15.<集団メッセンジャー>
毎晩、繰り広げられる、異次元空間、それが、チャット。
そこで時間を費やす方向性はそれぞれかもしれないが、
皆に共通していえることは、各自、楽しむためにおしゃべりをしにくる、ということ。
その楽しみ方の幅は、想像よりも大きかった。
大人社会では、表と裏が当たり前である。
「本音とたてまえ」「社交辞令」
それが、世の中の暗黙のルールみたいなもの。
チャットでは、そのルールが不必要なはずだった。
桃美は、チャット内の人たちが、本音で会話をしているものとばかり思っていた。
文字だけのつながりであるが、親しくなり、終始笑顔で語り合う仲。
とても楽しく、あたたかい時間の流れに感じていた。
そう、そう思うことが、桃美の悪夢のはじまりだった。
チャットと同時に、メッセンジャーでも話す仲間たち。
その仲間は、月日の経過と共に、人数を増していった。
仲間数名で話していたある日、桃美の口が歪むような、やるせない光景を目にした。
桃美の目の前で繰り広げられたものは、チャット内の特定人物の悪口。
チャット内の行動批判ならまだましだが、明らかに、人のあげ足をとるような発言・・・。陰口・・・。
しばし、文字を打つ手が止まり、パソコンの画面を流れていく文字を目で追った。
「あいつの発言、嘘ばっかだよなー。」
「あの人、来れない様にしちゃおうか。」
「絵文字がウザイんだよなー。」
さっきまで、笑顔で楽しく話していた会話とは、180度違う、セリフが羅列された。
これが、すべての始まりだった。
いったん始まった悪口というものは、止めるものがいないかぎり、
どんどんエスカレートしていく。
学生時代のいじめの図式にに類似した現象であった。
桃美は、この悪質な行動を、低レベルでくだらないと判断し、反撃をするようになる。
正しいことは○、間違っていることは×と、白黒はっきりつける性分だったがゆえに、
誰に相談することもなく、そういうことやめなよと皆に言った。
現実社会でこのような行動をとると、どうなるのか。
どうだろう。間違いなく、仲間はずれ・いじめの標的・・・だ。
ネットでは、わかってもらえなければ、会話が合わなければ、
その人と離れればいいやと安易に考えていた。
けれども、いい大人なんだから、きっとわかってもらえるはず!!!
と勝手に思っていた桃美。
あまりにも、純粋な心の持ち主である。
正義ぶった桃美のその行動は、即日かなりの波紋を呼んだ。
そのメッセンジャー内の悪口の文字は、コピーペーストで、パソコンに保存することもできる。
桃美は、文字をそのまま保存し、証拠にしようと動いた。
すぐに、証拠の文字を、悪口を言われていた当人に見せた。
これで、多くの人が、正しい動きをしてくれるだろうと予測していた。
ところが・・・・・・。