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第三話「冒険者ギルド」

 〈冒険者ギルド〉


 私はイーダさんに案内されて、冒険者ギルドのカウンターの席に座った。このカウンターは【クエストカウンター】と言って、冒険者登録とクエストの受注を行っているらしい。他には、魔石を買い取るための【買い取りカウンター】がある。


「まずは冒険者ギルドについての説明を始めるね。まず、冒険者ギルドは村や町を保護するための施設で、地域に住む人達は、ギルドに対して自由にクエストを依頼する事が出来るわ。エミリアはクエストを依頼した事はある?」

「一度だけ、薬草採取の依頼を出した事があります」

「それなら説明がしやすいわね。冒険者は薬草採取のクエストを受け、薬草を納品すると、報酬が貰えるの。地域によってクエストの種類が異なって、この村の冒険者ギルドなら、村の周辺のモンスターの討伐クエストが多いわね。それから村の中でのクエストもあるわよ。例えば今日なら、子供に読み書きを教えるクエスト、一時間で四クロノ。他には魔石の研磨、一時間で六クロノですって」

「クエストって色々有るんですね!」

「ええ、モンスターの討伐クエスト以外にも、様々なクエストが有るわ」


 冒険者ギルドのクエストって、モンスターと戦う以外にも様々なクエストが有るんだ。そんな事も知らなかった。ギルドには毎日の様に商品を配達しているけど、クエストの内容は聞いた事も無かった。


「まずは冒険者登録をして貰うね。登録が済むとギルドカードが発行されるわ」

「わかりました」

「それじゃ、ここに魔力を込めてくれる?」


 イーダさんが指さしたのは銀色の石板だった。石板には特別な魔法が掛かっているのか、石板の表面から強い魔力を感じる……。


「え? 魔力を込めるんですか?」

「そうよ、この石板に魔力を込める事によって、エミリアの情報がギルドに登録されるの。便利でしょう?」


 私はゲレオン叔父さんから頂いたばかりの杖を右手で構えると、イーダさんの指示の通り、石板に杖を向けた。杖に精神を集中させると、綺麗な銀色の光が石板に注がれた。これが私の魔力……? 石板の上には銀色の小さなカードが載っていた。なんだろう? これがギルドカードだろうか。


 エミリア・ローゼンベルガ―

 Lv.1:力…120 魔力…180 敏捷…135 耐久…115

 属性:【聖】


「それが今のエミリアのステータスよ。レベルは1から10まであって、数字がエミリアの能力を表しているの。ちなみに、能力値のどれか一つでも、200を超えたら、エミリアはレベル2になれるわ」

「数字で能力が現れるんですね」

「そうよ。これで登録が完了したわ。これがエミリアのギルドカード。本人以外は使えないから安心して頂戴。万が一、紛失した際には再発行に十クロノ必要になるから、気をつけてね」

「本人以外は使えないんですか?」

「そうよ。このギルドカードは本人が触れている間だけステータスが表示されるの」

「という事は、他人が触れれば他人のステータスが浮かび上がるんですね」

「そういう事。他に何か質問はある?」

「今は特にありません。色々教えてくれてありがとうございます」

「いいのよ。ところで、今日はこれから何をするつもり? もうお店の仕事は終わったのでしょう?」


 確かに、私は今日でゲレオン叔父さんのお店の仕事を手伝う必要は無くなった。ゲレオン叔父さんは、今日から魔法の練習をしなさいと言っていたわ。すぐにでも魔法の練習を始める必要がありそう。


「今日は魔法の練習をしてみるつもりです。上手く出来るか分かりませんが」

「そうなんだ、それじゃ、私が教えてあげようか? あとニ十分後に休憩に入るから、少し待っていてくれたら魔法を教えてあげる」

「本当ですか? お願いします!」

「うん。それじゃ空いている席に座って待っていてね」

「はい。わかりました!」


 私は適当な空いている席を探して座った。ニ十分後に初めて魔法を教えて貰えるんだ。楽しみだな……。私はゲレオン叔父さんから頂いた、『入門者向け魔法集』を取り出した。この魔法集は、属性魔法の中でも基本的な魔法についての説明が書かれている本だ。


 それからもう一冊、『返事をする本』という本を頂いた。試しに本に言葉を書き込んでみようか? 豪華な革の表紙で、タイトルの無い本を開いてみると、上質な羊皮紙が使われていた。これは高価な物に違いない。私は羽根ペンとインクを鞄から取り出すと、早速、本に文字を書いてみる事にした。


 『こんにちは』


 ゲレオン叔父さんは返事をしてくれる本だと言っていたけど、本に挨拶するなんて流石に馬鹿みたいね。私はもう一度本に羽根ペンを走らせた。


 『私はエミリア・ローゼンベルガ―。来月から魔法学校に通うの』

 『魔法学校……?』


 え……? 返事が来た! まさか本当に返事を書いてくれるとは思わなかったわ。ゲレオン叔父さんは本の中には低級なモンスターが潜んで居ると言っていたけど、本当かな?


 『あなたは誰?』

 『俺はヘルフリートだ』

 『ヘルフリート? もしかして賢者ヘルフリート・ハース?』

 『そうだ……』


 やっぱりこの本には頭の悪いモンスターが潜んで居るんだわ。自分自身が賢者だと名乗るなんて、馬鹿馬鹿しいにも程がある。


 『嘘をついて楽しい?』

 『嘘ではない。俺は賢者ヘルフリート・ハースだ』

 『あなたはきっと頭の悪いモンスターなんでしょうね』

 『頭が悪い事は認めるが、俺はモンスターではない』

 『いつからこの本の中に居るの?』

 『ガザール暦700年頃からだ』


 やっぱり。賢者ヘルフリート・ハースが命を落としたのはガザール暦700年。きっと賢者に憧れるモンスターか何かだわ。


 『賢者に憧れているの?』

 『賢者に対する憧れはない。俺自身が賢者だからだ』

 『あらそう。あなたが賢者なら私の質問に答えて頂ける?』

 『勿論だとも、知識を求める者よ』


 本の知能を測るには、どんな質問をしたら良いだろう? どれだけ賢い本なのか、確かめてみたい衝動に駆られた。


 『賢者ヘルフリート・ハースが生まれた町の名前は?』

 『クロノ大陸、ガザール暦675年、フレーベルの町で生まれた』

 『ガザール暦755年に起こった戦争の名前は?』

 『知らない』


 やっぱり分からないんじゃない。だけど、賢者ハースの生まれた場所と年号は知っているみたいね。ヘルフリート・ハースは、ガザール暦675年に生まれ、ガザール暦700年、二十五歳の時に魔王を討伐し、賢者の称号を得た。魔王との対決後、二カ月後に命を落とした。


 このモンスターは賢者ハースの事については詳しいけれど、ガザール暦700年以降の事については知らないみたいね。いいえ、知らないフリをしているのかもしれない。だけど、暇つぶしにはなるかも。私はイーダさん以外友達も居ないし……。


 『私の友達になってくれる?』

 『勿論だよ。エミリア・ローゼンベルガ―』

 『よろしく。賢者様』

 『ああ、よろしく頼むよ』


 意外と礼儀正しいのね。本当に低級のモンスターなのかしら? 文字の雰囲気も、若者ではなく、明らかに年配の人の文字に見える。少なくとも、私よりは美しい字を書くモンスターなのは間違いない。


 『どうして本の中に住み着いたの?』

 『本の中にしか行き場所が無かった。魔王ヴァルデマールは死の瞬間、俺に呪いを掛けた。魔王が使った呪いは【死の呪い】だった。俺は自分の死を悟り、自分自身の魔力を魔石に込め、魂を本の中に封じ込めた』

 『魔石の中に? そんな話は賢者ハースに関するどんな本にも載っていないわ』

 『勿論だ。俺の力を持つ魔石が存在する事は俺以外の誰も知らない。誰にも見つけられないであろう場所に隠しておいた』

 『どうして隠す必要があるの?』

 『悪しき者の手に渡らないために』


 この話が本当なら大変な事だわ。もしかしたら、賢者ハースの力がこの世界のどこかに隠されているかもしれない。それにしても、呪いによって死んだ? 賢者ハースは流行り病によって死んだと、幼い頃にお父さんから聞いたのだけど。


 『呪いによって殺された? 私はあなたが流行り病によって死んだと聞いたよ』

 『魔王は死の直前に俺に呪いを掛けた。俺は呪いを解く事が出来ず、魔王討伐から二ヶ月後に命を落とした』

 『呪いを解除出来なかったの?』

 『死の呪いを解く方法は無い。例え賢者だとしても』

 『死の呪い以外なら解除できるの?』

 『どんな呪いでも解く事が出来る』


 モンスターが書いた文字を呼んだ瞬間、胸の高鳴りを覚えた。んな呪いでも解く事が出来る……。例え馬鹿なモンスターが書いた言葉でも、今の私にとってはとても嬉しい言葉。質問の種類を変えてみよう。


 『新しく魔法を覚えるにはどんな魔法から始めたら良いと思う?』

 『覚えたい魔法を覚えるべし』

 『具体的には?』

 『火の魔法ならファイア、水の魔法ならウォーター、風の魔法ならウィンド、土の魔法ならアース、聖属性ならホーリー』

 『闇属性は?』

 『覚える必要はない。俺自身も闇属性の魔法は使えない』

 『私はこれから聖属性の魔法を覚えて、呪いを解く練習をしようと思うのだけど、ホーリーから練習をしたら良いのね?』

 『そういう事だよ、エミリア』


 本に住み着いている自称賢者は、私にホーリーの魔法を勧めた。私が本とやりとりをしていると、休憩時間になったイーダさんが私の席まで歩いてきた。


「イーダさん。この本面白いんですよ。文字を書くと返事をしてくれるんです」

「返事をする本? 悪質なモンスターじゃなかったら良いけど……」

「どうでしょう。自分が賢者ヘルフリート・ハースだと言うんですよ」

「随分大それた事を言う本なのね。私も本に書き込んでみてもいい?」

「はい、どうぞ」


 私は本をイーダさんの方に向けた。イーダさんは楽しそうに目を輝かせて、本に羽根ペンを走らせた。


 『私の友達をからかわないで。それと、賢者を名乗るのは止めなさい』

 『からかっているつもりはない。それに、俺は既にエミリアの友達だ。あと、賢者を名乗る事を止めるつもりはない。俺が賢者だからだ』

 『そう、分かったわ。兎に角、私達はこれから魔法の練習に行くから。せいぜい本の中から見ていなさい』

 『本の中に住む俺は外の世界を見る事は出来ない。エミリアの魔法の練習が終わったらまた書き込んでくれ』

 『わかったわ』


 イーダさんは本を閉じると面白そうに笑いながら私に本を渡した。


「やっぱりこの本には低級なモンスターが住み着いているんだわ。きっとレベル1くらいの頭の悪いモンスターね」

「そうですか……でも話し相手にはなってくれそうです」

「確かにね。さて、早速魔法の練習をしに行こうか」

「どこに行くんですか?」

「そうね、近くの森の中で良いかな?」

「はい、お任せします」


 私はイーダさんに連れられて、魔法の練習をするために、コリント村の南口を出て歩き始めた。

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