ホレました
進学先の高校はいわゆる低辺高と呼ばれる場所だ。
鷲津知は目の前にいる集団を見て改めて実感した。
この春、めでたく高校生となった。家から自転車で40分。
偏差値は県で2番目に低いこの水産高等学校は、地元民からは水高と呼ばれている。バカと不良が多いことで有名だ。
親には他の高校があるだろうとごねられたが、話し合いをしたら大人しくなった。
駐輪場にある自販機の前でたむろしているのは上級生だろうか。腰パンとパーカー、ガラの悪い人相をした男子たちが5人いる。
なるべく目を合わせないよう愛車をとめ、鍵を閉める。
「あれ、Kクラの鷲津じゃね?」
「あー、鷲津先輩の妹なんしょ?」
自分のことをあれこれ言われているのには気づいたが、素知らぬ振りで教室に向かう。
「マジかわいくね?ここもこれだし」
「おまえ彼女いるだろうが」
後ろからそんな会話が聞こえた。
何ともいえないキモさがあるが、こういうのは無視に限る。下手に目をつけられるのはごめんである。
教室には人がまだまばらだった。
窓際の一番席にある自分の席について思う。
(まだ来てない。)
隣の席にはまだ誰もいない。
鞄から読みかけの本を取りだし、時間が過ぎるのを待つ。
(今日は、彼が部室に来る)
昨日盗み聞きした彼の少ない会話の中で、今日の放課後、知の入部した弓道部に見学しに来るという情報があった。
(入部してくれたらいいな。)
カレは朝礼に来た担任とそう違わないタイミングで、友人と教室に入って来た。今日も眠そうな顔をしている。一重の目は開ける気があまり無いのか、糸目である。
(寝癖で髪が跳ねている。あ、アクビした。)
細くて小柄で糸目で影の薄い橋本くん。全然タイプではない。
しかし、
私は彼に惚れました。