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第五話「自称賢者」

「エミリア! 怪我はないのかい?」

「はい、大丈夫です、ザーラ叔母さん」


 ザーラ叔母さんは目に涙を浮かべながら、私の体に触れて安否を確認している。 無事を確認すると、安心した表情を浮かべて私を抱きしめてくれた。暖かい……。人の温もりを感じたのは本当に久しぶり。


「エミリアが無事なら良かったよ。今までどこに居たんだい?」

「南口を出て十分程歩いた森の中に居ました。冒険者ギルドのイーダさんと一緒に」

「そうかい。さっきイーダさんがギルドに運ばれていたけど、大丈夫だったのかい?」


 私は森の中で起こった事をゲレオン叔父さんとザーラ叔母さんに話した。念のため、本が魔法陣の書き方を教えてくれた事だけは内緒にしておいた。


「すると、エミリアがキュアとヒールを掛けてイーダさんを助けたんだな! やっぱり! エミリアは魔術師としての才能がある! ハース魔法学校から手紙が来たのも頷けるな。ハース魔法学校は迷宮都市ベルガーで一番の名門校だからな!」

「そうみたいね。エミリア、あなたは魔術師になった方が良いかもしれないわね」

「本当ですか!」

「ええ。誰からも魔法を教わらずに、ヒールとキュアを使えるのですもの。魔術師になる素質は十分にあるわ」


 ザーラ叔母さんも私が魔術師を目指す事に賛成してくれている。賢者を名乗る本には本当に感謝しなければならないわ。


 私はそれから二階にある部屋に戻り、すぐに本に対してお礼を書く事にした。狭い階段を上がって左手にあるのが私の部屋。広くはないけれど、ベッドと机と椅子がある。机の上に本を置き、早速本を開いて賢者を名乗るモンスターにお礼をしよう。


 本の一ページ目には、見た事もない文字が書かれていた。最後に見た時はこんな文は無かったのに……。


 賢者 ヘルフリート・ハース

 Lv.0:力…0 魔力…5 敏捷…0 耐久…0

 属性:【無】


 信じられない……。本の中に賢者ハースのステータスが表示されている。一体どういう事だろう。私はすぐに羽根ペンにインクを付けて本に書き込んだ。


 『あなたは本当に賢者ヘルフリート・ハースなの?』

 『そうだ。本の中に俺のステータスが表示されているな。魔力は5か……きっとエミリアが魔法を使った事によって、本の中にまで魔力が流れてきたのだろう』

 『本の中に魔力が? 信じられない……』

 『俺も信じられないよ。もしかしたら、俺は再び外の世界に出る事が出来るかもしれない』

 『外の世界に?』

 『ああ、君が俺の事を召喚してくれればな』

 『どうやって召喚するの?』

 『厳密に言えば、俺を召喚するには、俺自身の魔力が含まれた魔石が必要だ。俺は今、魂の状態で本の中に居る』

 『魔石……そういえばさっきゴブリンが魔石を落としたわ』

 『その魔石を右手で持ち、左手で本に触れてくれ』

 『分かったわ』


 私はゴブリンが落とした魔石を右手に持った。魔石は強く光り輝くと、私の体の中にはゴブリンの魔力が流れてきた。すると、ゴブリンの魔力は私の体を通って本の中に流れた。


 ゴブリン

 Lv.1:力…110 魔力…30 敏捷…50 耐久…150

 属性:【土】

 魔法:アース


 嘘……。ゴブリンのステータスが本の中に書き込まれている。


 『本を床に置いて、杖を構えてこう唱えるんだ。ゴブリン・召喚と』

 『ゴブリン召喚? 私、ゴブリンなんて仲間にしたくないわ』

 『大丈夫だ。さぁ、早く』

 『あなたの事、信じているからね』


 私は本を床に置いて、ベルトに挟んでいた魔法の杖を引き抜いた。杖を本に向けて魔力を注ぐ。


『ゴブリン・召喚』


 魔法を唱えた瞬間、本は暖かい光を放って輝き始めた。何が起こっているのだろう。もしかしてゴブリンを召喚出来るのかな。私の召喚獣になってくれるゴブリンが……。ありったけの魔力を本に込めると、本からは強い光を放ちながら、一体のモンスターが姿を現した。まさか……。


『やぁ、エミリア』

「……」


 私は言葉を失った。目の前には背の低いゴブリンが笑みを浮かべて私に手を振っている。どうして……? 本当に私が召喚したのだろうか。


『今はエミリアの頭に直接話しかけている。俺は賢者ヘルフリート・ハースだ。こうしてもう一度この世界に出られたのは君のお陰だ。感謝する』

『頭の中に、直接?』

『そうだ。知能が高い召喚獣は主人と念話をする事が出来る。ゴブリンの体では上手く言葉を出せないから、俺は念話を使って話す事にするよ。エミリアは普通に話してくれて構わない』

「本当に賢者様なの?」

『そうだ。どうして疑う必要がある』


 新しく生まれてきたゴブリンは、嬉しそうに自分の体をぺたぺたと触って確認している。


『本の中からは君の容姿は分からなかったが、君は本当に美しい少女だな……』

「馬鹿……こんな時にふざけないで」

『おっと、失礼。しかし、外の世界は素晴らしい! 外に出るのは何年ぶりだろうか』

「今はガザール暦1300年よ」

『俺が死んだのはガザール暦700年だから、六百年ぶりに体を取り戻したという訳か。なんとも幸せな気分だ!』


 ゴブリンの見た目をした賢者ハースは楽しそうに笑いながらはしゃいでいる。今、目の前に本物の賢者ハースが居る。誰もが知っている、大陸を支配していた魔王を倒した張本人が。


『エミリア、早速で悪いんだが、俺はゴブリンという生き物が嫌いなんだ。他のモンスターの魔石を持っていないのか? エミリアの魔力で扱える範囲のモンスターなら、きっと自由に召喚する事が出来るはずだ』

「あ、それならお店にあるはず。ちょっと待っていてくれる?」

『わかった。俺は一度本の中に戻るよ、魔石を見つけたらまた書き込んでくれ』

「わかったわ」


 ゴブリンはそう言うと、床に置かれている本を開いた。本からは綺麗な銀色の光が宙に浮かび、銀色の光は輪の形を作った。ゴブリン、いいえ、賢者ハースは私に小さく手を振ると輪の中に入って。賢者ハースが輪の中に入った瞬間、光が消えた。


 『さぁ、エミリア。新しい俺の体を探してきてくれ! 出来れば飛行できるモンスターならありがたい』

 『すぐに探してくるわ』

 『楽しみに待っているよ』


 今、信じられない事が目の前で起こった気がする。本の中に入っていた正体不明のモンスター。賢者ヘルフリート・ハースを名乗る者が、実際に本の中から出てきて、戻って行った。まだ確信は出来ないけれど、私は彼が本物の賢者ハースの様に思える。


 イーダさんがゴブリンの攻撃を受け、意識を失った時、的確に指示を出してくれたのは彼だし……。十分信用出来る人なのは間違いなさそう。私はすぐに一階に降りて、ゲレオン叔父さんに余っている魔石が無いか聞いてみる事にした。


「ゲレオン叔父さん、余っている魔石ってありますか?」

「魔石? 加工でもして使うのかい?」

「ちょっと試したい事があるんです」

「そうか、それなら一緒に倉庫を見てみようか」

「お願いします!」


 私はゲレオン叔父さんと再び倉庫の中に入った。ゲレオン叔父さんは、魔石が入っている小さな箱を取り出して私に見せてくれた。


「この中に入っている魔石は弱いモンスターの物だよ。レベル1程度のモンスターの魔石で、売り物にはならないな。強い魔力を持つ魔石は全て加工して店に出してある」

「武器や防具なんかに嵌めると強化出来るんですよね。魔石って」

「そうだよ。ここにある魔石なら自由に使って良いからね。どんな魔石を探しているんだい?」

「そうですね……飛行出来るモンスターで、なるべく見た目が良いモンスターの魔石ってありますか?」

「飛行出来るモンスターか……闇属性のボールアイなんかは浮遊タイプのモンスターだな。一つ目のモンスターで、墓地なんかによく現れる低級のモンスターだ。まぁ見た目は良くないな。ガーゴイルなんてどうだ? 火属性のモンスターで知能も高い、ガーゴイルを使い魔にしている魔術師も多いぞ」

「ガーゴイル? それにします!」

「そうかい。それじゃ、この魔石を持っていきな」

「ありがとうございます!」


 ゲレオン叔父さんが渡してくれた魔石は、赤く宝石の様に光り輝いていて、手に持つだけで心地の良い火の魔力を感じる。大きさは七センチ程。小さいけれど、なんだか強いモンスターの力を感じるような気がする。魔石を受け取ると、私は大急ぎで部屋に戻った。


 『賢者ハース、魔石を持ってきたわ』

 『待っていたよ、エミリア。さっきと同じ要領で召喚しておくれ』

 『分かったわ』


 右手でガーゴイルの魔石を持ち、左手で本に触れた。ゴブリンのステータスが書かれている次のページには、ガーゴイルのステータスが浮かんだ。


 ガーゴイル

 Lv.1:力…140 魔力…130 敏捷…150 耐久…155

 属性:【火】

 魔法:ファイア


 さっきのゴブリンと比較しても随分強いんだわ。本を床に置き、本に魔法の杖を向ける。杖に意識を集中させると、キラキラした銀色の美しい魔力が杖の先端から飛び出した。本は私の魔力を吸収して暖かい魔力を放った。しばらく魔力を注いでいると、本の中からは一体のモンスターが飛び出してきた……。

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