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1:英雄はじめました




「ダルク。役立たずの貴様は王国騎士団にはいらない。クビにする」


 団長の言葉に、俺は目の前が真っ暗になった。


 この騎士団に入ってから三年間、誰よりも努力し続けた。

 毎朝三時に起床して、先輩たち数十人分の『魔導機』を全て綺麗に磨き続けた。

 五メートルほどもある巨体をいくつも掃除するのは大変だったけど頑張った。


 そしてみんなが起きてからも、日が暮れるまで下っ端として働き続けた。

 買い出しやマッサージなんかは当たり前で、時には『射撃訓練の的になれ』と言われてオンボロの機体に乗せられて追いかけ回されたこともある。

 しかも使われたのは実弾だった。一歩間違えば、俺はあの時死んでいただろう。


 それでも俺は頑張り続けた。

 戦場で危険なおとり役を任され続けても、ずっと辞めずに努力してきた。

 田舎出身だった俺にとって、王国騎士になるのは子供のときからの夢だったからだ。

 それなのに、


「さぁダルク、さっさと出ていくがいい。田舎者は田舎者らしく、故郷でイモでも作ってろ」


「ちょっ、待ってください団長! そんないきなりっ」


「えぇい黙れッ! 平民風情が逆らうな! そもそも王国騎士団は、貴族の血筋を持つ者だけが所属を許されるという暗黙の了解があるのだ。貴様など雑用係として雇ったにすぎんわッ!」


 そう言って団長は俺を殴ってきた。

 彼の拳は俺の額を容赦なく叩き、意識が一瞬吹き飛ぶほどの衝撃が脳に走る。

 だが、その瞬間。

 

「ぐぁああああああああーーーーッ!?」


 激痛と共に思い出した。

 この世界が、『前世』でやっていたロボットゲームに酷似していることに。


 剣と魔法とロボのある独特な世界観で人気を博したゲームだった。

 その世界のモンスターたちはとても巨大で、それに対抗するために人類はモンスターを操れるように改造していった。

 そんな試みが百年以上続いた結果、ファンタジー世界のくせに人類はモンスターのロボット化技術を獲得。

 中に人間が入ることで、魔力をエネルギーにしながら自由に動かせる『魔導機』と呼ばれる存在を作り上げたわけだ。


 そして魔導機を操るパイロットたちを人々は騎士と呼び、ゲーム主人公も騎士となって活躍していくわけだが……、


「――はぁ、マジかよ。俺ってば、やられ役の『イングラード王国騎士団』に所属していたのか……」


 思わず溜め息を吐いてしまった。

 イングラード王国騎士団はウザい血統主義と汚職に塗れており、主人公によってわりと序盤でボコボコにされる存在である。

 いやぁー危ないところだった。どこまでがゲーム通りかは知らないが、こんなブラックな騎士団はさっさとおさらばするに限る。


 そう思っていると団長が俺を睨みつけてきた。


「なんだ貴様ッ、絶叫を上げたと思ったら急に落ち着きおって! それに先ほど、我らがやられ役だのと呟かなかったか!?」


「いやー気のせいですよ団長。じゃあ辞めますんで退職金ください」


「フンッ、貴様に渡す金などないわ!」


「ゴミっすね」


「ゴミだとぉッ!?」


 顔を真っ赤にするゴミ団長。

 よほどキレたのか腰の剣に手をかけようとするが、


「知ってますか団長、剣は抜くまで隙だらけなんすよ。はい平民パンチ」


「ぐはぁッ!?」


 顎を殴り抜いて失神させる。

 騒がれるのも嫌だったし、最後くらいは気持ちよく退職したかったからなぁ。


「じゃあな負け犬、もう関わってくるなよ」


 俺はカエルのように伸びた男に背を向け、騎士団を後にしたのだった。




 ◆ ◇ ◆



 さて、騎士団を辞めることになった俺だが、このまま田舎に帰るのもつまらない。

 前世の俺はロボットアニメやロボットゲームが大好きだったからなぁ。

 せっかくロボがある世界に生まれたんだから、改造したり戦ったりして好きに楽しみたいものだ。


 しかし、『魔導機』というのはめっちゃ高い。

 安いヤツでも家が買えるくらいの値段かなー? 去り際に団長の部屋からサイフをパクッてきたが、これだけでは到底足らなさそうだ。


 そこでゲームの知識を活かし、俺はとある人物に会いに行った。

 団長からパクった金で高級馬車を乗り継いでいき、快適に旅をすること約三日。

 俺は隣国『フランソワーズ』の隅にある古いお城を訪ねていた。


 急な来訪だったが、「魔導機に乗ることが出来ます」と告げると城主は快く俺を応接室に通してくれた。


「――改めて自己紹介をさせてください。自分の名はダルク・グノーシア、隣国のイングラードで王国騎士を務めておりました」


 まずは丁寧に自己紹介をする。

 すると俺の目の前に座った老紳士は「おほぉ~!」という謎の鳴き声を上げた。


「礼儀正しいのは良いことだねぇ、ダルクくんに英雄ポイント5点をあげよう。あ、私の名前はレーテ・ジル・ド・ヴォーダン。地位は伯爵で、趣味は英雄譚を読むことだ!」


 謎のポイントを渡しながら自己紹介を返してくれるレーテ伯爵。


 態度だけなら明るい人物だが、その見た目はミイラ同然だった。

 指先から顔中にまで包帯を巻き、全身は針金のように痩せ細り、両目なんて瞳孔ガン開きで死体みたいになっていた。


 一言で表すなら怪物である。

 まぁそれもそのはず。この老紳士はゲームに出てくる『敵キャラクター』なんだからな。

 

「さてさて。私のところを訪ねてきたということは、このレーテがどんなことをしている人物か知ってのことだね?」


「えぇ。そのへんの捨て子などに魔導機を与え、『英雄になれ』と言って戦場に送り出しているとか」


 そう……ぶっちゃけるとコイツは少年兵を量産しまくっているサイコパスだ。

 街で孤児などを大量に拾ってきては、意識の混濁する薬物を飲ませながら『キミは選ばれた存在だ。キミは英雄になれる』と繰り返し言って洗脳し、魔導機に乗らせて野に放つのである。

 

 しかもそれを善意のつもりで行っているのだからタチが悪い。

 彼は『英雄』という存在に心から憧れを持っており、野垂れ死ぬしかなかった孤児たちに英雄になれるかもしれない可能性を与えて満足しているのだ。

 洗脳状態の子供なんて、だいたい初戦で死ぬのにな。


「それで何だねぇダルクくん? まさか世間の無知蒙昧な連中のように、私の行いを非難しにきたのかな?」


 瞳孔の開いた眼でジィーッと見つめてくるレーテ伯爵。

 ――俺はそんな彼の手を無理やり握り、作り笑いを浮かべてこう言い放つ!


「いえいえいえいえっ、アナタの行いは素晴らしいものですッ! 人間ならみんな英雄になりたいに決まってるじゃないですかッ!」


「んほぉーッ!?」


 レーテ伯爵の目が驚きに染まった。

 そして数秒後、滝のような涙が溢れ出してくる。


「おっ……おおおおおおッ! そうかそうかっ、キミはわかってくれるのかダルクくんッ! あぁそうとも、私は何も間違ってはいないはずだ! 初めての理解者であるキミに、英雄ポイント50点をあげようッ!」


「ありがとうございますッ! そして自分もまた、英雄になりたくてここに来たのです! どうか魔導機を私にくださいッ!」


「おっほぉおおーーーーーーッ! 『英雄になりたい』というその言葉、素晴らしすぎるッ! ダルクくんにさらに50点ッ! あぁいいともっ、どうかキミのスポンサーにならせてくれ!」


 よーし攻略完了。

 粛清しに来たゲーム主人公にまで『キミは実に英雄らしい!』と褒めていたようなヤバいやつなので、英雄になりたいって言ったらすぐに堕ちると思ってたわ。


 さてさてレーテ伯爵。俺は別に英雄になりたいなんて思ってないが、しかしロボに乗って活躍したいとは思っている。

 だからこれは取引だ。

 アンタの喜びそうな『英雄っぽい言動』をしてやるから、どうかそれで満足してくれ。

 ただ活躍したいだけの俺を、英雄と勘違いして勝手に気持ちよくなっていろ。

 そして俺に金を吐き出せ。


「優しきアナタに誓いましょう。このダルク・グノーシアの力で、世界に光をもたらしてみせると」


「あッ、今の言葉すごく英雄っぽい! 英雄ポイント5点追加!」


 特に意味のないセリフを吐く俺と、拍手をしながら目を輝かせるレーテ伯爵。

 こうして俺はゲーム中最狂キャラとコンビを組み、最短ルートで魔導機を手に入れることになったのだった。



 



・ロボ大好きのわりと外道な主人公が『英雄ごっこ』で世間とサイコパスを感動させながら金を貢がせて成り上がっていく話です。

※英雄ポイントは貯まるとアイテムなどをプレゼントしてくれます。


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― 新着の感想 ―
[一言] >ファンタジー世界のくせに人類はモンスターのロボット化技術を獲得。 独特、と言うかダン〇イン風味? あれも魔獣から部品を作り組み立てた「ナマモノ兵器」分類だし。 (まぁ、天才が一代で創り…
[良い点] バカなノリなんだよなぁ.......ノリがやべえんだわなぁ....... [気になる点] これはSF.......? [一言] まんじセンセは希望の星。
[一言] レーテ伯爵は『ガン×ソード』 の「カギ爪の男」に似ている。
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