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第九話「エミリアの新装備」

 〈バーナーの武器・防具専門店〉


 広い店内には様々な武器や防具が置かれていた。アイテムの種類が豊富で、何でも手に入りそうな感じ。ゲレオン叔父さんが営む道具屋でも、護身用の武器は取り扱っているけれど、モンスターと戦うための物ではない。ここはモンスター討伐を生業としている冒険者向けの専門的なお店の様だ。


 今日の予算は千クロノ。アイテムの相場がわからないから多めに持ってきたけれど、これだけあれば足りるはず。


 ヘルフリートは嬉しそうに店内を飛び回って、商品を楽し気に眺めている。武器は、短剣や長剣や斧、それから槍や槌、弓などが置かれている。防具は革製の軽装から、金属製の全身を覆うタイプの物、盾やヘルメット等が置かれている。


 私達が商品を見ていると、カウンターの奥からはゲレオン叔父さんの友人、アダム・バーナーさんが出てきた。白髪で背が低く、筋骨隆々。昔は戦士として世界中を旅していたのだとか。


「やぁ、ゲレオンの所のエミリアちゃんじゃないか! 久しぶりだね」

「お久しぶりです。バーナーさん」

「エミリアちゃんが俺の店に来るなんて珍しいな。何か装備を探しているのかい?」

「はい、実はガーゴイルを召喚したので、ガーゴイルのための装備を探しています」

「ほう、ガーゴイルのための装備か! 自分の召喚獣を守るために武器や防具を装備させるのは良い事だぞ。どんな物を探しているんだい?」


 ヘルフリートは私を見上げて、ダガーのコーナーを指差している。きっとダガーが必要なんだわ。私は武器に関する知識はほとんど無いから、ヘルフリートの判断に任せよう。


『ダガーを探している。小さめで安くて頑丈な物』

「実はダガーを探しています。安くても丈夫な物ってありますか?」

「ダガーか、それならこれはどうだろうか。持ってみてくれ」


 バーナーさんがヘルフリートに渡したダガーは、刃渡りニ十センチ程の物だった。ヘルフリ―トの体には少し大きいかもしれないわね。銀色の美しいダガーで、柄には魔石が嵌っている。


「この武器はルーンダガーと言って、魔石には使用者の魔力を強化する魔法が掛かっているんだよ」

『これはなかなか良さそうだね。そうだ、さっき話していたエンチャントを見せてあげるよ』

『本当?』

『あぁ』


 ヘルフリートはダガーを右手で持つと、魔法を呟いた。すると、刃の表面を覆う様に炎が燃え始めた。これがエンチャントなんだ。凄い魔法……。


「エミリアちゃんのガーゴイルはエンチャントまで使えるのか! これは驚いた。一体どれだけ賢いガーゴイルなのだろうか……」

『ヘルフリート、エンチャントってそんなに難しいの?』

『基本的な属性魔法が使えるなら難しくはないよ、エミリアも練習すれば使えるようになるはず。召喚獣がエンチャントを使う事は確かに珍しいかもしれないな』

『そうなんだね。ヘルフリート、このダガーでいい?』

『ああ、これにしよう』


 ヘルフリートは嬉しそうにダガーを持って微笑んでいる。彼がこの武器が気に入ったなら、これに決めようかな。


「バーナーさん、このダガーはいくらですか?」

「これは百五十クロノだよ」

「分かりました」


 私は財布を取り出して百クロノ金貨を二枚渡した。


「百クロノ金貨二枚だから、十クロノ銀貨五枚のお返しだよ」

「ありがとうございます」


 それにしても、ダガーがこんなに安いなんて思わなかった。武器って思ったより高くないのね。もっと高いのかと思っていた。


『ありがとう、お金はいつか返すからね』

『気にしなくていいよ』

『そういう訳にもいかないな。年下の少女にアイテムを買ってもらうなんて……』

『少女って言わないでよ! ヘルフリートは私の召喚獣なんだから、私がアイテムを買ってあげるの! その代り魔法を教えて頂戴ね』

『勿論だとも。任せてくれ』


 ヘルフリートがダガーを持ち運ぶためにも、ベルトみたいな物があった方が良さそうね。


「ダガーを持ち運ぶためのベルトみたいな物って売ってますか?」

「あると言えばあるが大きさがな……ちょっと待っていてくれ。すぐに縫い直すよ」

「ありがとうございます! よろしくお願いします」


 バーナーさんは子供用の皮のベルトをヘルフリートのウエストに合わせて作り直してくれた。ダガーの鞘にベルトを通してから、腰にベルトを巻くと、ヘルフリートは満足げに微笑んだ。


『これは良い! 飛行中も武器を抜く事も出来るし』

『そうね、なかなか似合ってるわよ』

『ありがとう。そうだ、エミリアのための装備を買った方が良いな』

『私のための装備? 私は必要ないわよ』

『防具は必ず身に着けた方が良い。戦い慣れていないのだろう?』

『確かに戦い慣れていないけど……』

『モンスターとの戦いでは防具も必要だ。ローブだけを羽織って魔術師を気取っている若者も居るが、熟練の魔術師は、ローブの下に戦士も顔負けの頑丈な鎧を着こんでいるものだ』

『そうなの?』

『ああ、俺もかつては白金の鎧を全身に身に着けていた。その上から魔法攻撃に耐性のあるマントを羽織っていたよ。全て魔王ヴォルデマールに破壊されたがね……』

『確かに。ヘルフリートに関する本で読んだ事があるわ。白金の鎧に魔法耐性のマント。やっぱり私も防具が必要なのね……』

『そういう事だよ。さて、早速防具を選ぼうか。軽くて動きやすい物でお勧めは無いか聞いてみてくれ』

「バーナーさん、自分のための防具も探しているのですが、軽くて動きやすい物はありますか?」

「エミリアちゃんの防具か。少し待っているんだ」


 バーナーさんはそう言うと、店の中を走り回って防具を両手いっぱいに抱えてきた。バーナーさんが持ってきた装備は、銀色の美しいセット装備だった。メイル、ガントレット、フォールド、グリーブの四種類。随分高そうだけど、手持ちのお金で買えるのかな……。


「シルバーのセット装備だよ。俺が作った自信作だ! 魔術師でも装備出来るように金属を薄くして軽量化し、防御力を強化する魔法を掛けてある」

『これは素晴らしい。この装備に決めよう』


 ヘルフリートはバーナーさんが持ってきてくれた装備を一つ一つ手に取って確認している。だけど、問題は金額ね……。これから迷宮都市ベルガーで暮らさなければならないのに、ここでお金を使いすぎては、学校生活がかなり厳しくなるわ。


「お値段はいくらでしょうか?」

「二千五百クロノだよ」


 高い……。道具屋の給料が一カ月五百クロノだから、五か月分の給料ね。


『エミリア、装備をケチってはいけないよ、もし買えるならこの装備にしよう』

『だけど、これって結構高いんじゃない?』

『確かに高いかもしれないけど、何度も買い換える物じゃないし、長い目で見れば安い買い物だよ』

『そうだけど……』


 ヘルフリートはハッとした表情を浮かべて、私の肩の上に飛び乗った。


『エミリア。これより安い物で同等の物が無いか聞いてみてくれるかい?』

『わかったわ』

「バーナーさん、この装備よりも安い物で同じような性能の物はありませんか?」

「まぁ、あると言えばあるが。お勧めは出来ないよ」


 バーナーさんは少し考えてから、店の裏手にある倉庫に入って行った。しばらくすると、大きな木箱を抱えて戻ってきた。木箱が店の中に運ばれてきた瞬間、気味の悪い魔力を感じた。バーナーさんが箱の蓋を開けると、気味の悪い魔力とは裏腹に、銀色に輝く美しい防具が入っていた。


「この装備はホワイトパラディンが使っていた装備で、冒険者から安く買い取ったんだが、どうも買い手が現れなくてな。これなら五百クロノで良いよ」

「え? そんなに安いんですか?」

「ああ。品質は良いんだが、装備から感じる魔力の感じがな……モンスターに殺されたホワイトパラディンが装備していた物らしい。きっと死んだホワイトパラディンが装備に憑りついているんだな」

「そんな事も有るんですか?」

「ああ、しょっちゅうさ。たまに物好きな客が買っていく事も有るんだが……」


 ヘルフリートは顔をしかめながら、装備を一つずつ確認している。商品の質に満足したのか、ヘルフリートは私の方を見て頷いている。


『エミリア、これはバーナーさんが作った装備よりも遥かに良い物だよ。ホワイトパラディンの怨霊を感じるが……状態は新品同様で申し分ない。怨霊が無ければ四千クロノはするだろうな』

『四千クロノ? そんなに良い物なの?』

『俺の時代の相場だから、今の時代の相場は分からないけどね。でもこの装備は良い。これにしよう』

『でも、装備に憑りついている怨霊はどうするの?』

『今のエミリアでも、魔法陣を使えば怨霊を浄化出来ると思うよ』

『そうなんだ! じゃあ、これにしようかな』

「バーナーさん、これにします! 知り合いに怨霊を浄化できる魔術師が居るので!」

「そいつは頼もしい魔術師だな。代金は五百クロノだよ」


 バーナーさんに代金を支払うと、ヘルフリートは装備が入った木箱を足で掴んで飛び上がった。意外と力も強いのね……。店の扉を開けると、ヘルフリートは楽しそうに店の外に飛んで行った。


「ありがとうございます! また来ます」

「ああ、いつでも来るんだよ」


 私とヘルフリートは店を出ると、村の外れにある公園で装備に憑りついているホワイトパラディンを浄化する事にした……。

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