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魔法幻想紀 - 迷宮都市の賢者と魔術師 -   作者: 花京院 光
第三章「フレーベル編」
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第五十九話「フレーベル」

 〈フレーベル〉


 背の高い石の城壁に守られているフレーベルの町の中に入ると、魔術師の様なローブを纏う住民が多かった。ベルガーよりも魔術師の割合が多く、町の至る所には魔法道具の店が点在している。町の中央にはフレーベル城があるらしく、城を守るかのように背の高い塔が建っている。


 ついに旅の目的地であるフレーベルに着いた私達は、今日から滞在する宿を探す事にした。町にはヘルフリートの魔王討伐の功績を称える銅像や石碑が建っている。ヘルフリートは自分自身の銅像を見上げると、嬉しそうに喜んだ。


「六百年経った今でも、まだ俺の存在は忘れられていないんだな」

「当たり前じゃない。賢者ハースを知らない人は居ないし、今でもヘルフリートに感謝しながら生きている人も多いよ」

「それは光栄な事だ。エミリア、そろそろ話しておかなければならない事がある」

「もしかして……魔石の事?」

「そうだ。エミリアの魔力が五百を超えたら、魔石を取りに行こうと話した事を覚えているかい?」

「勿論よ」

「実は。俺の力を持つ魔石はこの町の中にある」

「え……? ここに?」

「ああ。町の中に小さなダンジョンがあるのだが、俺はそのダンジョンの中に魔石を隠した」


 ヘルフリートの全ての魔法、魔力を持つ魔石がこの町のダンジョンにあるんだ。ヘルフリートがついに魔石の場所を教えてくれる。私は両親に掛けられた呪いを解除するために、毎日魔法の練習をしているけれど、最終的にはヘルフリートを召喚するのが人生の目標だ。私の事を信じているから、ヘルフリートは魔石の在り処を私に教えてくれるんだ……緊張するな。


「エミリア。二人で魔石を取りに行こう」

「うん……」

「魔石を手に入れても、今のエミリアでは俺を召喚は出来ない。いつか魔力が1000を超えた時のために、予め持っているんだ」

「魔力が1000になればヘルフリートを召喚出来るんだよね」

「ああ。そう遠い未来ではないな。きっと十年以内だろう。丁度十年経てば、俺の当時の年齢と、エミリアの年齢が同じになるな」

「十年後。二十五歳……もっと早くに召喚してみせるわ! 私、早くヘルフリートに会いたいもの」

「俺もだよ。エミリア」


 私達はダンジョンに潜る前に宿を決める事にした。フレーベルは迷宮都市ベルガーよりも魔法関係の専門店が多く点在している。魔法の杖のお店、魔導書のお店、召喚用のモンスターの魔石を取り扱うお店。それから、魔法を込めた魔石を取り扱うお店もある。私はモンスターの魔石よりも、魔法が籠もっている魔石の方が好きだ。色とりどりの魔石が、キラキラと光り輝きながら、自分の出番を待つように静かに並んでいる。


「魔石はいつの時代も美しいな……しかし、自分自身の魔石を取りに行くとは、不思議な気分だ」

「だけど、ダンジョンの中に隠しておいたのなら、他の冒険者が見つけている可能性もあるんじゃない?」

「その可能性は少ないだろうな……俺は魔石を隠した部屋に仕掛けをしておいた。並の冒険者では俺の仕掛けを破る事は不可能」

「それじゃあ、私達がその仕掛けを解除しなければならないの?」

「その通り。仕掛けを解除できるのが魔力500以上なんだよ。だから俺はエミリアが魔力500を超えるまで魔石を取りに行かなかった。この時を待っていたんだ」

「そういう事だったんだ……どうして魔石を取りに行かないのか、気になっていたんだ」

「うむ……」


 馬車でゆっくりとフレーベルの町を進むと、一件の小さな宿を見つけた。探し回るのも面倒だし、私は早くヘルフリートの魔石を取りに行きたかったから、この宿に決める事にした。木造の二階建ての宿で、私達が馬車を宿の前に停めると、店主が出てきて馬車を馬車小屋に入れてくれた。


「ヘルフリート。フレーベルにはどれくらい居るつもり?」

「そうだな……まだ夏休みが終わるまで時間はあるが、早めにベルガーに戻るとしよう。出発は三日後にしようか」

「そうね。ベルガーに戻ってティアナやランドルフにも会いたいし」


 宿を決めた私達は、部屋に荷物を入れ、フィリアに留守番を任せた。


「フィリア。すまないが、一人で宿で待っていてくれるかい? 俺は今からエミリアと魔石を取りに行くんだ」

「いいよ……どうせ私は一人なの……」

「まぁまぁ、すぐに戻ってくるよ。宿から出ても良いけど、遠くには行かないように。知らない人には付いて行かないように」

「わかってるよ。子供じゃないんだから」

「うむ。これはお小遣いだよ」

「ありがとう。エミリア、ヘルフリート。気をつけてね」

「ああ、すぐに戻る」


 ヘルフリートはフィリアに三十クロノ渡すと、フィリアは寂しそうにヘルフリートを抱きしめた。だけど、どうしてフィリアも連れて行かないのだろう。きっとヘルフリートなりの考えがあるのだろう。


 私とヘルフリートは宿を出ると、ダンジョンに向かう前に、冒険者向けのアイテムを扱う店で買い物をする事にした。一応ダンジョンに潜る訳だから、マナポーションや食料は必要だろう。道具屋でマナポーションを五つ、堅焼きパンと乾燥肉を二つずつ購入した。


「ヘルフリート。フィリアも一緒じゃだめだったの?」

「エミリアと二人で取りに行きたいんだ。それに、ダンジョンの仕掛けは二人で解除しなければならない」

「二人で解除?」

「うむ。魔法の心得がある二人が、同じタイミングで仕掛けを解除するための魔法を掛ける。すると、魔石が隠されている部屋の扉が開く仕掛けになっているんだ」

「随分単純な仕掛けなんだね。もう他の冒険者に取られているんじゃないかな?」

「それはないだろうな……魔力500以上の扉を開けるための魔法を、二人の者が同時に注がなければ開かない仕組みになっているんだ」

「だけど、私は扉を開くための魔法なんて知らないよ」

「扉を開くための魔法はホーリーさ。二人の人間が、全く同じ威力のホーリーを扉に注ぐ。これ以外に扉を開ける手段は存在しないんだ」

「それは……かなり難しそうね。そもそも、私とヘルフリートの魔力は同じじゃないし」


 ヘルフリートが六百年前に作り出した仕掛けは、シンプルな仕掛けだけれど、二人の人間が同じ量の魔力で魔法を放たなければ、決して扉は開かないのだとか。フレーベルでは、ダンジョンの中に決して開く事の出来ない「開かずの間」があると有名らしい。ダンジョンに向かいながら、様々な冒険者の話を聞いて、既に「開かずの間」を開けた冒険者が居たかどうか確認してみたけれど、やはりまだヘルフリートの仕掛けは突破されていないみたい。


「この仕掛の一番難しい所は、ホーリーの魔法という所さ。聖属性の魔法の中でも最も基本的な魔法を、わざわざ仕掛けを解除するために使おうと思う者は居ないだろう。それに、魔力500を超える聖属性の魔法の使い手は、通常、パーティーに二人も居ない。聖属性の魔術師は、回復係として一人居るかどうかだろう」

「そうだよね。魔力が500を超えていて、聖属性の魔法に特化した魔術師が二人もパーティーに居るはずがない……だから今までヘルフリートの仕掛けが解除されなかったんだ」

「うむ。そもそも、扉の奥に魔石が隠されている事実を知らなければ、真剣に仕掛けを解除しようと思う者は居ないだろう。何らかの悪質な魔法が掛かっていて、誰も解除出来ないように、強く封印をしてあると予想する冒険者も多いだろう」

「だけど、誰にも奪われていなくて幸いだよね」

「そうだな……そろそろダンジョンに着くよ」


 ヘルフリートの指差す先には、ダンジョンの入り口だろうか、背の高い石の門が在った……。

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