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魔法幻想紀 - 迷宮都市の賢者と魔術師 -   作者: 花京院 光
第三章「フレーベル編」
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第五十三話「ギレスの墓地」

 ついに目的の墓地に到着した私達は、まず敵の数を調べる事にした。墓地の規模は、以前私達が攻略したコリント村の近くの墓地よりも小さいみたい。しかし、墓地から放たれる魔力の強さは、ベルガーのダンジョン十五階層とほぼ同じ、もしくはそれ以上。墓地の外周には、スケルトンとゴーストが二十体ほど居る。問題は墓地の中の敵の強さだ。私達は敵から見つからないように、墓地から離れた森の茂みに身を隠している。


「エミリア。敵の強さは分からないが、墓地から感じる魔力の強さから考えれば、レベル3から4のモンスターが巣食っている事は間違いないだろう。万が一、戦闘中に身の危険を感じたら、この魔方陣の中に逃げ込むんだ」


 ヘルフリートは地面に両手を向けて魔力を込めると、複雑な魔方陣が一瞬で浮かび上がった。これが聖域の魔法陣だろうか? もしくは、魔法反射の魔法陣?


「これが聖域の魔法陣だ。俺の魔力が480だから、それ以下の全ての魔法攻撃と物理攻撃を無効化する。エミリアは俺をサポートしながら、危険だと思ったらすぐに魔法陣の中に逃げて良い」

「そんな、私だけ逃げるなんて!」

「それで良いんだ。俺は簡単に負けはしない。しかし、戦闘中には何が起こるかわからない。今回の様に、少人数で大勢の敵と戦う場合は特に注意しなければならない」

「だけど、私だけ逃げるなんて嫌だよ」

「聖域の魔法陣に逃げ込むのは最後の手段だと思っていてくれ」

「勿論よ」


 ヘルフリートは魔法陣に草をかけて隠すと、ロングソードを抜いて墓地の様子を確認した。聖域の魔法陣を使う事にならなければ良いけれど、もし、私が足手まといになるようなら、私はヘルフリートの戦闘の邪魔をせずに、魔法陣の中で機会を伺うのも良いかもしれない。状況に合わせて臨機応変に行動しよう。


「さて、狩りを始めようか。さっさと終わらせて町に戻ろう。俺は早く酒が飲みたいんだ」

「うん……気を付けてね。ヘルフリート」

「うむ。俺の後ろから付いて来るんだよ。まずは墓地の外に居るモンスターから倒す」


 墓地の外周ではスケルトンとゴーストが辺りを警戒する様に巡回している。ヘルフリートは墓地から少し離れた場所に罠の魔法陣を書き始めた。魔法陣は全部で十五個。次に、鞄の中から空の魔石を取り出し、ホーリーの魔法を込め始めた。全ての魔石にホーリーの魔法を込めると、一つずつ魔法陣の中央に設置した。これで罠に入ったモンスターに対して、自動的に攻撃を仕掛ける準備が整った。


「敵の数が多い時には罠の魔法陣が役に立つ。レベルの低いスケルトンやゴーストなら、この魔方陣の攻撃だけでも倒せるかもしれないな」

「だけど、墓地の外周に居る敵は弱いのに、どうしてこんなに手間が掛かる方法を選んだの?」

「外周に居る敵に攻撃を仕掛ければ、墓地の中にいるレベル3、レベル4のモンスターの注意を引く事になるだろう。そうしたら俺達が複数の敵に囲まれてしまう事は間違いない。そういう状況で、俺達の手助けをする罠の魔法陣があったら、状況は有利になるだろう?」


 確かに、複数の敵と乱戦になった時、敵が一体でも罠の魔法陣に引っかかってくれれば、倒す手間が省ける。それに、戦闘中に消費する魔力を減らす事も出来る。戦闘でモンスターを一体倒すために消費する魔力を、事前に罠の魔法陣に込めておき、戦闘の前にマナポーションを飲んで魔力を回復させれば、魔力が完全の状態で戦いを始められる。この差は非常に大きいわ。


「準備は整ったよ。俺はこれから遠距離魔法で敵の注意を引く。敵は一斉に襲い掛かってくるだろうが、敵の半数は罠の魔法陣に掛かると思う。罠の魔法陣を潜り抜けたモンスターから順に倒すんだ」

「わかった……」


 今回の墓地での戦闘では、聖属性の魔法を中心に使う事に決めた。闇属性のアンデッド系のモンスターが多いからだ。杖をベルトから抜き、体中から集めた魔力を杖に込める。杖の先端から小さな銀色の球が発生した。更に魔力を込め、威力を最高まで上げた状態でヘルフリートの指示を待つ。森の茂みの中に身を隠しているヘルフリートは、モンスターの群れにロングソードを向けた。


『ホーリー!』


 魔法を唱えた瞬間、剣の先からは大きな魔力の塊が放たれた。魔力の塊は、轟音を立ててモンスターの群れに衝突した。モンスターに衝突した魔力の塊は小さく爆発すると、辺りに居たスケルトンとゴーストを軽々と吹き飛ばした。今の攻撃で既に五体以上のモンスターが命を落とした。私達の存在に気が付いたモンスターの群れは、怒り狂って襲い掛かってきた。ついに戦いが始まるんだ……私はヘルフリートの背後からモンスターに向けて魔法を唱えた。


『ホーリー!』


 銀色の魔力を塊をゴーストに向けて放つと、ホーリーの魔法はスケルトンの体を軽々と吹き飛ばした。ヘルフリートはスケルトンとゴーストの群れに飛び込み、右手に構えたロングソードでスケルトンの攻撃を受け、左手でホーリーアローの魔法を唱えている。敵が隙を見せたら最後、ヘルフリートの銀色の矢が一瞬で体を貫く。


 戦いが始まってから、多くのモンスターが罠の魔法陣の餌食になった。モンスターが罠の魔法陣に足を踏み込んだ瞬間、罠の魔法陣の中央に設置されている魔石が強い魔法を放ち、一撃で敵を消滅させた。


 私は次々とホーリーの魔法を放ち、ゴーストを狩り続けた。しばらくすると、墓地の外周に居た全てのモンスターが息絶えていた。急いで地面に落ちている魔石を回収すると、墓地の中からは悍ましいうめき声が聞こえてきた。墓地の中からはモンスターが次々と姿を現した。敵は全部で五体。


 黒い鎧に身を包んだ戦士の様なモンスターが三体と。下半身が蜘蛛の体、上半身が女性の体をしているアラクネが二体だ。私は敵の姿を見た瞬間、体が固まった。


「デュラハンが三体。アラクネが二体か」


 ヘルフリートは新たな敵を見ても余裕の表情を浮かべている。ベルガーのダンジョンで遭遇したアラクネが、また私の前に現れるなんて。デュラハンというモンスターのレベルは不明だけど、アラクネは最低でもレベル4以上のモンスターだ。もしかしたら、更にレベルが高い可能性もある。


 二体のアラクネはモーニングスターを持ち、悍ましい表情で私達を見下ろしている。体長は四メートル以上もあり、以前ベルガーのダンジョンで遭遇したアラクネよりも更に大きい。赤色の髪を長く伸ばし、ギラギラとした目で私達を睨みつけている。


 黒い鎧を纏ったデュラハンは、ランドルフよりも体が大きい。多分身長は二メートルを超えているだろう。ロングソードを構えて私達の出方を伺っている。


「悪夢だ……アラクネが二体も居たら勝てる訳ないじゃない」

「大丈夫だよエミリア。俺が居る」

「敵の数が多すぎるよ……」

「それじゃ逃げ出すかい?」

「それは絶対嫌よ……」

「危なくなったら聖域の魔法陣の中に逃げるんだよ。いくぞ!」


 ヘルフリートが叫んだ瞬間、三体のデュラハンと二体のアラクネが襲い掛かっていた。私はすぐにホーリーシールドの魔法を使い、目の前に大きな盾を作り上げた。一番最初に攻撃を仕掛けて来たのはアラクネだった。鎖がついた鉄球の一撃をヘルフリートに対して放った。ヘルフリートはアラクネの攻撃を回避すると、ロングソードを両手で握りしめて鎖に切りつけた。瞬間、アラクネのモーニングスターの鎖が切り裂かれた。鎖から切り離された鉄球は森の中に飛んで行った。武器を失ったアラクネは、モーニングスターを投げ捨てると、スケルトンが落とした剣を拾い上げた。


 三体のデュラハンは私をターゲットに決めたのか、ヘルフリートを無視して私に剣を振り上げた。恐ろしい……今すぐ逃げ出したい。聖域の魔法陣に逃げ込みたい。だけど、私が聖域の魔法陣の中に逃げれば、ヘルフリートは一人で五体の敵と戦う事になる。ヘルフリートだって無敵じゃない。自分のレベルとほぼ同等、五体のモンスターから総攻撃を受ければ、たちまち命を落とすだろう。私はホーリーシールドで身を守りながら、デュラハンに向けて魔法を唱えた。


『アイスジャベリン!』


 杖の先端からは、丈夫な氷の槍が生まれ、氷の槍はもの凄い速度でデュラハンに襲い掛かった。デュラハンは急いで剣を構えて私の攻撃を防御した。私が放った氷の槍は、デュラハンの剣を弾き飛ばすと、粉々に砕け散った。これはチャンスだわ。相手が武器を失った今、さらに攻撃魔法を放つ。


『ホーリー!』


 杖の先からは巨大な銀色の魔力の塊が放出された。魔力の塊はデュラハンの体を捉えると、黒い鎧に包まれたデュラハンの体は、森の遥か彼方まで吹き飛ばされた。遠くの方からデュラハンのもだえ苦しむ声がする。残るデュラハンはあと二体。


 ヘルフリートはアラクネに対して、次々とホーリーアローを放ち、アラクネの巨大な体に大量の風穴を開けた。アラクネは悍ましいうめき声をあげると、辺りに黒い体液と闇の魔力を撒き散らしながら息絶えた。仲間を殺されたアラクネは、鬼のような表情を浮かべて、ヘルフリートにモーニングスターの一撃を放った。ヘルフリートは敵の攻撃を受けずに後退すると、遠距離から次々とホーリーアローを打ち込んだ。アラクネはヘルフリートの攻撃をモーニングスターで器用に叩き落としている。あの武器は厄介ね……ヘルフリートの攻撃まで防げるのだから。


 私の前には二体のデュラハンが立ちはだかっている。ロングソードを構えた二体のデュラハンが、私の左右から攻撃を仕掛けてきた。私は敵の攻撃を回避し、デュラハンの胴体にホーリーの魔法を打ち込んだ。デュラハンの体は小さな風穴が空いたが、致命傷には至らなかったようだ。


 二体のデュラハンがロングソードの攻撃を次々と私に仕掛けてきている。私は敵の攻撃をホーリーシールドで防御し続けているが、もう魔力の限界だ。聖域の魔方陣に逃げ込むしかない……。


 敵に背を向けて魔方陣に飛び込もうとした瞬間、腹部には激痛が走った……何が起こったのだろう? 恐る恐る腹部を見てみると、デュラハンのロングソードが私の腹部を貫いていた……大量の血が滴り落ち、私の意識が遠のいてゆく……。

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