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魔法幻想紀 - 迷宮都市の賢者と魔術師 -   作者: 花京院 光
第三章「フレーベル編」
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第五十七話「妖精の魔法」

 宿に戻った私達は、いつも通り魔法の練習をしてから夕食を頂く事にした。私は部屋の中央に立ち、聖域の魔法陣を書き始めた。フィリアはヘルフリートに買ってもらった杖を嬉しそうに磨いている。まだ新品だというのに手垢が付く事が嫌なのか、何度も布で擦っている。


『フィリア、せっかく新しい杖を買ったんだ。俺達も魔法の練習をしようか』

「うん! どんな魔法を覚えたらいい?」

『そうだね……攻撃魔法かな。エミリアが防御魔法と回復魔法が得意だから、フィリアが攻撃魔法を練習すれば、俺達パーティーはもっと強くなれると思うんだ』

「私、攻撃魔法なんて練習した事ないよ」

『大丈夫。フィリアならすぐに覚えられるよ』

「本当?」

『ああ。俺がしっかり教えるから大丈夫だ』


 ヘルフリートはフィリアにアースの魔法を教えているみたい。基本的な属性魔法を何度も使う事により、魔力の強化を図っているに違いないわ。私が魔法の練習を始めた時も、最初の頃は単純な魔法を繰り返し練習したし。


 私は二時間ほど集中して聖域の魔法陣の練習を続けた。この魔方陣は魔力の消費が非常に激しく、魔力をすぐに使い果たす事が出来る。魔力が底をついたらマナポーションを飲んで回復させる。魔法陣を書いて魔力を使い切り、回復させてから再度練習を続ける。これを繰り返す事により、私の魔力は日に日に強くなっている。このペースで魔法を練習すれば、三年、四年以内には錯乱の呪いを解除出来るようになるに違いないわ。それまで毎日練習を続けるんだ……。


 私が魔法陣の練習に没頭していると、部屋の中から大きな物音が起きた。ヘルフリートが腰を抜かして床に座り込んでいる。私の部屋にはヘルフリートそっくりな石のガーゴイルが居る。何があったの……?


『エミリア。俺は君が天才だと思っていたが、フィリアも天才なのだろう。フィリアのエレメンタルは、石で作られたガーゴイルみたいだよ』

「石のガーゴイル?」


 フィリアの前には体が大きく、屈強なガーゴイルが立っている。まさかこのエレメンタルを一日で作り上げたの? 私の場合、何度も練習してやっと人型のエレメンタルを作れるようになったのに……フィリアはたったの数回で、空を自由に飛び回る石のガーゴイルを作り上げてしまった。


 負けたくない……彼女は天才的な魔法のセンスを持っているけれど、努力した時間なら私の方が多いに決まっている。寝る時間を削って夜遅くまで魔法の練習をし、早朝に起きてまた魔法の練習をする。そんな生活をヘルフリートと出会ってから続けていたんだ。こんなに簡単に抜かれたくない。フィリアが召喚されてから、ヘルフリートはフィリアに付きっきりだし。


 自分よりも遥かに才能のある魔術師が身近に表れて、私は焦りを感じている。このまま彼女が魔法を練習すれば、あっという間に私を抜くだろう。もしかしたら今でも抜かれているかもしれない。そうしたらヘルフリートは、フィリアに自分自身の召喚を頼むのではないだろうか。それだけは絶対に嫌だ。私がヘルフリートを召喚するんだ……。


「ヘルフリートの馬鹿……」


 私は杖をフィリアのエレメンタルに向けた。


『アイスジャベリン!』


 魔法を唱えると、巨大な氷の槍が現れ、一撃でフィリアのエレメンタルを砕いた。フィリアとヘルフリートは、突然の出来事に呆然としている。大人気ないのは分かっている。だけど、好きな人が新しく現れた美少女に付きっきりなのは腹が立つ。ヘルフリートは私の恋人なんだから……まったく。


「エミリアの魔法、凄い! 私も覚えたい!」

「え……」

「教えてよ! 今の魔法!」

「いいよ……フィリアのエレメンタル。壊してしまってごめんなさい」

「どうして謝るの? 一緒に魔法の練習をしているのに! 私、誰かと一緒に魔法の練習をするなんて初めてだよ!」


 この子は自分が作ったエレメンタルを砕かれても、怒りもしない優しい子なんだ。なんだか一人で嫉妬してしまって、本当に馬鹿みたい。フィリアは自分が暮らしていた世界から出てきて、私達の仲間になってくれたんだ。もっと大切にしないといけないのに……。


「フィリア。今のはアイスジャベリンっていう魔法なんだよ。私もヘルフリートから習ったんだけどね」

「アイスジャベリン? 氷で槍を作るんだよね?」

「そう。だけど、フィリアは土属性なんだから、土か石で槍を作ってみて」

「わかった!」


 私は詳しくジャベリンの作り方を教えると、フィリアは小さな石の槍を作り上げた。丁度手のひらと同じくらいの石の槍だ。


「小さいんだね……エミリアの氷の槍はもっと大きかったのに!」

「そうね。毎日練習していたらすぐに大きい槍を作れるようになるよ。一緒に練習しよう! フィリア!」

「うん!」


 私達が魔法の練習を始めると、ヘルフリートは満足そうに葡萄酒を飲み始めた。きっと彼は私とフィリアが仲良くなるのを、お互い歩み寄るのを待っていたに違いない。乾燥肉に齧りつきながら、ゴブレットに注いだ葡萄酒をチビチビと飲んでいる。なんだかゲレオン叔父さんにそっくりね。


 それから私は一時間程、フィリアにジャベリンの魔法を教えた。フィリアはすぐに槍の作り方をマスターし、三十センチ程の短い槍を作り上げた。フィリアは自分が作った槍をヘルフリートにプレゼントした。ヘルフリートはフィリアが作った槍を手に持ち、魔法を唱えた。


『エンチャント・ファイア……』


 ヘルフリートが魔法を唱えると、小さな槍は強い炎を纏った。エンチャントの魔法を初めて見たのか、フィリアは強い炎の力を持つ槍を不思議そうに見つめている。


『フィリア、これがエンチャントだよ。武器に対して属性魔法を込め、一時的に武器に属性を持たせる魔法だ』

「エンチャント……不思議な魔法だね!」

『うむ。火属性や雷属性、聖属性のエンチャントは強力だが、土属性のエンチャントはあまり使い道が無いかもしれないが……』

「そうなんだ……せっかく私も練習しようと思ったのに」

『土属性以外の魔法も練習してみたらいいよ。ファイアの魔石とアイスの魔石、ウォーターの魔石、ホーリーの魔石。好きな物を使って魔法を練習してごらん』


 ヘルフリートは鞄から魔石を取り出して机の上に置いた。色とりどりの魔石が美しく輝いている。ヘルフリートは暇さえあれば魔石に魔法を込め、罠の魔法陣として使う魔石を量産している。それ以外にも、ヘルフリートが魔法を込めた魔石は魔法学校でも人気がある。ヘルフリートから魔石を買い取って、魔法の練習をする生徒も多い。


「それじゃあ……ファイアの魔石にしようかな」

『土属性と火属性か。両方極めればメテオという最高の攻撃魔法を使えるようになるぞ』

「メテオ?」

『ああ。巨大な岩を上空に作り出し、岩を火のエンチャント状態にする。その状態で大地に落とす魔法だ。火属性と土属性を極めた者だけが使える最高の攻撃魔法だよ』

「ヘルフリートはそんなに凄い魔法も使えたの?」

『遥か昔、人間だった頃はね……今の俺では到底使えない魔法だ』

「それじゃ私が覚えるよ! ヘルフリートの代わりにメテオを使えるようになる」

『うむ。良い目標だ。普通の人間なら二十年も練習すれば使えるようになるだろう』

「二十年? そんなに難しい魔法なの?」


 フィリアは驚いてヘルフリートを見つめた。メテオはヘルフリートが得意とした攻撃魔法で、魔王との戦いでも使ったのだとか。土属性と火属性を極めた者だけが使える最高の攻撃魔法。いつか見てみたいな。


『フィリア。火属性の魔法は外で練習するんだよ。部屋の中で使うと危ない』

「わかった!」


 フィリアはファイアの魔石を楽しそうに眺めている。さて、今日の魔法の練習はこれくらいにして、私達も晩御飯を頂こう。


「フィリア。晩御飯は何が食べたい?」

「なんでもいいよ。私、お金もってないから……」

『フィリア。妖精と召喚者は家族みたいなものだ。どちらかが死ぬまで一緒に居るんだよ。だから遠慮する事はない』

「そうだよね……それじゃあ肉料理が食べたい!」

『うむ。外に出て店を探そうか』


 フィリアはヘルフリートに家族と言われた事が嬉しかったのか、ヘルフリートの小さな体を抱きしめている。私だってヘルフリートとは家族みたいな関係なんだから……。


「エミリアとヘルフリートも家族なの……?」


 フィリアがヘルフリートを見つめながら、鋭い質問をした。彼はどう返事をするのだろう……。


「俺とエミリアは……恋人だよ。俺の人生で初めての恋人さ。きっと最初で最後になるだろう」


 ヘルフリートは私の事を恋人だと言ってくれた! 嬉しいな……私も誰かにとって大切な人間になれたのかな。


『さぁ、出かけようか』


 ギレスの町に出た私達は、少し高価なお店に入って肉料理を堪能した。ヘルフリートは食事の間、楽しそうにエールを飲んでいた。彼も新しい仲間が出来て嬉しいに違いない。もっとフィリアと仲良くなって、私もフィリアの事を家族だと言えるようになりたい。いいえ、これから一緒に生きるのだから、家族も同然……食事を終えた私達は宿に戻り、私とフィリアは二人でお風呂に入ってから休む事にした。明日はついにフレーベルを目指して再出発する。


 フィリアはヘルフリートを抱きしめながら、ベッドに横になっている。 すっかりフィリアのお気に入りになってしまったのね。 


『エミリア。俺は君とずっと一緒に居たい。召喚してくれてありがとう』

「うん……私も」


 ヘルフリートはフィリアに抱かれながら、私を見つめている。


「エミリア、ヘルフリート。私の事も忘れないでね……」

「勿論よ。フィリアもこれから私達の家族なの。ヘルフリートとずっと一緒に居るなら、ヘルフリートを召喚した私とも一緒に居る事になるんだから」

「うん……私を召喚してくれたのが変な人間じゃなくて良かった。私、どんな人に召喚されるんだろうって、ずっと不安だったんだ」

「私達の所に来てくれてありがとう。これからもよろしくね」

「エミリア……」


 私はフィリアの小さな体を抱きしめた。彼女の体からは強い土属性の魔力を感じる。これから大切にしてあげないと。私は二人を抱きしめて、夜遅くまでお互いのこれまでの人生について語り合った……。

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