11:暴走
――街に近づいた時には、そこは地獄絵図となっていた。
紫に染めた数十機のトロール型魔導機どもが暴れ回り、街中から火の手が上がっている。
それに抵抗する魔導機乗りたちも少数いたが無駄だった。数の利によってあっという間に囲まれてしまい、全身を機関銃で打ち抜かれていく。
その中には先日の依頼で仲良くなったお調子者、二丁ガトリングのバレルの姿もあった!
「バレルッ!」
ブースターを噴かせて一気に駆け出す!
バレルたちを囲んでいた敵魔導機どもに迫り、大剣を振るって複数体を斬り裂いた!
『ダッ、ダルクの旦那ァ! 助けに来てくれたのか!』
「当たり前だろうが。逃げることは出来るか?」
『あ、ああっ!』
通信魔道具から響くバレルの声にホッとする。
機体はボロボロだがどうにか動かすことは出来るみたいだ。俺の開けた穴から一目散に逃げていった。
――だが悠長にそれを見守っている余裕はない。
乱入者の俺に対し、敵魔導機たちが一斉に向かってきたからだ。
『なんだテメェはオラァアアアアーーーッ!』
『オレたちが大盗賊団「ヨルムンガンド」とわかってて逆らってんのかゴラァッ!?』
……ヨルムンガンド。たしかゲームにも登場した敵集団で、殺戮と強奪を生業とする悪徳魔導機乗りどもだったか。
とにかく凶暴でかなりの苦戦を強いられたのを覚えている。
はぁ。魔導機乗りたちを逃がすためにも、ボロボロの機体でそんな奴らとやり合わないといけないわけか……。
「……へっ、上等じゃねえか。ちょうどいいハンデだッ!」
俺は自分に喝を入れ、大剣を手に敵集団と対峙する!
正面から襲ってきた魔導機数体の首を刎ね、さらに刃を振るった反動を利用して後ろからきた敵に回し蹴りを叩きこんだ!
そしてすかさず左腕に仕込んだガトリングガンを周囲に放ち、敵集団を牽制していく。
「チッ、手足を動かすたびに関節がギシギシいいやがるな……!」
ガタがきている証拠だ。このまま足が動かなくなったら一気に撃破されてしまうことだろう。
ゆえにガトリングガンを中心に使って戦っていこうと思ったのだが、敵のほとんどは『マッシブ・トロール』という耐久力に優れた機体に乗ってやがった。
動きが鈍い反面、力強くて重い装甲も纏える機体だ。小口径の仕込みガトリングでは倒すことなんて出来ない。
かくして数秒後、ついにガトリングガンの弾を撃ち尽くしてしまった。
その瞬間に銃を構える敵集団。こちらの武装は大剣一本しかないとわかるや、お返しとばかりに全方位から一斉射撃を行ってきた!
ガガガガガガガッ! という音が全身に響き、分厚くした装甲が一気に削れていくのが分かる――!
「ぐあああああーーーーッ!?」
衝撃によってコクピット内に振動が走り、いくつかの計器が爆ぜて破片が額を切り裂いた。
傷口から噴き出す赤い血潮。時間が不思議とゆっくり流れるように感じていき、血の一滴がモニターに当たってピチャリと爆ぜる瞬間が見えた。
そしてモニターの先には、嘲笑を上げながら銃を撃ちまくる敵集団が……!
「くそっ、こんなやつらに……っ!」
悔しさに歯を噛み締める。
しかし機体は撃たれるばかりで、抵抗すらももう出来ない。
あと数秒後には爆散するか、あるいは装甲をブチ抜いた弾丸が俺を直接死なせるだろう。
――そんな最悪の未来を想像した瞬間、俺は自分の額を計器に叩き付けた!
「まだだーーーーーーーッ! 跳べッ、『ワイルド・コボルト』!」
激痛によって暗い考えを無理やり掻き消し、魔力を背中のブースターに叩き込んだ!
半壊しながらも意志に応えてくれる魔導ブースター。俺はその出力口を足元に向け、一気に大きく飛び上がる!
『なにッ、グァアアアーーッ!?』
地上から上がる男たちの絶叫。
的になっていた俺がいなくなったことで、銃を乱射していた敵集団は同士討ちをすることになったのだ。
その混乱の隙を突き、俺は敵の一体に向かって大剣を振り下ろした――!
「オラァァアッ!」
頭から股にかけて真っ二つに斬り裂く。
――着地の衝撃によってダッシュローラーが破損した。
「まだだァッ!」
大剣を握りしめて乱れ舞う。離れようとする敵どもに無理やり斬りかかり、死力を尽くして斬滅していく。
――その負荷によって両肩が破損して上がらなくなった。
「まだだッ、まだだーーーッ! もうつまらない負け犬人生になんて戻りたくないッ! 俺はッ、ロボでッ、この世界でッ! 活躍すると決めたんだーーーーーッ!」
俺の意志にコボルトが応えた。鋼鉄に覆われていた口部部がバックリと開き、涎に塗れた獣の牙が露わとなる。
そして振るえなくなった大剣を投げ捨てると、敵に飛びついて首元を噛み千切っていった――!
『ワォオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーンッ!』
戦場に上がる人狼の咆哮。
砕け散った装甲の下から剥き出しの筋肉を見せながら、俺の機体はモンスターへと舞い戻っていく。
――『暴走』と呼ばれる現象だ。ダメージの蓄積などによって、魔導機が改造前の意識を取り戻すことを示す。
気弱なコボルトには滅多に起こらない現象とされているが……、
「へっ、流石は俺の相棒だ。……おまえも嫌なんだろう? このまま負けるのが」
『グルルルルルッ!』
唸り声で応えるコボルト。どうやらコイツはコボルトの中でも一等の負けず嫌いだったらしい。
上がらなくなった肩をダラリと地につけ、文字通り狼のような体勢で敵を睨む。
『なっ、なんだアイツは!?』
『チクショウッ、もう一度囲んで殺せーーーーーッ!』
狼狽しながら銃を向けてくる敵集団だが、もう遅い。
俺とコボルトは縦横無尽に住宅街を跳ねまわり、次々とトロール型魔導機の首を噛み千切っていく!
「うぇっ、まず!」
口の中に血と油の味がする気がした。
おそらくは魔導機とのシンクロ率が上がり過ぎた結果だろう。
通常は運動神経と魔力回路が繋がるだけだが、まれにこうした現象が起こるらしい。
「まぁ仲良くなった証拠みたいなもんか。よし、この調子で行くぞッ!」
――そうして俺が口元を拭いながら敵集団を睨みつけた時だ。
ふいに視界がぐわんと歪み、手足が小刻みに震えはじめた。妙な寒さが身体を襲う。
「って、これはまさか……魔力切れ……!?」
……よく考えたら俺自身も仕事明けで疲れていたんだったか。
そんな状態で無理やり暴れ回れば、そりゃあガス欠にもなるか。流石にこれはどうしようもない。
「……でも、まぁいいか。バレルたちも逃げ切れたようだし、街の人たちが避難できる時間も作れただろ」
気付けば俺の周囲には何十機ものトロール型魔導機が近寄ってきていた。
みんな恐る恐るといった感じだ。派手に暴走しまくったんだから当たり前か。
だけどこれでいい。ターゲットが俺一人に絞られたことで、救われた命がきっとあるはずだ。
そんなことを思って満足する俺に、コボルトが吼える。
『クゥウ~ッ、ワンワンッ!』
「ははっ、諦めるなってか? わかってるさ。最期まで、殺れるだけは殺っていくつもりだ……ッ!」
気合と根性で魔力を生み出し、それをコボルトに充填させる。
ゆっくりと前に出る鋼の手足。ただそれだけで、敵集団から『ひッ!?』と慄く声が上がった。
『クッ、クソがァァアアッ! このオレたちが、犬っころ一匹にビビって堪るかーーーッ!』
『死ねやバケモノがッ!』
『ぶっ殺してやらぁーーーーーーーッ!』
惑うのも数瞬、ついに駆けてくる敵集団。
その光景を見ながら思う。
せめて一度くらいは、レーテ伯爵に俺が戦っている姿を見せてやりたかったと。
「ありがとうなレーテ。アンタがロボをプレゼントしてくれたおかげで、最高の日々が送れたぜ」
死が迫る中、年の離れた男友達に礼を言う。
たとえどんなに狂っていようが、アイツは俺のロボ好き仲間だ。
一緒に風呂に入りながら『火力極振り機体はロマンだ』と語る伯爵の笑顔は輝いていた。
できればまた語り明かしたいものだ。
『くたばりやがれーーーーーーッ!』
敵の罵声に意識が醒める。
そうして俺が、最後の死闘を迎えようとした――その時、
『私の英雄に、手を出すなァーーーーーーーーーッ!』
凛とした声が戦場に響いた。
そして次の瞬間、超熱量の赤き閃光が敵集団を焼き払っていく――!
「なっ!?」
いきなりのことに驚愕する。
この状況で救援が現れてくれたことも驚きだが、何より先ほどのレーザーは、街を一望できる伯爵の古城のほうから放たれてきたからだ。
そちらを見ると、全身を真っ赤に染めた機体がなぜか古城の上に我が物顔で立っていた……!
「ま、まさかアンタ、伯爵なのかー!?」
そう大声で呼びかける。
すると真紅の機体はグッと力強く親指を立て、胸のコクピットが開かれて――、
「応とも友よッ! 助けに来たぞーーーーッ!」
……そう言って、白いドレスを纏った銀髪の美少女が飛び出してきたのだった。
ってアンタ誰だよッ!?
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「俺は長男だから諦めない」~『ファイヤーボール』しか使えず『ブラックギルド』を追放された俺、『10万年』修行したことで万能魔法に到達する。戻れと言われても『もう遅い』。ホワイトな宮廷に雇われたからな〜
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