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7Dice  作者: 雨夜冬樹
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俺に双子の天使が舞い降りた!

 横たわる双子の天使を見る。

 双子は二人とも美少女の姿をしている。天使のイメージ通り頭の後ろに光輪があり、背中には純白の翼が生えてきた。


「成功した。ほらね、直視できないような何かは生まれなかったでしょう」


「ああ、そうだな。けどさ、別の意味で直視できない」


 なぜ遠目でも双子が女の子だとわかったのか。

 答えは簡単、天使は真っ裸だったのだ。生まれたばかりだというのに女の子だとわかるぐらいには体の発育が進んでいる。まだ発展途上のようだが。


「とか言いながら、チラチラ見てる。やっぱり晴也はエッチね」


「しょうがないだろ、俺だって男の子なんだから! 気になってつい見ちゃうんだよ!」


「あら、どの辺が気になるの? 詳しく教えてちょうだい」


 ぐいっとダイスは顔を近づけてきた。

 心なしか目が輝いているように見える。


「はあ⁉ なっ、言えるわけないだろ!」


 耳元でダイスは妖艶に囁く。


「いいじゃない? ねえ、教えてよ」


「嫌だ。言いたくない」


「減るもんじゃあるまいし、言ってごらんなさい」


「お断りします」


「素直に教えてくれないと、後であの双子に言っちゃうわよ。晴也がセクハラしてたって」


「ダイスが今俺にやってる行為こそセクハラだっつうの! いい加減しろよ、このスケベ女神!」


 ダイスが指をぱちんと鳴らした。

 神使のポットがぽっと現れ俺の頬を耳ではたく。


「ぼふぅっ!」


 ひ、ひどいっ! 本当のこと言っただけなのに!


 視界の端で動きを捉える。


 横になっていた双子のうちに一人が目を覚ました。

 髪型がショートカットでくるっとしたアホ毛が生えている子だった。


 天使は生まれたばかりの自分の端正な体を興味深そうに観察している。


 一通り見終わると、元気よくばっと立ち上がった。


「ハッピーバースデー!!」


 天使の子が自分自身に向けて叫んだ。

 そして楽しそうに歌い始める。


「ハッピバースデートゥ―みぃー、ハッピバースデートゥ―みぃー、ハッピバースデーディアあたしー、ハッピバースデートゥ―みぃー!! いやっほぅー!!」


 真っ裸のままやたらハイテンションで騒ぐ天使。


 そのやかましさのせいか、もう一人の天使も目を覚ます。

 騒がしい子がショートなのに対して、この子は髪型がロングだった。


 ロングヘアーの天使は寝起きのように呆けていた。少し経って自身が裸であるのに気づくと、顔を真っ赤に染め、慌てて体の大事な部分を手で隠した。


「いえーい!」


 対してショートカットの天使は裸などお構いしないにはっちゃけている。

 その様子を目撃したロングヘアーの天使は目を見開いて驚いた。


「ダメだよ、お姉ちゃん! 女の子が裸で動き回っちゃ!」


 どうやら先に目を覚ました元気な子が姉で、羞恥心のある子が妹らしい。


 俺はダイスにお願いする。


「あのさ、二人に服を用意してくれないか? さすがに目のやり場に困る」


「いいけど、本当はもっと見ていたいんじゃないの?」


「そういう冗談はもういいから、早く服をあげてくれ。可哀そうだろう」


「ふふ、わかったわ」


 ダイスは指パッチンをする。


 畳まれた洋服一式が現れた。


 神使のポットがそれを長いウサ耳で見事にキャッチする。


「あと鏡もいるわね」


 再び指を鳴らすダイス。


 今度は美麗な装飾が施された姿見が現れた。同時に二体のパペットカンパニーも出現する。


 パペットは鏡を支えるように持った。


「あの子たちに渡してきてちょうだい」


 ぬいぐるみの神使たちはトコトコと歩き、双子の天使のもとへ向かった。


「わぁ、なにこのぬいぐるみ、かわいいー!」


 ロングヘアーの髪の子が気づく。


「あれ? この子服持ってるよ。うさぎさん、私たちにくれるの?」


 頷いてポットは天使の前に服を置いた。着替えるように耳でジェスチャーを送る。


 二体のパペットが姿見を立てた。


 あの子たちが着替え始めたので、その間俺は後ろを向いて待っていた。


 しばし経ってからダイスが俺に声をかける。


「着替え終わったわよ」


 振り返って俺は天使の姿を見た。


 双子の天使はフリルのついた白いワンピースを着ていた。純粋さと清潔さが感じられる綺麗な洋服だ。金髪碧眼である双子がその衣装を身にまとう姿はまさしく天使であった。


 頭を揺さぶられるような感覚を覚える。


「かわええ……似合いすぎだろ!」


「私からの誕生日プレゼントってところね。晴也もプレゼントをあげたら?」


「あげるっつっても、俺何も持ってないんだけど」


「物じゃなくてもあげられるものはある。とりあえず、名前でもつけてあげたらどう?」


「おお、それはいいな! んー、名前か……」


 天使ならミカエルとか、ガブリエルって名前が思い浮かぶけど、イメージとは違うな。立派すぎて親近感がわかないし、カタカナだと覚えづらい。


 であれば漢字を使った日本人っぽい名前のほうがいいかな。

 天使だから、わかりやすく「天」の字を入れるとして、後はそれぞれに似合う感じのやつを加えてみよう。


「あははははっ!」


 新しい服をもらったのが嬉しかったのか、ショートカットの天使はくるくると回ったり、跳ねたりしている。元気でよく跳ね回る姿はまるで鞠のようだ。


 一方ロングヘアーの天使はその場に留まり、身だしなみを整えている。耳から上の髪を一部左右で束ね、髪型をツーサイドアップにしていた。加えて服が変にめくれていないか、髪は崩れていないか、女の子らしく気にしていた。


「決めたぞ。ショートカットの子は天使の天に、鞠遊びの鞠で天鞠てまり。ロングヘアーの子は同じく天に、留まると美しさで天留美てるみだ」



「天鞠と天留美、双子の名前っぽくていいわね。悪くないネーミングセンスだと思う」


「そりゃあどうも」


「さっそくあの子たちを呼んでプレゼントしてきたら?」


「おう、じゃあ、えーと……」


 引きこもりのコミュ障であった弊害が発生する。


 あれっ、どうやって呼べばいいんだろ? 名前まだ教えてないし、呼ばれてもわかんないよな?

 てか、あんな可愛い子たちにいきなり俺みたいなキモオタニートが話しかけたらやばくない? 怪しまれて通報されるのでは⁉


 なかなか二人を呼ぼうとしない俺にダイスは声をかける。


「……なに悩んでるの?」


「どう呼べばいい? やべえよ、下手したら通報されるよ。少女誘拐の容疑で捕まっちまうよ!」


「落ち着きなさい。今のあなたは神様なのよ。神様が少女をさらっても誘拐にはならないわ。傍から見れば神隠しになるだけよ」


「神隠しだってやばいだろ! いなくなるという点では一緒じゃん! というか、やらないからな! 誘拐も神隠しもやらないからな!」


「じゃあ、私がやるわ」


 いつの間にか戻ってきたポットが縄ロープを束ねてスタンバイしていた。


「何でだよ⁉」


 ぬわぁーと俺は頭を抱えて悩む。

 せっかく天使が舞い降りたのに声がかけられなーい!


 ダイスはため息をついた。


「しょうがないわね。第一声だけ代わりにやってあげる。第一印象がよくなる呼びかけを晴也の声で私がしてあげるから」


「まじっすか⁉ さすが女神様!」


 あーあーあー、とダイスは声色を調節する。


「えっ、俺の声ってこんなにキモいの?」


「ふだん聞いている自分の声と実際周りに聞こえている声って違うから、そう思うのも仕方ない」


「へぇー、そういうもんなのか」


「若干、キモくしてるけど」


「おいこら、今なんて?」


「はーい、それじゃあ言うわよー」


 俺の声で女性語をしゃべるダイス。


 なんか嫌な予感しかしねぇ……。


 天使に向かってダイスは呼びかける。


「ぐへへ、お嬢ちゃんたち可愛いね。プレゼントがあるからこっちへおいで」


「ぐぼぉはっ!」


 俺は吐血した。

 じゃなかった。精神的なダメージを受け、吐血したような錯覚に陥っていた。


 ひでぇ、ひどすぎる!

 どっこからどう聞いても、いたいけな少女を誘拐しようとする変質者のセリフだよ、これ!


「いえーい」


 ダイスはポットとハイタッチをする。


「いえーい、じゃねえよ! 何決めてやったぜって感じでハイタッチしてんの⁉ 第一印象を悪くするような真似しておいて!」


 ちらりとこちらを見た後、またもやハイタッチをするダイスとポット。


「いえーい」


「話聞けやこらぁっ!」


 ダダダと走る音がした。


「どーん!」


「ぐぼぉはっ!」


 突然お腹に来た衝撃に俺の体はくの字に曲がり、吐血したような声が漏れた。

 とっさに衝突してきたものを抱えこむようにしてしりもちをつく。


「ご、ごほっ。いってー、びっくりし――⁉」


 くるっとしたアホ毛が目と鼻の先にあった。

 鼻孔をくすぐる甘い香り。服越しでもわかる柔らかい体の感触。

 あろうことか俺は天鞠を抱きとめていた。


「くぁwせdrftgyふじこlp」


 言葉にならない悲鳴を吐き出す。


 俺の胸に顔をうずめていた天鞠は顔を上げて笑った。


「あははは! プレゼントって何? ねぇ、何をくれるの⁉」


 間近で見る天使の笑顔は眩しく、無邪気で愛くるしい。

 その笑顔に骨抜きにされ、俺は返す言葉も失っていた。


 とたとたと天留美もやってくる。


「待ってよー、お姉ちゃーん!」


 そして俺と天鞠が抱き合っている光景を目にして固まった。


「あわわわ……」


 またもや顔を赤くする天留美。


 いかん、このままでは本当に変質者と思われてしまう!


 我に返った俺は手をばんざいして、無害をアピールする。


「ええっ⁉」


 急に手を上げたのがまずかったのか、天留美はびくっとして後ずさった。


「ちょっ、待って! お兄さん痛いことしないから! 大丈夫だから! お願いだから逃げないで!」


 なるべく優しく言ってみたもののあまり効果は見られない。

 俺から距離をとった天留美は今にも泣きそうな目をしている。


 むしろ逆効果⁉


 傍観していたダイスは親指を立てた。隣でポットも真似をして耳を立てる。


「いい具合に変質者の台詞になってる。その調子よ、晴也」


「おまっ、誤解を生むような発言してんじゃねぇよ!」


 天留美の瞳から涙がこぼれそうになる。


「神様が……変質者さんに……うぅ」


 額から汗が噴き出した。


「ちがーう! まじで違うから! 勘違いしてるから!」


 天鞠が俺の肩を揺らしてきた。


「プレゼントくれるんじゃないのー? ねえー、プレゼントまだー?」


 ダイスはごほんと咳払いをする。

 あーあーあーと言いながら声色を変えた。


「ぐへへ、プレゼントをあげるよ。お嬢ちゃんたちを大人にするプレゼントをね、ぐへへ」


「やめろおおおっ! 俺の声で変態のセリフを言うんじゃねえ! いい加減にしろよ、ゴラァ!」


 キレ気味の俺の声が轟いた。


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