イてみました
「やっぱ、鷲津先輩に似てるね」
矢をつがえず引いた射型を見て言われた。
水高では、新入生全員に部活動への入部が義務付けられている。理由は生徒の非行を防ぐとかなんとか。退部するのは別に止めないらしいのでこじつけのような気もする。
弓道部には女子4人男子は3人が入った。
女子は私と茶髪の鈴森さん、ひょろりと背の高い水田さん、少しふっくらした吉本さん。男子は黄色熊におっさんテイストを加えた笹本くん、ガタイのいい木こりのような山田くん、そして眠そうな橋本くん。
彼も同じ部活だった。
正直、意外である。幽霊部員として入る都合のいい部活は他にある。この弓道部はボンクラ校のなかでもわりとまともなところで、インターハイや地区大会優勝も近年している。気だるそうな彼に、真面目な部活動はややミスマッチである。なぜこの部活を選んだのか謎である。
しかし、一緒にいられるのは素直に嬉しい。
半月もすると、私たちは早速弓に触れていた。
実際に持つ弓は案外軽い。ただ、まだ思うようには引けない。からだの筋肉が弓を引くことに慣れていないのだ。
「山田は肩上げすぎ、笹本は顔を正面に向けて、女子はもう少し引き分けの時に引けるといいね」
指導してくれるのは白木先輩だ。小さい先輩である。
「鷲津さんはもうほぼ形はいいね。橋本は、形いいからもうちょい目を開け」
いつみても眠そうな彼に、先輩は無理難題をいう。
彼が言われたのに、何となくモヤモヤする。
じっと彼の見えない角度から彼の射形を観察すると、やや小柄なからだの割にがっしりとしている。広い肩幅や筋肉の張った太い腕。
(変態か?私は)
何かひどく彼に悪いような気がして、視線をはずし弓の練習に戻った。
「おーし、女子は県総体に参加してもらうから。今日最後に巻き藁打ち練習して的前練習するぞ。中ったやつにはジュースな」
初めてたった射場に緊張したのか、気持ちが落ち着かないせいか、私の初めて射た矢は右上に大きくそれていった。
しかし、ほとんどみな似たようなもので、矢が地面を滑走するものや的には掠りもしなかった。
一人だけ、橋本くんはジュースを勝ち取った。
巻き藁→太鼓大の藁を束ねたもの。ふつうは台にのせて使う。かなり重い。鏃の丸い専用の矢を使用して練習する。
射場→射手が立つ場所。射手が5人たつ場合、的に向かって右から大前(一番目の射手)、中前(二番)、中(三番)、落ち前(四番)、落ち(五番)と並ぶ。