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魔法幻想紀 - 迷宮都市の賢者と魔術師 -   作者: 花京院 光
第二章「迷宮都市編」
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第三十三話「木人形」

 今日はティアナとヘルフリートと共にダンジョンに潜る日だ。ティアナのお母さんのために、ダンジョンの三階層で薬草を摘まなければならない。八時から十二時までは魔法学校で授業を受け、昼に一時間休憩してから、一時にティアナと校門の前で合流する事になっている。


「今日の一時間目の授業はゲゼル先生の攻撃魔法か、俺も出るとしよう」

「二時間目がクライン先生の薬学、三時間目がベル先生の回復魔法、四時間目が魔法研究の授業ね」

「魔法研究の授業?」

「時間割にはそう書いてあるよ。担任は学長のアレクサンダー・クロス先生」

「俺は二時間目の薬学と回復魔法の授業はサボる事にするよ。必要ないからね。四時間目の魔法研究の授業は面白そうだから出てみよう」

「ヘルフリートは自由で良いよね……」

「俺は学生じゃないからな! 召喚獣だから自由に行動出来る。二時間目と三時間目は外に出てくるよ」

「またダンジョンに行くの?」

「いいや。その時間にはティアナに剣術を教えようと思う」


 ティアナって普段はどこで何をしているんだろう。歳は私と同じだと言っていたけれど。


「ティアナの家に迎えに行くつもり?」

「そうだね。家の場所は聞いているから、迎えに行ってお母さんの様子を確認してから、町の近くで剣術を教えるつもりだよ」

「一時間目と四時間目は一緒に居られるんだ」

「ああ。それ以外の時間もいつも一緒じゃないか」

「私達、出会ってからまだ一カ月も経っていないのに、随分長い時間一緒に居る友達みたい」

「確かにね。短い間に色々な事があったな……エミリアが賢者の書を手に入れ、森の中で本の中の俺に助けを求めたり、防具に潜む怨霊を追い払ったり。コリント村からベルガーまでの道中でも、毎日魔法の練習をしたよな」

「そうだよね……色々あったよね」

「これからもよろしく頼むよ。さて、朝食を頂いてから一時間目のゲゼル先生の授業に出ようか」


 ヘルフリートは朝食を食べるために、ガーゴイルの体に戻りたいと言った。ファントムナイト体では食事が出来ないからだ。私はヘルフリートを再召喚すると、彼は嬉しそうに部屋を飛び回った。ガーゴイルになったヘルフリートは私の肩の上に飛び乗ると、私の頭に両手を回して抱き着いた。


 大広間に入ると、レオナとリーゼロッテが先に食事をしていた。空いている席に座り、ヘルフリートと共に朝食を頂いた。食事を食べ終えた私は、ヘルフリートをファントムナイトの姿に戻し、ゲゼル先生の授業が行われる攻撃魔法の教室に移動した。


 教室に入ると木製の人形が何体も置かれていた。一体何に使うのだろう。木の人形は、右手に剣を持ち、左手に盾を持っている。剣と盾は木製で、ハース魔法学校の紋章が入っている。ゲゼル先生が木の人形に杖を向けて魔力を吹き込むと、跪いて頭を下げた。まるで騎士みたいね。


「皆さん、おはようございます! 一時間目の攻撃魔法の授業は、このウッドマンと戦って頂きます。ウッドマンに対して攻撃魔法を放ち、破壊して下さい。ただし、使える魔法は、属性魔法の中でも最も基本的な攻撃魔法。ファイア、ウォーター、サンダー、ウィンド、アース、アイス、ホーリー、ダークの魔法に限ります」


 私の場合は二種類の属性が使える訳だから、アイスとホーリーの魔法が使えるんだ。だけど、どうして基本的な攻撃魔法に限定されているのだろう。


「単純な魔法を何度も使い、魔力を鍛えましょう。複雑で効果の高い魔法を使う事も大切ですが、まずは基本的な魔法から徹底的に覚えて頂きます。また、ウッドマンは反撃をします。回避しながら攻撃をして下さい! ダメージが一定量に達した場合、ウッドマンは攻撃の手を止め、跪きます。それでは見本を見せます」


 ゲゼル先生は、教室の中央に一体の体の大きいウッドマンを連れてくると、ウッドマンは剣を構えてゲゼル先生に襲い掛かった。ゲゼル先生は剣の一撃を回避すると同時に魔法を放った。


『ファイア!』


 ゲゼル先生が魔法を唱えた瞬間、杖の先からは巨大な炎の塊が放出された。炎はウッドマンの体に纏わりつくように燃えると、ウッドマンは体を燃やしながら倒れた。


「ダメージが一定量を超えると、降参の意味で跪きますが、ダメージに耐えられなくなった場合は、この様に力尽きます。魔力が四百以上ならウッドマンに勝てるでしょう! 私は皆さんの戦い方を見ながら、改善すべき点を指摘して回ります。その際、私はウッドマンに対して回復魔法と防御魔法を掛けて強化しますので、皆さんの力でウッドマンに打ち勝ってください!」


 教室の大きさの関係上、十人ずつウッドマンと戦う事になった。一年生は全員で五十人程だろうか。ゲゼル先生は一番最初に私の名前を呼んだ。


「エミリア、俺はここで見ているからね」

「うん、行ってくるね」


 名前を呼ばれた十人の生徒は、教室の中央に移動した。ウッドマン達は、それぞれが担当する生徒に向けて武器を構えている。私が戦うウッドマンは、背が低くて身軽な感じのウッドマンだ。木製のレイピアを持ち、小さなラウンドシールドを装備している。


「それでは始めて下さい!」


 ゲゼル先生の合図と共に、私達の戦いが始まった。背の低いウッドマンは盾を体に密着させ、剣を私に向けて、慎重に間合いを詰めて来る。私はウッドマンの間合いに入らない様に、ゆっくりと後退しながら杖の氷の魔力を溜めた。まずは足元にアイスの魔法を放ち、ウッドマンの自由を奪う。それから動けなくなったタイミングで攻撃を仕掛ける。


『アイス!』


 杖を向けて魔法を唱えると、強い冷気が発生し、ウッドマンの足元に目がけて発射された。ウッドマンは瞬時にローリングをして私の攻撃を回避すると、左手に持っていたラウンドシールドを力強く投げた。まさか盾を投げてくるなんて……。私は盾に対してアイスの魔法を放ち、ウッドマンの盾を吹き飛ばした。瞬間、ウッドマンのレイピアは私の首元に触れていた。


「ミスローゼンベルガ―! なかなか良かったですよ。ですが、少々単純だったかもしれないですね。それでは次の方と交代して下さい」


 ウッドマンがこんなに俊敏に動き、まさか盾で攻撃を仕掛けてくるなんて。今まで出会ったどんな敵よりも戦いずらい。


「エミリア。よくやった! しかし、あのウッドマンはかなり戦い慣れているな。日常的にモンスターと戦っている者の動きだったぞ。駆け出しの魔術師ではあのウッドマンに勝つ事は不可能だな」

「そうみたいね……盾を投げてくる敵なんてダンジョンの中にも居なかったし、コリント村からベルガーまでの道にも居なかったよ」

「確かにな。エミリアにとっては新鮮で良いだろう。あれは優れた剣士だ。俺も手合わせをしたいところだな」


 ヘルフリートが小さく呟くと、ゲゼル先生はヘルフリートの言葉を聞き逃さなかった。


「ミスローゼンベルガ―! あなたのファントムナイトに手本を見せてもらいましょうか!」

「良いのですか?」

「はい! ファントムナイトの戦い方など、普段めったに見られませんからね」


 ヘルフリートは教室の中央まで移動すると、剣を置いた。ウッドマンは剣も盾も使えるのに、ヘルフリートが丸腰では不利に決まっている。


 ヘルフリートは右手を地面に向け、聖属性の魔力を放った。地面には一瞬で大地の魔法陣が現れた。なんて速度なの……? 時間にして一秒も掛からなかった。私が大地の魔法陣を書けば五分は掛かるのに、ヘルフリートにとっては手を向けるだけで地面から魔法陣が現れる。これが私と賢者ヘルフリート・ハースの実力の差……。魔法陣が現れた瞬間、教室内がざわめいた。


「あれって大魔術師、ガル・アレクサンダーが発明した古い魔法陣だよな……ローゼンベルガ―さんも使っていたけど、あの二人は何者なんだ?」

「只者じゃない事は間違いないよな。あんなに複雑な魔法陣を、一瞬で作り上げてしまうんだから」


 ウッドマンはヘルフリートを睨み付けると、剣を振り上げて一瞬でヘルフリートの間合いに入った。ウッドマンが垂直切りを放つと、ヘルフリートはひらりと身をかわして、ウッドマンの足を蹴りつけた。ヘルフリートの蹴りを足に喰らったウッドマンが倒れた瞬間、ヘルフリートは大地の魔法陣の中に飛び入り、ウッドマンに両手を向けて魔力を放出させた。


『ホーリー!』


 魔法を唱えた瞬間、巨大な十字架状の魔力の塊が現れ、ウッドマンに襲い掛かった。ウッドマンはヘルフリートの攻撃を回避できないと悟ったのか、両腕を体の前にクロスさせて防御するも、ウッドマンの両腕は一瞬で砕け散った。ヘルフリートは攻撃を放つと同時に魔法陣の中から飛び出ると、一瞬でウッドマンの背後に立った。ウッドマンの背中に両手を当ててもう一度魔力を放出させた。


『ホーリー!』


 ヘルフリートが魔法を唱えた瞬間、ウッドマンの体は粉々に砕け散り、木の残骸が教室の端まで吹き飛んだ。これがヘルフリートの戦い方……? 武器すら使わず、ウッドマンの攻撃を一度も喰らわずに、次々と攻撃を仕掛けて圧倒する。


 知らなかった……ヘルフリートってこんなに強いんだ。それなのに、どうしてダンジョンン中のモンスターにやられたのだろう……。きっと何か理由があるに違いない。


「素晴らしいですね……驚きました! みなさん、これがミスローゼンベルガ―の召喚獣、ファントムナイトの戦いです! 皆さんも彼をお手本に、とは言いませんが、武器を使わずしてもウッドマンを圧倒出来る魔術師になって下さいね」


 ウッドマンを圧倒的な力で討ち取ったヘルフリートには、熱狂的な拍手が沸き起こった。ヘルフリートは床に置いた剣を腰に差し、私の元に戻ってきた。


「武器を使えば一瞬で葬れたのだが、少々手こずったよ」

「手こずったですって? あんなにすぐに倒せたのに」

「本来の俺なら、剣を一振りするだけでこの世から消し去れたのだがね……」

「やっぱりヘルフリートは賢者なんだ……」


 私はヘルフリートの体を抱きしめると、ヘルフリートは私の頭を撫でてくれた。彼の温かい魔力が伝わってくる。


「そろそろ一時間目も終わるね。俺はティアナに会いに行ってくるよ」

「うん。気をつけてね」

「大丈夫さ、心配するな」


 ウッドマンとの戦闘を何度か繰り返すと、終業のベルが鳴った。次にヘルフリートと合流するのは四時間目ね。私は二時間目の授業が行われる教室に向かった……。

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