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魔法幻想紀 - 迷宮都市の賢者と魔術師 -   作者: 花京院 光
第二章「迷宮都市編」
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第三十六話「獣人三兄弟」

 ヘルフリートと共に校門に向かうと、ティアナと三人の獣人が私達を待っていた。獣人達は背が高く、斧を持っている。白狼と人間の中間種だろうか、モフモフした尻尾が可愛らしい。


「エミリア、紹介しよう。ディーゼル三兄弟だ。新しく俺に弟子になった」

「弟子?」

「そうだよ。まぁ、エミリアの兄弟弟子だな。さっき知り合ったのだが、俺が育てる事にした」


 名前はランドルフ、ヴィクトール、バルタザールと言うらしい。身長百九十センチ以上、長身で体格の良い獣人がランドルフ。ヴィクトールとバルタザールは双子なのか、ほとんど見分けがつかない。二人の身長は百七十センチだろうか、筋肉質で見るからに強そうだ。


「さて、人数が増えたが、俺達はこれからティアナのお母さんのために、薬草を探しにダンジョンに潜る。その前に、冒険者ギルドに寄ってクエストが無いか確かめようか」

「わかったぞ。師匠」


 ランドルフは笑みを浮かべてヘルフリートを見つめている。私が授業を受けている間に、子を三人も増やすなんて。ヘルフリートは一体何を考えているのかしら。


「エミリア、ギルドカードは持ってきているかい?」

「ええ」

「それなら良かった。エミリアが代表してクエストを受けてくれるかな。きっとダンジョン内のモンスターの討伐クエストがあるだろう」

「わかったわ」


 私達が冒険者ギルドに入ると、ギルドの職員が駆け寄ってきた。


「ローゼンベルガ―様! ファントムナイトの召喚に成功したのですね!」

「はい。先日、召喚に成功しました」

「それは何よりです。今日はクエストを受けに来られたのですか?」

「はい。ダンジョン内の討伐クエストはありますか?」

「少々お待ち下さい!」


 しばらく待っていると、ギルドの職員は一枚の羊皮紙を持って戻ってきた。


「ベルガーのダンジョン、一階層から五階層までのモンスターの討伐。モンスターの種類は問いません。十体討伐して頂ければ魔石の買い取り額に十クロノ上乗せします」

「十クロノですか?」

「よし、エミリア。受けよう」

「受けて頂けますか? それではカウンターにギルドカードをかざして下さい」


 ギルドカードをカウンターの上の石板に当てると、ギルドカードにはクエストの内容が刻まれた。十体倒すだけで十クロノも頂けるんだ。きっとヘルフリートなら短時間で大量のモンスターを倒すだろう。これは稼ぎやすいクエストだわ。モンスターの種類の指定も無いのだから。


 私達は冒険者ギルドを出ると、ダンジョンに向かって歩き始めた。ダンジョン付近の露店でマナポーションを五つ購入して鞄に仕舞った。ヒールポーションに関しては、ヘルフリートが必要ないと言ったので買わなかった。ヘルフリートはダンジョンに入る前に皆を集めた。


「これから陣形の説明をする。前衛は俺とランドルフ。中衛はティアナ、エミリア。ヴィクトールとバルタザールはティアナとエミリアを守りながら後衛を頼む。エミリアは遠距離からの攻撃魔法と回復魔法を担当してくれ。俺とランドルフは敵を見つけ次第攻撃を仕掛ける。ヴィクトール、バルタザール、ティアナは後方でエミリアを守りながら、俺達が倒して切れなかった敵の相手を頼む」


 仲間達は静かに頷くと、ついにダンジョンの中に入った……。ヘルフリートとランドルフが先頭を歩ている。二人共既に武器を抜いており、慎重にダンジョンの中を進んでいる。獣人達の強さは全く分からないけど、ヘルフリートが弟子にする程なのだから、きっと戦い慣れているに違いない。


 ダンジョンに入ると、二体のゴブリンと出くわした。ゴブリン達は私達の姿を見つけるや否や、ナイフを構えて襲い掛かってきたが、ヘルフリートが目にもとまらぬ速度で抜刀した瞬間、ゴブリンは息絶えていた。


 気が付いたらゴブリンが死んで魔石を落としていたという表現が適切かもしれない。剣を抜くところまでは目視出来たのに、ゴブリンに切りつける瞬間は見えもしなかった。私のアイスエレメンタルとの戦いも、ゲゼル先生とのウッドマンとの戦いも、かなり手を抜いたに違いない。ファントムナイトの体でこれだけ強いのなら、本当のヘルフリートの体を取り戻したらどこまで強くなるのかしら……。


「師匠はやっぱり強いんだな……こんなに強い師匠を召喚したエミリアはもっと強いのだろう」

「エミリアは強いが、魔術師として完成するにはまだ時間が掛かるな」

「そうなのか?」

「うむ……しかし、将来は偉大な魔術師になるだろう」


 一階層のゴブリンやスライムでは、ヘルフリートとランドルフには刃が立たないみたい。私達の出番はまだ一度も訪れていない。


 一階層の攻略を終えた私達は二階層に降りた。今度はヘルフリートとランドルフの体力を温存するために、ヴィクトールとバルタザールが前衛を担当した。二人はバトルアックスを手に持ち、慎重に通路を進んでいる。薄暗いダンジョンをゆっくりと進むと、ヴィクトールが突然立ち止まった。


「この先に敵が居るな……」

「わかるのか? ヴィクトール」

「ああ。俺には分かる。兄弟の中でも一番聴力が高いんだ。遠くに居る獲物の動きも手に取るように分かる」

「そいつは凄いな」

「敵の数は五体。次の通路の角を曲がると俺達を見つけるだろう」

「通路に到着するまでの時間は?」

「二十秒か三十秒だ」

「エミリア。ここは任せよう。君ならどう敵を倒す」


 え? あと数十秒しかないのに、ヘルフリートは私に敵を任せると言っている。どうしたら良いのだろう……。通路は丁字になっていて、ヴィクトールの説明だと右側の通路からモンスターが歩いてきているそうだ。


 私は何も考えず、急いでアイスエレメンタルを作り上げた。作り上げたアイスエレメンタルを、丁字路の左側に進ませた。丁字の通路の右側に居たモンスター達は、エレメンタルの姿を見つけるや否や、エレメンタルを追いかけて通路を真っ直ぐに進んだ。私は急いで丁字路の中央に立つと、モンスターの背後から魔法を唱えた。


『アイスジャベリン!』


 魔法を唱えた瞬間、百五十センチ程の氷の槍が生まれた。氷の槍をモンスターに向けて放つと、遠くの方からモンスターの悲鳴が聞こえた。次々とアイスジャベリンを撃つと、ヴィクトールが近づいて、モンスターは既に死んでいると伝えてくれた。通路を進むとゴブリンの魔石が五つ落ちていた。


「エミリア。なかなか良い作戦だったけど、敵がエレメンタルを追いかけずに、通路を曲がってこちらに来たらどうしたのかな?」

「あ……そういう可能性もあるよね」

「うむ。この場合の一番良い作戦は、罠の魔法陣を使う事だったかもしれないな。敵が通ると思われる場所に、予め魔法陣を書いて魔石を設置する。魔石はファイアの魔石で良いだろう。低レベルのモンスターは火属性が苦手な者が多い。敵が魔法陣の中に入った瞬間、総攻撃を仕掛ける」

「確かに……魔法陣を使えばもっと良かったかもしれないわね」


 私達のやり取りを聞いていたディーゼル三兄弟は不思議そうな顔をして近付いてきた。


「なぁ、師匠。召喚獣なのに、召喚士が弟子っていうのはどういう事なんだい?」

「この際だからお前達には伝えておこう。俺は賢者ヘルフリート・ハースだ」

「賢者……? からかっているのか? 師匠」

「からかってはいないさ。俺はエミリアの力によって現代に召喚された賢者ハースだ」

「それをどうやって証明するんだ?」

「エミリア、俺をゴーストとして召喚してくれるかい?」

「ええ」


 私はヘルフリートをゴーストとして再召喚すると、獣人達は大いに驚いた。ゴーストとしてヘルフリートは、生前と全く同じ姿をしている。この大陸に住む者なら、誰でも絵本で見たり、銅像で事がある。本物の賢者ヘルフリート・ハースの姿だ。


「信じられない……フレーベルの町にある賢者ハースの銅像とそっくりだ」

「あの銅像はまだあるのか。俺が魔王を討伐した時に建てられた物だな」

「賢者ヘルフリート・ハースが生きている! 俺達の師匠は本物の賢者ハースなんだ!」

「そういう事だ」


 ヘルフリートは懐かしそうに自分の体を見たあと、本の中に戻って行った。ファントムナイトとして再召喚すると、獣人達はヘルフリートの体を嬉しそうにぺたぺたと触っている。


「さっきまでゴーストだったのに、今はファントムナイトなのか。道理で驚異的な強さだと思ったぞ」

「まだまだ生前の力は取り戻せていないがな。さぁ、先を急ごう」


 二階層のモンスターを全て討伐した私達は、三階層へ続く階段を降り始めた……。

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