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第八話「魔法陣」

 〈ヘルフリート視点〉


 しかし、エミリアの魔法に対する適正には目を見張るものがあるな。まさかレベル2の魔法陣を書き上げるなんて……。魔法陣を書くためには、魔力と集中力が必要だ。杖の先端から持続的に一定量の魔力を放出させ、魔法陣を書く事は、魔力の扱いに慣れていない駆け出しの魔術師には至難の業だ。


 きっとエミリアは魔法陣を書く適性がある。彼女は並外れた忍耐力と集中力を持っている。きっと魔法を教えれば教える程、彼女は強くなるだろう。これからの彼女との生活が楽しみで仕方がない。もしかするとエミリアなら、本当に俺を召喚出来る魔術師になれるかもしれない。いや……俺が育てるんだから、最高の魔術師になって貰おう。


「ヘルフリート、使い終わった魔石はどうするの?」

『力を失った魔石にも使い道が有るんだよ。貸してごらん』


 俺はエミリアから空の魔石を受け取った。この魔石には、ゴブリンとガーゴイルの力が宿っていたな。久しぶりに魔法を使ってみるか。俺は両手に空の魔石を握って魔力を込めた。


『ファイア!』


 魔法を唱えると、手を包み込むように小さな炎が燃え上がり、炎は魔石の中に吸い込まれた。魔石の質、サイズにもよって異なるが、レベル1のモンスターが落とした魔石なら、レベル1程度の魔法を封じ込める事が出来る。


 勿論、モンスターの力が入っている状態では、魔石に魔法を込める事は出来ない。空の状態の魔石にのみ、魔法を封じ込める事が出来る。魔石からモンスターの力を消すためには、それを上回る威力の魔法を掛ければ良い。魔石の中に潜むモンスターの力はたちまち消滅する。


『こうして魔石に魔法を封じ込めるんだよ。通常の魔法よりもかなり威力は劣るが、この魔石を持って魔力を込めるだけで、ファイアの魔法を使う事が出来るんだ』

「本当? それは凄いわね」

『威力は大体五分の一程度かな、普通に魔法を唱えた方が遥かに威力は高いんだけどね』

「それじゃあ、どうして魔石に魔法を封じ込める必要があるの?」

『駆け出しの魔術師の練習用に使うのさ。魔法を使う感覚、属性の感覚を掴むために、こうして魔法が籠った魔石を持って練習するんだ』


 俺は左手で魔石を持ち、右手を開いた。魔力を込めると、小さな炎が手の中に生まれた。


「凄い! 私も試してみて良い?」

『家の中だと危ないから明日試してみようか。この魔石はエミリアが持っていると良いよ』

「ありがとう!」


 エミリアは嬉しそうに魔石を眺めている。小さな魔石の中では、魔法の炎がユラユラと楽し気に燃えている。魔石はいつ見ても美しい。どれだけ時代が変わっても、魔石の美しさだけは変わらない。


 そうだ、一つ忘れかけていた事があった。明日からエミリアを鍛えるためにクエストを受けるなら、俺自身の武器が必要だ。流石にこのガーゴイルの体で、武器すら持たずにモンスターに挑むのは無謀すぎる。まだこの体で、どこまで攻撃魔法を使えるのかもわからない。


 俺自身の経験、知識、戦いのセンスは残っていても、肝心な魔法に関する全ての力は、はるか昔、命を落とす前に魔石の中に封じ込めたからな。それに、この体の魔力の総量すら把握できていない。さっきファイアの魔法が使えたのは、ガーゴイルが火属性のモンスターだったからだ。火属性以外の属性は、きっとこのモンスターの体では使えないだろうな……。


 俺が遥か昔に覚えた偉大な攻撃魔法の数々は、この魔力の弱い体では使えない。エミリアに魔法を教えながら、俺自身もガーゴイルとしての戦い方を学ぶ必要がありそうだ。


『エミリア、明日から実際にスケルトンと戦う訳だけど、俺が武器を持っていればより安全に戦えると思うんだ。だけど俺はこの通り、武器を買うお金も持っていない……』

「お金の心配をしているの? 私、ヘルフリートが必要な物にならお金を出すわ」

『安い物でも良いから、剣が一本あればエミリアを守れると思うんだ。明日の朝一番に武器屋に行こう』

「わかったわ」


 エミリアはベッドに寝そべりながら魔石を眺めて微笑んでいる。それにしてもこの子は美しい。雪のように白い肌に、紫色の艶のある髪。透き通るような紫目。真っ直ぐと俺を見る彼女の視線に、時折胸が高まる事がある。この子は美しい女性に成長するだろう。俺が人間ではない事が悔しいな……。


「ねぇ、ヘルフリート。魔石には他にどんな使い道があるの?」

『他には、罠としても使う事が出来るぞ。罠の魔法陣を書いて、中心に攻撃魔法を封じ込めた魔石を設置する。魔法陣に踏み込んだ者に対して、自動的に魔法を放つ仕掛けが完成さ』

「罠としても使えるんだ。だけど、どうして罠が必要なの?」

『それは、あらかじめ敵が一定のルートを通って攻撃を仕掛けてくると予測できる場合、例えばモンスターの通り道なんかに設置したり、建物を防衛する際に、建物の周辺に設置したり。罠の魔法陣は様々な使い道があるんだ』

「魔法って本当に奥が深いんだね。私は力も弱いし、戦い方も知らないから。罠の魔法陣を覚えたみたいかも!」

『それじゃ少し練習してみようか。羽根ペンとインクを準備しておくれ』

「わかったわ」


 俺は自分の魂が入っていた本をめくって、魔法陣の手本を書く事にした。羽根ペンの先端にインクをつけ、本の中に丁寧に書き込んだ。そんな様子を、エミリアは楽しそうに見つめている。


『これが罠の魔法陣だよ。この手本を見ながら、羊皮紙に書き写して練習したり、実際に魔力を使って地面に魔法陣を書いて練習するんだ』

「羊皮紙に書き写す練習と、実際に書く練習は何が違うの?」

『羽根ペンを用いて羊皮紙に書く練習は魔力を消費しないだろう? いくらでも練習できるという訳だ。反対に、魔力によって魔法陣を書く練習は魔力を消費する。魔力は使えば使う程、総量が上がる訳だから、魔力を鍛えたいなら、毎日限界まで魔力を使い切る事が大切だ』

「魔力の総量か……これからはなるべく毎日魔法陣を書く事にする!」

『それが良いよ。きっとこの魔法陣はハース魔法学校でも習う事になるだろう。今から練習しておいても良いかもしれないな』

「わかったよ」


 エミリアは早速、手本を見ながら羊皮紙に向かって羽根ペンを走らせた。彼女は一度魔法陣を書き始めると、非常に高い集中力を発揮し、ほぼ正解に近い罠の魔法陣を書き上げた。


「どうかな?」

『そうだね、ここの線が少しぶれているよ。もっと真っ直ぐ書く事。あとは線の太さに乱れがあるから、一定の太さで書けるようになる事』

「難しいなぁ。だけど、魔法の練習って楽しい!」

『楽しんで練習する事が大切だよ。さぁ、今日の練習はこれくらいにして、そろそろ休もうか』

「うん。また明日から練習するね」


 エミリアはベッドの中に入ると、魔石を握りしめながら眠りについた。俺はエミリアのベッドの隣に横になると、いつの間にか眠りに落ちていた……。



 〈翌朝・エミリア視点〉


 朝起きると、ヘルフリートは何やら本の表紙に文字を書いていた。何を書いているのだろう。


『おはよう、エミリア。本にタイトルを書いていたんだ。名前は賢者の書。わかりやすくて良いだろう?』

「おはよう、ヘルフリート。賢者の書か……なんだか学校で持ち歩くのが少し恥ずかしいかも」

『この本の事を他人に質問されたら、賢者ヘルフリート・ハースについて学んだ事を書き留めた本だと言うんだよ。本当の事を話すと盗まれるかもしれないからね』

「信じてくれる人が居ればね……分かった、気をつけるようにする」

『良い子だ。さて、今日は武器屋に行く日だね。楽しみで朝早くに目が覚めたよ』

「そうだ、ヘルフリートって武器を使った戦いも出来るの? ヘルフリートに関する本を読んだけど、ほとんど魔法に関する事しか書いてなかったよ」

『まぁ、魔法ほど得意じゃないが、使える事は使えるぞ』

「剣も魔法も使えるんだね」

『どちらも魔力が重要なんだ。剣での戦いでも、使用する武器に魔力を込めればいくらでも強くなる』

「剣に魔力を込めるの?」

『うん、後でやって見せてあげるよ。エンチャントって言うんだけどね。果たしてこの体でエンチャントを使えるかは分からないけど……俺もエミリアと一緒に、一から魔法の練習を始めるよ』

「一緒に? それは嬉しいわ!」

『ああ。さて、出かける前にザーラ叔母さんの美味しい食事を頂こうか』

「そうだね。すぐに下に降りてご飯を食べましょう」


 それから私とヘルフリートは一階に降りて朝食を頂いた。普段なら、朝食を食べてからすぐに道具屋の開店準備をするのだけど、私は昨日で道具屋の仕事を終えている。なんだか朝から時間が有るって素敵だな。私は道具屋の仕事で貯めたお金を鞄に仕舞い、ゲレオン叔父さんから頂いたユニコーンの杖をベルトに挟むと、ヘルフリートと共に家を出た。


 今は朝の八時。普段ならお店でお客さんの相手をしている時間なのに、仕事をしないで外に居るのは変な気分。だけど、私は今日から魔法の練習をし、クエストを受けるんだ。迷宮都市ベルガーには二十五日に出発しよう。今日が十七日だから、出発までしばらく時間がある。


「ヘルフリート、武器屋は道具屋からギルド方面に向かった場所にあるんだよ。冒険者ギルドを通り越してすぐだからね」

『わかったよ。どんな武器が売っているのか楽しみだな』

「でもさ、ゴブリンが使っていたあのナイフでも良いんじゃない? 流血の呪いが掛かっているナイフ」

『あれか、あの武器はだめだよ。闇の呪いが掛かっている武器なんて、聖属性の魔法を極めた俺が使うべきじゃないんだ。エミリア、これから冒険者として生きるなら、色々な人間に出会うだろう。魔法学校にも様々な種族の者が居るだろうが、少しでも闇の魔力を感じる者には近づいてはいけないよ』

「わかったわ。でもどうしてなの?」

『闇属性の魔法は、人を殺めるために特化した魔法。聖属性は人を癒すための魔法。勿論、聖属性の中にも相手を傷つける魔法はある。しかし、流血の呪いや錯乱の呪いの様に、残酷で、必要以上に相手を苦しめる魔法は存在しないんだ』

「確かに……私は闇属性が憎いわ。私の両親に掛けられた呪いが……」

『そうだ、闇を消し去れる魔術師になるんだよ』


 闇の魔法……。勿論覚えるつもりはない。闇属性とは反対の聖属性の魔法を覚えて、呪いを解ける力を付けたい。


『あそこが武器屋かな? 早速入ってみようか』

「うん、行ってみましょう」


 私とヘルフリートは、ゲレオン叔父さんの知り合いが営んでる武器屋に入る事にした……。

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