぞ」

 慌ててエルシィが彼女に手の平を向けて許可する。

「皆さん、何か勘違いしているにゃ?

 ユスティーナは女の子にゃ」

 数秒、時が止まったような気がした。

 当然、主観であるが、再び時が動き出した時、それぞれがそれぞれの表現で納得したように大きく頷いた。

 なるほど。

 美男児だと思い喜んで弟子に取ったら、実は女の子だったということか。

 人によってはご褒美だろうが、お稚児趣味の人にとっては「騙された」と思うのかもしれない。

 もちろん、誰も騙してなどいないのだが。

「なるほど……。

 男の娘だと思ったら、実はボクっ娘だったということですか。

 これはせんそうにもなりかねませんね」

 そんなエルシィのつぶやきに、アベルはまた、頭痛を覚えたようにコメカミをおさえ頭を振った。

「何を言ってるのか、ちっともわからない」

男の娘だと思って期待した方々、申し訳ありません

ボクっ娘でした

この件についてはどんな非難も受け付けます<(_ _)>

次の更新は来週火曜の予定です

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― 新着の感想 ―
[良い点] 美少女が増えるよ!やったね! [一言] うーん…男の娘だと思ったらただの?美少女だったとは これは代わりにアベル君が男の娘になるしかないのでは?
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