11.<彼はバーチャル>
SNSサイトを通して、次の異性とも親しさが増していく桃美。
つながりのある人へ、メッセージを残すことができる仕組みであったからである。
当然、そのメッセージは、誇張の文字を残す人が多い。
おべんちゃら、というやつである。
ありえないほどの褒め言葉が、日常茶飯時、飛び交う世界だった。
人は褒められすぎると、有頂天になり、自分を見失いやすい生き物である。
多くの人が、このサイトで、その落とし穴に、はまっていく。
SNSサイトで親しくなった異性の名前は、マサヒロ。
文字だけを見ていると、母性本能をくすぐるやんちゃ坊主のイメージの人だった。
チャットに来ていた縁もあり、こちらのサイトでも、仲良くしていた。
携帯電話というものは、便利な魔物であった。
自分だけの連絡ツールであるため、異性とのやりとりも、家族に知られずに容易にできた。
マサヒロとも、携帯電話で、メールや声の交流をするようになっていく。
異性との会話は、若い頃の自分に引き戻してくれる。
相手も、そうである。
まるで、お互いに、高校生同士のような、言葉のキャッチボール。
まさに、青春、という妄想であったような気がする。
次第に惹かれあっていく二人。
そうなるまでに、時間はあまりかからなかった。
ある日、桃美から、マサヒロに写真を送信した。
「可愛いね」と、いう言葉をもらった。
数日後、マサヒロからも写真が届く。正直言うと、まったくタイプではなかった。
でも、好きという気持ちは、すでに、マサヒロに向かっていた。
(バーチャルの恋愛でいい、私に恋して欲しい・・・。)
桃美は、トオルからの傷を癒したかった。
遊びの恋愛をしたいのか、人を好きになりたいのか、さまよっていた、2006年8月。
後先を何も考えないで、桃美の中の 「女」が、どんどん開花していく。