10.<異性の糸>
文字というものは、視覚から脳に飛び込んでくる。
通常生活の声対声の会話は、耳から脳を刺激する。いわゆる聴覚からの刺激。
人間は、どちらの方が、より鮮明に「言葉」が心に残るのだろうか。
文通恋愛を経験したことがある人には理解できるだろうが、この相違は大きい。
メールの文字、チャットの文字、いずれも、ひとつの写真画像のごとく、
心のシャッターを押し記憶のアルバムに鮮明に貼られる。
これが、言葉のまやかし、の罠である。
手書きでもない、機械の文字に、心を奪われてしまう経験を一度すると、
そういうシュチュエーションが恋しくて仕方のない状態に陥る。
ラブホテル初体験をした桃美、36歳。
生まれて初めて味わう、ごちゃまぜの複雑な心境だった。
ダイゴとの仲は、その後、チャット内だけとなった。
文字からの刺激が欲しい。
(誰でもいいから、私にラブメールをして・・・・。)
毎日思う、心の叫び。どうすることもできないでいた。
そんな時、SNSサイトなるものに出合う。
日記方式のこのサイトは、やり場のない桃美の心の葛藤を受け止めてくれた場所でもあった。
日々、そこに依存する毎日が続く。桃美なりに、自由に日記を書いては楽しんでいた。
ネット友達を招待することも出来、何名かつながりを持ち、交流をした。
すぐに、その中の一人の異性と、親しい仲になっていく。
トオルにリアルに会ってから、わずか、2週間後の出来事であった。