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7Dice  作者: 雨夜冬樹
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神使錬成

 古代の遺跡のような神秘的な空間で女神ダイスが俺に伝える。


「神になる前にやってもらうことがあるわ」


「さっそくスキルを作るのか?」


「もちろんスキル作りもやってもらうけど、まずは神を手助けしてくれる神使をそろえましょう。神になると言っても、まだ晴也はただの人の子。神としての経験も知識もない。差しあたっては神使から助力が必要不可欠になる」


 神使と聞き俺はダイスの傍にいるポットを見る。見た目は兎のぬいぐるみだが生き物のように動く不思議な存在だ。


「ポットみたいなやつか?」


「ええ、そうよ。他にもいるわ」


 ダイスは指をぱちんと鳴らす。

 すると動物のぬいぐるみが数体現れた。ポット同じように動いている。


『イエーイ!』


 審判の時に観客として騒いでいたファンシーなぬいぐるみたちだ。


「この子たちはみんな私の神使。まとめて『パペットカンパニー』って呼んでるの」


「はぁー凄いな。全部ぬいぐるみだ」


「別にぬいぐるみである必要はない。晴也には人型の神使がお勧めね」


「人型か……」


「あら、神使を持ちたくないの?」


「いや神使は大歓迎なんだけどさ、その、俺、人付き合いが苦手だから、人型の神使とうまくやっていけるか不安で……」


 くすりとダイスは笑う。


「つまらない冗談言うのね。女神の私とは和気あいあいとやっているのに」


「いや、ダイスの場合、ボケが凄まじすぎてその場の勢いでツッコみしてただけだから。必死に食らいついてただけで、このノリで社会とか渡っていけないから。思いっきり浮いちゃうから」


 飛び跳ねたポットが俺の肩をぽんと叩いた。


「気にしすぎよ。そんなんじゃ現代社会を生きてはいけないわよ」


「もう死んでるっつうの!」


「そうだったわね。萌え死の晴也」


「二つ名みたいに言うのやめい! 恥ずかしすぎて悶え死ぬわ!」


「まったく、とんだ恥ずかしがり屋さんね。けど安心して。恥ずかしがり屋の晴也でも、苦もなくやっていける神使を用意するから」


「本当か? 言っとくけど俺のメンタルの弱さなめんじゃねぇぞ。ゴミ出しのときにうっかりお隣さんに会っても、引きこもりである事実を気にしているせいで、まともに挨拶もできず狼狽えるほどだからな」


 ちなみにお隣さんは素敵な笑顔で挨拶してくれました。

 まともに返事もできずごめんなさい。


 ダイスは小首をかしげた。


「引きこもりなのに外へ出れたの?」


「いや、そこよりもメンタルが弱いことを誇るなってツッコんで欲しかったんだけど」


 と言いつつも、ツッコみを求める相手ではなかったと俺は思う。


「たとえメンタルが豆腐でも心配ないわ。神使は晴也から新たに創り出すからきっと気兼ねせずに付き合っていける」


「俺から作り出す? どゆこと?」


「晴也は理想の神使を思い浮かべるの。私がその想像を読み取って具現化させてあげる」


「そんな奇跡が可能なのか?」


 得意げな様子でダイスは自身の胸に手を置いた。


「私を誰だと思ってるの? お忘れかしら? 私は女神なのよ」


「おぉー」


 感嘆した風に俺は反応して見せた。

 ぱっと見ただのコスプレ美少女だけどな。


「わかったならさっそく召喚しましょう」


 ダイスに連れられて、俺は遺跡の内部を移動する。

 遺跡には水路があった。奥にある小さな池につながっており、立体的に張り巡らされている。上部から流れ落ちる水のカーテンは静謐で清らかだ。


「にしても本当に綺麗な場所だな。綺麗すぎて現実の光景とは思えない」


「あら鋭い。察しの通り、現実ではありえない光景なの。光の法則とか、影のつき方とかをちょいちょいいじっていてね。本当ならこういう見え方にはならない。より美しく見えるように調節してあるわ。だから現実の光景というよりかは美麗なグラフィックに近いかしら」


「へぇー、凝ってんだなー」


「当然よ。だって綺麗に見せたほうが神秘的じゃない」


 信者がするならともかく。


「神様が神秘さを演出するってどうなん? 自作自演って恥ずかしくないか?」


「雰囲気っていうのは馬鹿にはできないわよ。神様が前触れもなく自室にぽっと現れて、自分を神だって宣言してもなかなか信じてもらえないでしょ? はたから見たら不法侵入した不審者だもの」


 ある日突然、神と名乗る人物が部屋に現れるシーンを想像した。

 うんうんと俺は頷く。


「神様の恰好にもよると思うけど、怪しいカルト宗教にしか見えない」


「けれども神聖で、いかにも神が降臨しそうな場所に現れたらどう? 恰好はともかく、少なくともありふれた場所に登場するよりか神々しく見えるはずよ。ふだん神を認識できない人の子も、神の存在を受け入れやすくなる。スムーズにやりとりするためにも神聖な雰囲気づくりって大切なの」


「それをわかっていながら、なぜ俺との初対面の時はああなったの⁉ 真っ白な空間に鳴り響く「ハレルヤ」とかは確かに神々しかったけど、ユーモアを狙いすぎて空回りしてた感じになってたよ。女神様、ぜんぜん女神っぽくなかったよ! 最終的には人知を超えた神業で神と認めさせていたけどさ! それだったらもう雰囲気とか関係なくね⁉」


「私はいいのよ、神の力が使えるから。でも、晴也、あなたは違うでしょう? 神の力をまだ使えないあなたには相手に神だと認めさせる証がない。人の子に神として認められないと辛いわよ」


「いや、俺はあんまり気にしないと思うぞ。神になった自覚ないし」


 だいたい人様から神として見られるとか恐れ多いし柄じゃない。


「本当に? 神を名乗る不審者、頭が可哀そうな子、みたいに相手から思われるのよ。しかもその状態で神として振舞わなければならない」


 ボディーブローを食らったような衝撃が俺の心に走った。


「うぐ、それは嫌だな」


「豆腐メンタルの晴也には耐えられないでしょ?」


 豆腐メンタルと聞いて、俺は頭を抱えて唸る。


「やめろー。自分でメンタルの弱さ誇っておいてなんだけど、傍から改めて言われると微妙に凹むからやめろー」


「わかった。なら、ガラスのハートぐらいにしといてあげる」


「それ、さほど違いないだろ。どっちも壊れやすいという点で」


 そうこう話しているうちに小さな池を通り過ぎた。

 泉の先には淡く光る魔法陣らしきものが床に描かれている。


「着いた。本来は勇者を召喚する場所だけど、ここで部下を作り出して召喚するわ。まずは私の手を握ってくれる?」


 ダイスはすっと綺麗な手を伸ばす。


 俺はごくりと生唾を飲み込んだ。


 やべぇ、女の子の手なんてまともに握った覚えがねえぞ。

 しかも女の子どころか相手女神だし。

 いいのかな? 普通に握って大丈夫なのかな?


 うわっ、どうしよう、変な汗が手に浮かんできた。こんな汗で湿った手じゃ女神様の手を握れねぇよ。不敬だよ。


「ねぇ、早く握ってよ。いつまで待たせるの?」


「う、ウエイト! プリーズウエイト!」


 焦りすぎてなぜかジャパニーズイングリッシュが口から飛び出す始末。

 せめて手の汗が引くまで待って!


 ダイスの背後にグリーンバックならぬ緑色のパネルが現れる。よく見ると後ろで必死にポットがパネルを上げていた。


「ジャストドゥーイット」


 おおおー⁉

 やらなければいけない気がする。


 俺の中に宿る熱い魂が叫んでやがる。

 今やれることをなぜ今やらない? やれ、とにかくやるんだ! ポットだってあんなに頑張ってるじゃないか!


 やればできる。俺ならできる。

 できる、できる、できる――。


「うぉおおおおおおーー!!!」


 汗でしっとりした手で俺はダイスの手を握ろうとする。


 ひょい。


 触れそうになった瞬間、ダイスは手をひっこめた。


「さすがにそのテンションで触られるのはちょっと……」


「ファッツ⁉」


 行き場を失った手も戻せず、俺はそのまま石のように固まった。


 なにこれ死にたい。


 やがてショックで首を垂れると、ダイスは下から俺の顔を覗き込んだ。


「あら、泣いてるの?」


 鼻をすする。


「な、泣いてねぇよ。勘違いすんな。男はそう簡単に泣いちゃいけないんだぜ」


「ふーん……でも目がウルウルしてる」


「これは、あれだよ。手だけじゃなく、目からも汗が出そうになってるだけなんだよ。俺は汗っかきなんだよ、畜生!」


「今時珍しい言い訳ね。手だけじゃなくて言い訳までもベタベタになってる」


「うっさい、ほっとけ!」


 ぱしっ。


 宙ぶらりんになっていた俺の汚い手が綺麗な手で握られる。


「冗談よ。汗かいてたって気にしないわ。いじわるしてごめんね」


 優しく手を握ってくれたダイスに後光がさしているように見えた。


「あ、あああ……」


 感動で涙がこぼれそうになる。

 俺みたいなキモオタの汗まみれの手を握ってくれるなんて!


「ふふ、ちょろいわね。これで晴也は私に惚れるわ」


 涙がすっと引いた。


「……そう思ってなければ惚れてたかもしれない」


「っ⁉ 心を読まれた⁉」


「いや、読んでねえよ! 心の声が駄々洩れしてんだよ! ったく感動して損した!」


 目をそらしながらダイスは咳払いをする。


「……さぁ目を閉じて。集中して。具現化したい理想の神使を思い浮かべるの。手をつないでいる今なら、イメージを読み取れるから」


 言われた通り俺は神使の姿を想像する。

 仕事を手助けしてくれる人と言えば、やっぱ秘書だよな。

 秘書っていうとビジネススーツ姿のお姉さんかな。

 クールで知的で、眼鏡をかけていてセクシーな感じでさ。

 その上能力が高くて、仕事がデキる。

 ああ、いいなぁ美人秘書……。


『ふむふむ、晴也はクールなお姉さん系がタイプと』


 いやはや、タイプってほどじゃなけいど好きなのは間違いないかな……。

 って、誰だ⁉ 俺の脳内に直接語りかけるこの声は⁉  


『誰って、私しかいないじゃない。婚約者のダイスよ』


 マブダチどころか婚約者になってるぅ⁉

 いやいや、なに俺の承諾なくしてさらっと関係進んでんの⁉ 俺たち友達になったばかりだよね⁉


『ひどい。小さい時に約束したじゃない。大人になったら結婚しようって』


 そんな家が隣同士で毎朝起こしに来てくれる幼馴染みたいなポジションにいつからなったんだよ! 約束とか知らんわっ!


『ふむふむ、晴也は面倒見の良い幼馴染系はタイプじゃないと』


 だから人の好みを勝手に決めるなよ!

 どちらかといえば好きな方だよ。面倒見の良い幼馴染、密かに憧れてたよ!


『ストライクゾーンが広いのね。さすが主人公。だてにハーレムライフを夢見ているわけじゃないようね』


 あの、人の頭の中でごちゃごちゃ言うの止めてくれます? 集中できないんで。


『ふふ、わかったわ。けれど、一つだけ忠告させて。イメージする神使は神の傍にいてふさわしい存在を選ぶのよ。さっき話したでしょ。神として認めさせる雰囲気づくりが大切だって。それは場所だけでなく、仕えさせる神使も含まれる』


 なるほど、じゃあ秘書だとおかしいか。

 ビジネススーツ姿のお姉さんが神様の隣に立ってても変だよな。


『その通りよ。勇者候補に神だと認識させるためにもよく考えて決めてね。神使とはこれから長い付き合いになるのだから、慎重に決めるといいわ』


 うっす、了解っす。

 神の傍にいてふさわしい存在か。

 またはいてもおかしくない存在……。

 となると思いつくのは一つだな。


 俺はとある存在を想像する。

 うしっ、決めた!


『それでいいのね? 一度決めたら変更できなくなるけど』


 オッケーだぜ。それ以上にふさわしい存在を思いつかないからな。


『わかった。後はどんなタイプにするか決めるのよ。うまくやっていけそうな子を想像してね』


 俺の性格からしてあんまりガツガツ来るタイプだと辟易しそうだ。あれこれ指図されるのは嫌だし、理想的なあり方を強要されるのも面倒だからな。


 そう考えると大人しくて守ってあげたくなるようなタイプのほうがいいか。あまり自己主張はせず、影ながら支えてくれるような奥ゆかしさを持っている感じの。


 いやしかし、サポートの面からすれば積極性があったほうが俺としては助かる。神として未熟な俺に至らぬ点を指摘してくれる存在は必要不可欠だ。


 あと指摘と言えば、ツッコミができるといいな。ダイスがいるのに、これ以上ボケ担当が増えたら俺一人じゃさばききれない気がするし。


 うーん、だが積極的でツッコミができるとなると、あれこれ言ってくるようなガツガツしたタイプになりかねない。


 ならツッコみはするけど大人しい感じで、かつ積極的なサポートができて影ながら支えてくれる――。


『晴也、少しいいかしら?』


 なんだ、ダイス?


『全然イメージがまとまらないんだけど』


 ですよねー。俺もわけわからなくなってきたもん。


『慎重に決めてとは言ったけど、このままじゃいつまで経っても決まらない』


 わかってるよ。絞ればいいんだろ?

 いくら理想の部下と言っても、全て思うままとはいかないよな。両立できない個性ってのがあるだろうし。


『両立……その手があったわね』


 ダイスの手が離れる。


「もう目を開いていいわ。イメージはまとまったから」


 驚きで俺の目が見開いた。


「マジかよ⁉ 期待してもいいのか?」


「えぇ、もちろんよ。きっとあなた好みのいい部下が作れるわ」


 ダイスは魔法陣から少し離れた場所まで移動する。

 指をぱちんと鳴らした。

 すると魔法陣の輝きが強くなり、青い稲妻が走り始めた。


「おぉー、すごい!」


 俺は迫力満点の演出に感嘆する。

 まもなくして得体の知れない黒い靄が出てきた。


「すごいけど……大丈夫か、これ? はは、犯してはならない禁忌に触れてる気がするのは気のせいだよな?」


「大丈夫よ。ちゃんと等価交換の原則には従ってる」


「やっぱりやべえやつじゃねぇか! おい、どうすんだよ! 直視できない何かが出来たらどうすんだよ!」


「心配ないわ。死者を蘇らせるわけじゃないのだから」


 遺跡全体が揺れ始めた。

 立ち上る黒い靄は空まで黒く染める。


 稲光が空を駆け巡り、ゴロゴロと雷鳴が轟く。

 次の瞬間、視界が真っ白に染まった。


 眩しさのあまり俺は反射的に目をつむってしまう。

 バリバリと鳴り響く雷鳴。

 その轟音に当てられて、キーンと耳鳴りが起きる。

 どうやら崩落した天井から雷が落ちてきたようだ。


 ゆっくりと俺は目を開く。

 真っ暗だった空は徐々に晴れ、消えゆく雲間から光が差し込んでいる。

 光りは放射状に降り注ぎ、吹き抜けの天井より魔法陣まで届いていた。


 光りが差すかの場所には、双子の天使が横たわっていた。


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