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7Dice  作者: 雨夜冬樹
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イケメンの宝

 双子の可愛い天使の神使ができた。

 あれから数日、神となる下準備をいろいろと済まし、ついに勇者を召喚するときがやってきた。


 召喚は天鞠と天留美が生み出された魔法陣で行う。

 場所は古代の遺跡っぽい神秘的な空間で、わかりやすく「神殿」と呼ぶようにした。


 神殿には魔法陣から少し離れた位置に背の高い椅子があり、後ろには木箱が隠されている。

 一見すると宝箱に見える箱の中身を俺は確認した。箱には紙束とワニの歯、儀式に使う道具が入れてある。用意はばっちりだ。


 チェックを終えた俺は椅子に座る。


 椅子は神殿にあっても浮かないように石で作られていた。彫刻は豪勢で凝っているが座り心地は悪く、あまり長時間座っているとお尻が痛くなりそうだ。


 ただ座れるだけでもありがたいもので、天鞠と天留美は俺の横で立ったままその時を待っている。


 天使と言えど女の子を立たせておくのは気が引けるな。


「やっぱり俺も立ってたほうがいいか」


 立とうとする俺を神使の二人は止める。


「えー座ってたほうがいいよー」


「どんと構えていたほうが神の威厳を示せるのです」


「そ、そうか……?」


 神の威厳つったってこの恰好じゃなぁー……。


 自分の服装を改めて見る。白のカッターシャツに白のスラックス。まるで水兵だ。神には全く見えない。神っぽい服装を追求した結果、なぜかこれになってしまった。


 文句を言っても始まらない。

 座っているだけで少しでも神っぽくなるなら、天使のお言葉に甘えて座っていよう。


「それじゃあ勇者の召喚を始めようか」


 天鞠と天留美にリラックスした口調で俺は伝えた。


「うん、わかったよ、はるにい」


「わかりましたです、はるやお兄ちゃん」


 俺の顔がだらしなくほころぶ。


 天使たちから「お兄ちゃん」と呼ばれ、男心ならぬお兄ちゃん心をくすぐられていた。

 はっ、いかん⁉ これから勇者を迎えるというのに腑抜けていては!


 気合で顔を引き締める。


「いいか、二人とも? 勇者の前では俺のことを『神様』と呼ぶんだぞ。それ以外の時はお兄ちゃん呼びをしてくれ」


「「はーい!」」


 笑顔で素直に返事をする天使たち。

 くらっと眩暈を覚える。


 可愛すぎて萌え死しそうだよ、ちくしょう!


「げふんげふん……よし、召喚するか」


 ズボンのポケットから俺はスマフォを取り出す。


 神界で手に入れた特別製だ。中には勇者の召喚と転移をするためのアプリがインストールされている。

 タップして「勇者召喚」アプリを起動した。


 まさかスマフォのアプリで勇者を召喚できる時代がくるとは思わなかった。


 ホームで「召喚」をタップする。

 すると「お一人様一日一回限定! 無料召喚! 優秀な勇者をピックアップ中!」と派手なビジュアルが表示される。


 どう見てもソシャゲのガチャなんですけど、これ。


「そぉい!」


 一抹の不安を覚えつつも、俺は「一連召喚」と表示されたところをタップした。


 タップして間もなく前方にある魔法陣が淡い光を放ち始めた。


 どこからともなくキラキラとした光の粒子が無数に現れ、宙を飛びながら魔法陣へと集まっていく。粒子はまとまりとなり人のかたちをかたどる。光の塊は一瞬だけ強い輝きを放ち、消えてしまった。


 消えた光から一人の人間が現れた。


 体格からして男のようだ。背が高い。顔を見る限り若いが、歳は俺よりも少し年上と思われる。大学生ぐらいだろう。なかなか顔がいい。爽やかな感じのイケメンだ。


 全体的にスペックが高そうで何よりなのだが、一つだけ気になる点があった。


「ねぇねぇ、神様。あの人どうして勇者の恰好してるの?」


 公園で不審者を見つけた子どものように天鞠は男を指さす。


 チュニック、腰に大きなベルト、厚底の靴、マント、宝石付きの額あて、天鞠の言う通りどこからどう見ても勇者だ。


「わからない。俺も気になってる。あと天鞠、人を指さすなって」


 勇者は下界で死んだ日本人から選ばれる。召喚されるときの恰好は死んだとき同じになるらしい。

 つまりこの男は勇者の恰好をして亡くなったのだ。


「どうゆことだ? この人召喚される前からすでに勇者なんだけど。もしかして俺が引きこもってる間に日本で勇者って職業ができたのか? やべぇな、人気出ちゃうよ。きっと海外からもYUSYAになりたいって外国人がきちまうよ」


 天留美は苦笑いを浮かべる。


「それはさすがにないと思います」


「だよな。忍者じゃあるまいし」


「あ、あの神様、スマフォを見てください。召喚された勇者のプロフィールが見れますから」


「へぇーそうなのか。どれどれ、名前―宝六郎たからろくろう、年齢―二十二歳、性別―男、職業―学生、身長―186cm、血液型―B型……そこそこ詳しくが載ってるな。うわ、この人宝クジで6億円も当ててるよ。すげぇ運良いな」 


 けど二十二歳で死んでるし、運が悪いとも言える。


「死んだときにあの恰好をしてたみたいですから、死因を見れば理由がわかるかもです」


「なるほど、天留美は頭がいいな」


「そ、そんなことないのです! えへへ……」


 照れながらも褒められたのが嬉しかったのか、天留美ははにかむ。


「あーっ! あたしも気づいてたよ! ねぇ、あたしも気づいてたー!」


 天鞠も負けじと主張をしてきた。褒めて褒めてと一生懸命せがんでくる。


「はいはい、わかってるよ。天鞠はお姉さんだから、天留美に譲ってあげたんだよな?」


「へっ? あっ、うん、そうだよ! 気づいてたけど、てるみんが言うと思って黙っててあげたんだから!」


「そうか、天鞠はえらいな」


「やっふー!」 


 天鞠は心底嬉しそうにはしゃいだ。


 俺は思わず笑ってしまう。


 ったくどっちがお姉さんかわからないな。


 不意に人の気配を感じる。


「なあ君たち、少し話を聞かせてもらえないかな?」


 女性を口説くような甘いボイスで宝六郎が話しかけてきた。

 いつの間にかこちらにやってきていたようだ。

 宝は俺のすぐ近く前に立ち、座っている俺を見下ろしていた。


 やはり背が高い。

 俺の背中に汗が浮かぶ。


 やばい……めっさ緊張してきた。


 勇者と言えど相手は年上だし、すげえイケメンだし、初対面だ。

 神として振舞わないといけないけど、どう話したらいい?


「お、俺は……」


 いやいや俺は神だとか普通名乗れねえよ。恥ずかしすぎんだろっ!

 ぜってー頭の可愛そうなやつとか思われちゃうよ!


「せいやぁー!」


「ぐぼおあああぁああー!」


 突風が吹いたと思ったら、宝が吹き飛んでいた。

 魔法陣の上を通過し、さらにぶっ飛んでいく。

 やがて遺跡の奥にある池に頭から突っ込み、派手に水しぶきを上げた後、動かなくなった。


「神様に気安く話しかけるなーっ!」


 天鞠は小動物のようにフゥーフゥーと威嚇していた。


 ……マジかよ? 大の大人が人間大砲で発射されたみたいに吹っ飛んだぞ!


「て、てまりぃいいいっ⁉ おまっ、何やってんの⁉ 宝が飛んでちまったぞ! イケメンの宝さんが池にダイブしちゃったよ!」


「だってあいつ神様をビビらせてたじゃん。だからぶっ飛ばしてやったよ!」


 やってやったぜという表情で天鞠はにかっと笑う。


「いや別にビビってねえし。ちょっと緊張してただけだし。……じゃなくて、いきなり殴るのはダメだろ! なあ、天留美」


 天留美に同意を促すと、天使は優しく微笑んだ。


「はいです。人間さんごときに神様が怯えていたわけがないのです」


「そっち⁉」


 天鞠だけでなく天留美までもなんかおかしい!


「だいたい人間のくせに神様を見下ろすなんて失礼だよ」


 天鞠はいつになく不機嫌な様子だ。

 姉の発言にこくこくと頷き、妹の天留美も同意する。


「不敬なのです」


 天使たちの人間に対する姿勢に俺は呆気にとられる。


「お前ら人間に厳しくない? そんな極端なものの考え方、一体誰に吹き込まれたんだ?」


 双子は揃って俺を見る。


「……えっ、俺? いつ、どこで?」


 まったく身に覚えがない。そもそも俺は人間を差別する気はない。純粋なこの子たちに過激な思想を刷り込む理由がなかった。


「あたしたちは覚えてるよ。神様がまだ人間だった頃どんな目にあってきたか」


「愚かな人間さんのせいで神様がどれほど苦しんだか、私たちは覚えているのです」


 天使たちはしみじみと呟いた。

 薄々もしやとは思っていたが。


「まさか俺の記憶の一部を引き継いでいるのか?」


 にっこりと天鞠は笑う。


「うん、だから生まれたばかりでも神様のことがすぐわかったよ!」


「恥ずかしがり屋で、落ち着きがなくて、自信もなくて、けど思いやりのあるとっても優しい神様なのです」


 瞳を閉じながら天留美は語った。


「そ、そうか?」


 俺は視線をそらしつつ頭をかいた。


「だから神様を辛い目にあわせた人間が許せないよ。もう二度と人間に神様を傷つけさせない。あたしが神様を守る!」


「わ、私もです! 神様には指一本触れさせませんからっ!」


 天使たちは真剣な表情でそう宣言した。


 俺は崩落した天井を見上げながら考える。


 自分よりも小さな女の子に守られるとか、恥ずかしくて情けないな。

 いや、本当に情けないのはそうさせてしまったことか。


 天鞠と天留美が人間を差別するきっかけは俺だ。

 俺が生きているとき、もっとしっかりしていればあの子たちが人間に抱く印象もこれほど悪くはならなかっただろう。


「二人ともよく聞くんだ」


 穏やかな声で俺は天使に呼びかけた。


「確かに俺は人間からさんざんな目にあわされてきた。俺が苦しんでいても誰も助けてくれなかった。まるで最初からいなかったみたいに扱われた」


 天鞠と天留美は無言のまま心配そうに俺を見つめる。


「でもな、だからって人間を見下していい理由にはならない。見下したら俺を苦しめてきた奴らと同じになっちまう」


 相手を悪いと決めつけ自分のしている行いには目を向けない愚かさ。

 二人には気付いてほしい。自分のしている行為が愚かだと見下している人間と大差ない事実を。


「全てを人間が悪いと一くくりにしたって虚しいだけだ。そこから生まれるのは誤解と自身も人間であるというジレンマしかない。まあお前たちは天使だからジレンマは感じないかもしれないけどさ」


「でも、許していいの?」


「人間さんが神様を貶めた事実に変わりはないのです」


「ああ、その通りだ。辛かった時のことは今でもときどき思い出すし、許すべきではないと思う。だがそれは俺が抱く感情であってお前たちのものじゃない。俺の過去と向き合うのはあくまで俺自身であるべきだ」


 天使たちは何やら言いたそうにするが、結局口を閉ざした。


「人間を認めろとは言わない。でも人間だからと言って過度に見下したり、虐げたりはしてはいけないよ。その人間がどういう人物なのか、やり取りや状況をもとに正当に判断する。これから人間と接するときはそう心掛けてほしい。お前たちはいい子だから、俺の言うことをわかってくれるよな?」


 天使の双子は顔を見合わせた後、同時に頷いた。


「うん、わかった! でも、もしちょっとでも神様を傷つけるようなら、すぐにぶっ飛ばすからね!」


 天鞠は片手でガッツポーズを決める。


「あーうん、ほどほどにな」


 ぶっちゃけ天鞠の相手をするほうが怪我しないか心配だ。


 天留美は祈りをささげるように胸に手を当てた。


「神様が神に選ばれた理由がわかった気がするのです」


「選ばれた?」


 生きていたときは誰にも選ばれなかった俺が?


「はいです。きっと神様がダイス様に出会い神になられたのも運命だったのです」


「はは……そうだろうか?」


 心が浄化されてしまうような優しい笑顔を天留美が見せる。


「はい、きっとそうです!」


 ダイスは最初俺を地獄に落とそうとしてたけど、そのことは言わないでおこう。


 俺は席を立ち、天使たちと一緒に池の前まで移動した。


「じゃあ、とりあえず天鞠は宝さんに一度謝ろうか」


「えー」


「えーじゃない。見下ろして話しかけてきただけでボコっちゃったんだから。ちゃんと謝らないとダメだぞ」


「はーい」


 不服そうに口をとがらせて天鞠は返事をした。


 池に突っ込んだ宝は浮き上がった状態で未だにぴくりとも動かない。


「あれまだ生きてるのか? 死んでたら洒落にならないぞ」


 転移する前に勇者が死にましたとか笑い話にすらならねぇよ。


「大丈夫だよ。元から死んでるから」


 天鞠ちゃん、さらりと怖い台詞言わないで。


「そういえば下界で死んでここに召喚されたんだったな」


「結局死因はなんだったの?」


「おっとそうだった。えーと、死因は事故死ってあるな。交通事故だって」


「車にはねられたのかな?」


「んーと詳細はっと……」


 事件が起きた日はハロウィン。宝六郎(22)は勇者のコスプレをして人混みに紛れ、女性の胸部にわざとひじを当てるなどの痴漢行為をしていた。現場に警官が居合わせ、現行犯逮捕されそうになったところを走って逃亡。逃亡時に車道へ出た際、走行中の車と接触して死亡した。


 衝撃の死因を目にして俺は固まる。


 天鞠と天留美は左右から俺に寄り添い、スマフォを覗き込んだ。


「やっぱり人間さんは愚かな存在なのです」


「だよねー。神様はああ言ってたけど、どうしもないよねー人間って」


 二人の口ぶりは呆れ返っていた。


 ちくしょうっ! せっかくうまく諭せたと思ったのにクズイケメンのせいで台無しじゃねぇか! どうしてくれんだよ、この野郎!


 俺は宝をにらみつける。


 宝は白目をむいた状態で水面にぷかぷかと浮いていた。


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