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7Dice  作者: 雨夜冬樹
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一級フラグ建築士

『ハーレルヤ、ハーレルヤ、ハレルヤ、ハレルヤ、ハレルーヤ!』


 祝福をするかのごとく「ハレルヤ」が流れる。


『イエーイ!!』


 騒ぎ立てるぬいぐるみのファンシーな観客たち。

 花火までもが打ち上げられ、あたりはお祭りムード一色になっていた。


 かくいう俺は何が起こっているのか正直よくわかっていない。

 異世界行が決まったぜ、よっしゃあああっ! とか思っていたらなぜか神になるとか言われる始末。

 展開が飛躍しすぎて置いてけぼりポンポンポンの状態であった。


 頬から女神ダイスの手が離れる。


「ついてきて」


 宙に浮いたままダイスはいずこへと飛んでいく。

 そのままぼうっとしているとお尻を誰かに叩かれた。


「いてっ!」


 足元にダイスの神使であるポットがいた。長いウサ耳を器用に動かし俺のお尻を叩いたのはこいつだった。

 ポットは耳でダイスの方を差し、ついてくように急かす。


「わかったよ、行けばいいんだろ」


 ダイスの背中を俺は追いかける。


「ちょっと待ってください、女神様!」


 女神様と呼ばれたダイスがぴたりと止まり、振り返った。

 ロリータ風の洋服がひらりと優雅に揺れる。


「位は違うけどあなたも神になるのだから、私のことは遠慮せずに名前で呼んでいいわ」


「えっ、じゃあ、ダイス様?」


「様はつけなくていい」


「いきなり呼び捨てですか? 呼んだ後に、さんをつけろよデコ助野郎! とか言いません?」


「言わないわ。さんもつけなくていいわよ、デコ助」


「いや、晴也です」


「気にせず試しに呼んでみて」


 いきなり女神様を呼び捨てにするのは畏れ多いが、本人がいいと言うなら普通に呼ばせてもらおう。


「ダイス」


 呆れたようにダイスはため息をついた。


「つまらないわ。もっと照れながら言ってよ。付き合ってからしばらく経って、互いを名前で呼び合おうとするけれど、照れくさくてなかなかうまく言えないカップルみたいに」


「いやよくそんな恥ずかしい要求を照れもなく言えますね。俺だったら照れくさくて言えませんよ」


 というか彼女いない歴年齢の俺にカップル風の反応求めないでくれ!


「あと、敬語も必要ないわ。ため口でいい」


 俺は腕を組んで考える。


 んー、見た目はちびっ子だしため口で接しても違和感はない。けど綺麗すぎるから別世界の存在って感じがしてつい敬語を使いたくなっちゃうんだよな。現に女神だし。まだ会って間もないのもある。


「俺は敬語でもいいと思いますけど」


「嫌よ。私を笑わしてくれた人が敬語でしか話してくれないなんて……」


 ダイスはぬいぐるみのポットを抱えた。

 ポットを抱えたダイスの姿はなんだか少し寂しそうに見えた。


 まぁ名前だけ呼び捨てだと変だし、ずっと敬語で喋るのも疲れる。お言葉に甘えてこれからはため口で話させてもらおう。


「わかりまし――じゃなかった……わかったよ、ダイス。これからはため口で話させてもらうぜ」


 ひょいっとポットはダイスの手から離れる。


「ふふ、ありがとう。私たちもうマブダチよね?」


 ダイスの目がキラキラと輝いた。


「距離の詰め方が極端すぎる⁉ 出会ってまだ一時間も経ってないのにもうマブダチ⁉」


「ダメかしら?」


 俺に近づき上目遣いで見つめてくるダイス。

 古典的だか効果的なアプローチに俺は目を泳がせる。


「だ、ダメじゃないけどさ。まずはその、友達からでいいじゃん」


 くるりと振り返りダイスは片手を頬に当てる。


「そうよね。ぼっち生活に身も心も染まってしまった晴也にはまだ早かったみたい。女神の友達にも免疫ないだろうし」


「ぼっち言うな! つうか女神の友達に免疫持ってる男子なんて地上にいねぇよっ!」


「そもそも地上に女神はいないわ」


「自分でツッコんだ⁉」


「……やっぱりキャラクターが足りないようね。うん、そうしましょう」


 謎の発言を呟き、再びダイスはどこかへと進み始めた。

 その小さな背を追いかけながら俺は声をかける。


「なあ、これから何しに行くんだ? 俺が神になるってどゆこと? 色々と聞きたい話があるんだけど」


「ついたら説明するわ。とりあえず今はついてきて」


 言われた通り俺はダイスの後ろを歩く。

 周りは暗く、道と呼べるものもない。

 星のような光が無数にあり、宇宙を歩いている気分になった。


 前方に見覚えのある緑色のピクトグラムが現れる。


「……神の世界にも非常口ってあるんだ」


 絵文字の下でダイスは止まる。

 おもむろに手を伸ばした。


 なんと空間が裂けた。果てしなく広がっていた宇宙みたいな空間に縦穴がぽっかり開いた。

 穴の先から光が差し込んでいる。向こう側はここより明るいらしい。


「さぁ入って。ここであなたは神になるのよ」


 穴を抜けるとそこは古代の遺跡のような場所だった。

 趣ある崩れた石柱が立ち並び、ところどころに瑞々しい緑が生い茂っている。

 崩落した天井から見える青空は澄み切っていた。


 その美しい光景に言葉を失う。

 棒立ちしている俺の横をダイスは通りすぎる。


「ふふ、どうかしら? 神が登場するにはふさわしい場でしょう。以前暇つぶしにフライデーナイトショーの映画に出てきた舞台を参考にして作ったの」


 フライデーナイトショー⁉ 女神が毎週金曜日の夜にやってる映画の番組を見るの? まじで⁉


「てか、これって神が人間の創作物をパクってない?」


「パクリじゃないわ。オマージュ、もしくはリスペクトよ。だいたい今までさんざんネタ発言を繰り返し来たのに、そういうのは今更気にしてもしょうがないわ。もう手遅れ」


「ええええええ⁉」


 いっそ清々しいほどの開き直りっぷりに、俺は驚きの声を叫ばずにはいられなかった。


「晴也にはここで神になってもらう。下界から送られてくる勇者候補にチートスキルを授けて、その勇者を異世界に転移させるの」


「へぇー……ダイス、一ついいかな?」


「何かしら?」


「普通逆じゃないか? 俺が異世界転移する勇者じゃないの? これからワクワクドキドキの異世界ライフが待ってるんじゃないの?」


 どこか遠くを見つめてダイスは呟く。


「晴也……もう物語は始まっているのよ……」


「あの、意味深な台詞で流そうとするのはやめてくれます? これ、どう見てもミスキャストだよね? 引きこもりのニートが神様になるっておかしくない?」


「それを言うなら、引きこもりのニートが転移して勇者になるものおかしくないかしら? 私、ずっと疑問に思ってた。どうして異世界に転移する救世主にオタクやニート、学生ばかりが選ばれるの? 救世主にするなら戦闘に優れた特殊部隊のタフガイにしたほうがよくない?」


「その理屈だと勇者はモロトリックス大佐みたいな筋肉モリモリマッチョマンの変態ばかりになるぞ。それはそれで違和感はんぱねぇ」


「それもそうね。いくら強い勇者にしたいからってマッチョだらけじゃシュールすぎるわ。何でもかんでも合理性を追求すればいいってわけじゃないみたい」


「だろ? だから一見不合理だけど勇者にオタクやニート、学生が選ばれるのは変じゃない」


「その理屈なら引きこもりのニートが神様に選ばれるものもおかしくないわよね?」


「うん、そうだな! ……あれっ⁉」


 おかしいな。いつの間にかダイスの話を受け入れてしまっている。

 うーんと俺が思い悩んでいるとダイスは首を傾げる。


「晴也は神になりたくないのかしら? 不思議ね。勇者と神なら、神になりたいと思わない?」


「そうだろうか?」


「だって勇者だとせいぜい手に入れられても世界の半分よ。神なら世界の全てを手中にできる」


 それだと勇者闇落ちしてね? 勇者、魔王と取引しちゃってるよ!


「いや、まぁ確かに神様のほうが勇者よりもできることは多そうだけど、なんかこう俺的には当事者でありたいっていうか、クリエイティブモードよりサバイバルモードで遊びたいっていうか……」


 ポットが耳でテシテシと俺のわき腹を軽くつつく。

 ダイスはにやにやと微笑んだ。


「ようするにハーレムライフをおくりたいわけね。もうエッチね、晴也は」


 身も蓋もねえっ! だけど否定できないのが悔しい!


「いいわ。なら神の役目を一度でも成し遂げたら、特別に異世界転生させてあげる。勇者にでも魔王にでもなって、ただれた異世界ライフを満喫すればいいわ」


「いや、魔王にはならねぇよ。あと、ただれたとか言うな」


「別に口出す気はないから。役目を終えたらどうぞご存分に楽しんでいらっしゃい」


 言い方にわずかばかりトゲを感じる。


「して、その役目とは?」


「勇者に魔王を倒させるの。転移で送られた勇者が魔王を倒したら任務完了。神である晴也は勇者が魔王を倒せるように、いい感じのチートスキルを授ける」


「ほほう、チートスキルってどんなやつ?」


「わりと何でも作れる。強化系、放出系、操作系、物質系、具現化系、変化系――」


「それスキルっつうよりオーラを操る能力なんじゃ……。けど自分で作れるのか。なら楽勝だな」


「あら、ずいぶんと自信があるようね?」


「だってぼくがかんがえたさいきょうのチートスキルを授けられるんだろ? 俺は異世界転移・転生ものの小説が好きでさ。いくつものすごいチートスキルと成功例を知ってる。俺にかかればこんな任務朝飯前だぜ!」


 ポットが両耳でパチパチと拍手を起こす。

 ダイスはわざとらしく口を手で隠した。


「まあ、なんて見事な失敗フラグ。たった今、ぜんぜん任務が達成できないフラグが立ったわ。晴也、あなたにはフラグ建築士の素質があるみたいよ」


「うっせえな! んなフラグ叩き折ってやらあっ!」


 とさらにフラグを立ててしまう俺であった。


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