9.< 初体験 >
実は、桃美は、ラブホテルという場所に足を踏み入れた経験が一度もなかった。
内心、どんな所なのか、とても興味があった。
これってスケベ心なのか? いや、好奇心旺盛なだけだろう。そう、自分に言い聞かせた。
ラブホテルの入り口で、ダイゴがある部屋を選んだ。
そして、二人でエレベーターに乗った。
36歳にして、意外にも初めてのラブホテル。大胆な自分がそこにいた。
部屋に入ると、大きなスクリーンに大きなベッド。広い部屋。何もかもがエロモードだった。
ソファーに座ると、彼も隣に座った。居心地のよい、ソファーだった。
その場で、チャットルームの話を少し交わした。
「いただきまーす。チャットのみんな、ごめんねー。」
そう言いながら、ダイゴは桃美を包み込むように抱いた。
桃美は、内心、何がごめんねーなんだろうと不可思議に思っていた。
後でわかったことだが、当時、少なからず桃美ファンなるものがチャット内にいた。
もちろん、文字だけの世界のため、妄想のファンである。
ごめんねとは、そのファンたちへの、勝ち誇ったダイゴなりの言葉であったことに、
数日後、気がついたのである。
いただきますという意味不明な言葉には、何故だか悲しい気持ちでいっぱいになった。
女性として、人間として、虚しくなった。
数時間の時の流れの中、ダイゴは、桃美にとても優しかった。
けれども、傷ついた心は、一枚の羽衣で、見せ掛けの癒しを得ただけであった。
(ダイゴには、二度と会うことはないだろう・・・)
そう、確信した日となった。