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魔法幻想紀 - 迷宮都市の賢者と魔術師 -   作者: 花京院 光
第二章「迷宮都市編」
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第三十九話「神と魔法陣」

 三階層で目的の薬草を摘み終えた私達は、すぐにベルガーの町に戻り、アラクネの討伐を冒険者ギルドに報告する事にした。ギルドに入ったヘルフリートは、職員を集めて事情を話し始めた。


「俺はファントムナイトのヘルフリートだ。つい先程まで、ダンジョンの三階層で狩りをしていたのだが、三階層には闇属性のレベル4のモンスター、アラクネが生息していた。先日、このギルドでダンジョンの説明を受けた時、一階層から五階層までは、スケルトンやスライム、ゴブリン等、レベル1の低級なモンスターしか湧かないと聞いたのだが」

「レベル4のアラクネ? それは本当ですか?」

「ああ、本当だとも。これがアラクネの魔石だ。そして、この武器が三階層から四階層に降りる階段の前で待ち構えていたアラクネの武器だ」


 ヘルフリートは職員にアラクネの魔石とモーニングスターを渡した。


「魔石……と言う事は既にアラクネを討伐されたのですか?」

「そういう事だ」

「信じられませんね……レベル4のモンスターを討伐してしまうとは。迅速なご報告とアラクネの討伐、ありがとうございました。ファントムナイト様のパーティーが、今日ダンジョンでアラクネを討伐をして下さらなかったら……低レベルの冒険者達は、たちまちアラクネの餌食になっていたでしょう」

「気にする事は無い。俺達も運よく倒せたのだ」

「討伐に対する報酬をお渡ししたいのですが、どのような品がよろしいですか?」

「現金で頼む」

「今回の討伐の功績を考えますと……千五百クロノでいかがでしょうか?」

「良いだろう」


 アラクネ討伐の報酬と、魔石の買い取り額、それから持ち帰った武器と防具の買い取り額を合わせた金額を平等に分配した。今日の稼ぎは一人三百クロノだった。


「師匠、本当に貰っても良いのか? アラクネは師匠が一人で倒した様なものじゃないか」

「そんなことは無いぞ。皆が他のモンスターの相手をしてくれたお陰で倒せたんだ」

「それじゃ遠慮なく頂くぞ。この金で防具を買う事にしよう」


 稼ぎを分配した私達は、その場で解散した。私とヘルフリートは学校に戻って夕食を頂く事にした。学校の大広間では、生徒達が楽しそうに夕食を食べていた。空いている席に座ると、ヘルフリートは少し疲れた様にため息をついた。


「全く……三階層にアラクネが居るダンジョンなど、俺が生きていた時代には存在しなかったぞ。どうなっているんだ、今の世の中は」

「そんなに大変な事なの?」

「ああ。駆け出しの冒険者でも辿り着ける浅い層に、あれ程までに邪悪なモンスターが湧いていたのだからな。たまたま俺達が最初に発見したから死人は出なかったが、レベル1やレベル2の冒険者なら、たちまちアラクネの餌食になっていただろう」

「そうだよね……」


 私達がダンジョンに潜ったタイミングが良かったんだ。偶然でしかないけれど、私達がダンジョンに潜った事により、危険なモンスターを討伐出来たなら、今日の私達の狩りは無駄ではなかった。それに、ティアナのお母さんのための薬草も摘む事が出来た。


「ベルガーの町の地下では魔物が活性化しているのだろうな。ギルドの職員が俺にこっそりと教えてくれたが、最近、湧くはずもない高レベルのモンスターが、比較的浅い層に沸いていると。レベル3以下の冒険者を立ち入り禁止にする案も検討されているらしい」

「やっぱりあのダンジョンは随分危険なんだね」

「そのようだね。エミリア、これから魔法を学んで力を付ければ、自分の力を試したくなる日が必ず来る。俺にもそんな時期があったが、そういう時期こそ慎重にモンスターとの戦いに挑まなければならない。自分のレベルを遥かに上回るモンスターが湧く狩場には近づいてはいけないよ」

「大丈夫だよ。もし行く時はヘルフリートに相談するから。それに、ヘルフリートだって最近傷だらけになって帰ってきたじゃない。まったく……心配したんだからね!」

「その件は……俺も自分の力を過信していたのかもしれないね。モンスターの体では俺の本来の力は引き出せない」

「早めに元の体に戻りたいよね……」

「まぁね。ゆっくりで良いさ。それに、この体も悪くない」


 ヘルフリートは鞄を肩から降ろすと、お金が入っている袋を取り出した。


「エミリア、ルーンダガーの分のお金を返すよ。確か百五十クロノだったね」

「ありがとう」

「ロングソードの代金も今月中に返せると思うよ」

「無理はしないでね。そして、ダンジョンに入るなら私も連れて行ってね」

「勿論さ」


 ヘルフリートは私の肩に手を置くと、彼の温かい魔力が伝わってきた。私は今日、ヘルフリートの本当の強さを実感した。大広間でのレッサーデーモンとの戦闘は特に凄かった。複数のレッサーデーモンの攻撃を受け流しながら、仲間の状況を確認し、遠距離からの攻撃と防御魔法で仲間を守っていたのだから。ヘルフリートからすれば、レッサーデーモンなんて自分よりも遥かに弱い存在なのでしょうけど……。


 夕食を終えた私達は部屋に戻り、いつもの様に魔法陣の練習を始めた。ヘルフリートはガーゴイルの姿に戻り、大広間から持ってきた肉を食べながら葡萄酒を飲んでいる。


『ファントムナイトの体の方が強いが食事は出来ない。やはりガーゴイルは良い……』

「自分の体がないって、どんな気分なんだろう」

『まぁ、無いわけではないけど、様々な体を使えるのはなかなか便利だよ。ガーゴイルならこうして空を飛ぶ事も出来る』


 ヘルフリートは翼を開いて飛び上がると、私の肩の上に飛び乗った。


『エミリア、今日は新しい魔法陣を教えるよ。魔法陣の名前は、天空の魔法陣。これは今のエミリアでは絶対に完成させられないだろう。レベル8か9の大魔術じゃなければ、この魔法陣を書き上げる事は出来ない』

「それじゃあ、どうして今教えてくれるの?」

『この魔法陣なら、エミリアの両親に掛けられた錯乱の呪いを解く事が出来るからだよ』

「え……」

『形だけでも見ておきたいだろう?』

「本当なの? ヘルフリート!」

『本当さ。この魔法陣を実際に書き上げるには、莫大な量の魔力を必要とする。今挑戦しても決して成功はしないだろう。しかし、やる気は出るだろう? 目指すべき目標が目の前にあるとさ』

「そうだよね……見てみたいよ。その魔法陣を」

『それじゃ賢者の書に書くとしよう』


 ヘルフリートは賢者の書を開くと、本の中に戻って行った。本の中から書くつもりなのだろう。しばらく待っていると、非常に複雑な魔法陣が浮かび上がった。大地の魔法陣や、氷霧の魔法陣など比較にならない程、線が複雑に入り組んでいる。魔法陣を書き終えたヘルフリートをガーゴイルとして召喚すると、疲れた様子でソファに倒れこんだ。


『さぁ、自分が目指すべき目標を確認するんだ……今は絶対に書き上げる事は出来ない。しかし、エミリアならいつか天空の魔法陣を使いこなせるようになる』

「どうしてヘルフリートはそう確信できるの?」

『俺がエミリアを助けるからだよ。だからエミリアはきっと自分の力で、両親に掛けられた呪いを解ける魔術師なる』

「ヘルフリートが私を……」


 私はヘルフリートの体を持ち上げると、強く抱きしめた。ヘルフリートから魔法を習えば、私はいつかきっと両親に掛けられた呪いを解除できる力を手に入れられる。これからもヘルフリートを大切にしながら、私は強くなるんだ。


『天空の魔法陣の効果は、死の呪い以外の全ての呪いを解除し、あらゆる異常状態を回復させる効果がある』

「だけど、どうして魔法陣を書いたら、そんなに凄い力を得られるのかしら」

『魔法陣は神との契約とも言われている。自分が鍛えた魔力を魔法陣として神に提示する。魔法陣は簡単な試験だと思えば良い』

「試験?」


 試験とはどういう事なんだろう……。


『正しい魔法陣が書けたら、神が一時的に力を貸してくれる。そう考えれば理解しやすいだろう。天空の魔法陣を書ける魔術師になるまで、聖属性の魔力を鍛え続けた者にのみ、神は自分自身の力を一時的に授ける。そもそも、聖属性の魔法は癒しの魔法。傷を癒し、痛みを消し、呪いを解除する。他人のために聖属性の魔法を使い、己の魔力を鍛え続けた者にのみ、神は最上級の癒しの力を与える』

「という事は……神が認めるような人間になれと言う事ね」

『まぁ、簡単に解釈するならそうなるね』

「先は随分長そうね……」

『ゆっくりと魔力を鍛え、他人のために魔法を使い続けていれば、ありとあらゆる神が自分に力を貸してくれるようになる』


 毎日努力して、魔法の練習を続ければ、いつか天空の魔法陣を書ける魔術師になれるのだろうか。私は寝るまでの間に、新しく覚えたエンチャントの魔法を復習した。魔力を使い果たすまで魔法を使い続けると、早めにお風呂に入ってから眠る事にした。


「ヘルフリート……」


 私は布団の中にヘルフリートを入れて抱きしめた。しばらく彼の温かい魔力を感じていると、いつの間にか眠りに落ちていた……。

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