5:「アイツなんかめっちゃ速いんだけど」by騎士団長
「あはははははははっ! なにアイツっ、最高に燃えるじゃないッ!」
トロールの群れを屠りながら、帝国騎士団のオルトリンデは舌舐めずりをした。
彼女の視線を釘づけにしているのは『ワイルド・コボルト』に乗った飛び入り参加者、ダルクという男だ。
一見すればごくごく普通の真面目な若者であった。
どこぞの騎士団に所属していたとのことで礼儀作法から身体作りまでしっかりと出来ており、いかにも優等生といった感じの男だ。
機体もオーソドックスな『ワイルド・コボルト』であり、基礎機能を向上させる装備をいくつか付けている以外はカラーリングさえ素のままだ。
……ダルク本人は『ヘタにいじればいいってもんじゃない。プラモは素組みもロマンがある』というロボオタ的思考で惚れ惚れしているのだが、オルトリンデから言わせればいささか地味だ。
全身にブレードを装備した自身のゴテゴテ機体と見比べ、「そんなんで活躍できるのかしら?」と内心首を捻っていた。
――だが戦いが始まってみれば、何だアレは?
斬る・避ける・突くといった基礎的動作がとにかく速い。
超速にして的確な動きで、騎士たちが一体敵を屠る間に三匹はなます斬りにしていく。
帝国騎士団・第七師団は戦闘狂の集まりだ。
そんな自分たちよりもさらに激しく人狼は敵を斬り裂いていく。
そのハイスピードな戦闘にオルトリンデは「なるほどねぇ」と呟いた。
「アイツの強みは高い『イメージ力』か。一瞬で明確な魔導機の動きを思い描けるからこそ、あれだけの高速戦闘を行えるのね」
そう、イメージ力は魔導機乗りにもっとも要求される基礎的能力だ。
魔導機の操縦はパイロットの運動神経とリンクして行われる。
しかし実際に自分の手足まで動かしてしまえば、コクピットの中で身体中をぶつけて怪我まみれになってしまうだろう。初心者にありがちな失敗だ。
ゆえに大切なのは自身の身体と運動感覚を切り離し、『魔導機になったつもりで動く』想像力に他ならない。
「イメージが正確なほど機体への伝達パルスは早くなり、機敏な動作が可能になるわ。……それにしてもアイツやばすぎでしょ……」
イメージ力を向上させる手段は一つ。
戦場に身を置き続け、他者の魔導機が戦う姿をしっかりと目に焼き付けることだろう。
ゆえに熟練の乗り手ほど動きがスムーズになるというものだ。
しかしダルクという男は、まるで何百ものプロの戦いを観察してきたかのようだった。
しかも熟練の乗り手とは違って年若い分、肉体に負荷がかかるような動きも躊躇なく連発している。
ああ、その結果がこれだ。
高級機体に乗った帝国騎士団を差し置いて、量産機体に乗った野良パイロットが戦場を支配してしまっていた。
「――さぁ騎士たちよ、俺に続けッ! 国の未来を守るために!」
しかも勝手に率いられる始末。
そんな事態に、オルトリンデをはじめとした戦闘狂集団は溜め息を吐いた。
やれやれまったく、アイツはなんだと呆れ返り――そして、
『負けてられるかァアアアアアアアアアアーーーーーーーッ!』
若き才能に刺激され、全員の闘気が爆発した――!
飛び入りなんぞに負けられないと奮起し、限界以上の力でトロールたちを葬っていく。
久々に感じる胸の熱さにオルトリンデはニヤリと笑う。
「アハハハハハッ! いいわねぇー最高じゃないッ! 最近は退屈でしょうがなかったけど、あんな男が芽を出していたなんてねぇ!」
騎士団を抜けて好き勝手に暴れる計画を立てていたが、それを彼女は取りやめる。
もう少しだけダルクという男を見ていたくなったからだ。
彼の戦いぶりを間近に感じることで、自分たちはさらに強くなれるだろうとオルトリンデは確信していた。
――かくして数分後、三百匹以上もいたトロールの群れは全滅した。
血の雨が大地を赤く染め上げる中、漆黒の人狼は高らかに剣を掲げる。
「――俺たちの、勝利だァーーーーーーーーッ!」
『ウォオオオオオオオーーーーーーーーーッ!』
彼に続いて雄叫びを上げる帝国騎士たち。
もはや飛び入りだとかは関係ない。戦闘狂である彼らにとって、最も活躍した者こそが支配者だ。
ダルクに対して確かな敬意を抱きながら、勝鬨の声を上げ続けるのだった。
こうして数日後、この戦いの顛末は民衆に報じられることとなる。
紙面には大文字でこう書かれていた。
“――未来の英雄、帝国に現る”と。
オルトリンデ「あの若さでどれだけの戦闘を見てきたのかしら……」
※アニメです。
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