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魔法幻想紀 - 迷宮都市の賢者と魔術師 -   作者: 花京院 光
第二章「迷宮都市編」
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第二十八話「ガーゴイルと少女」

 〈三時間目・ヘルフリート視点〉


 今日の一時間目に信じられない事が起こった。レベル3の魔術師であるエミリアが、レベル7の魔術師が作り出したエレメンタルをいとも容易く破壊した。氷霧の魔法陣を作り、氷属性の魔力を高められる魔力の場を作ってからアイスジャベリンを使えとは言ったが、まさか氷の魔法陣まで書いてしまうとは。二種類の魔法陣を短時間で書き上げ、自身の魔力を極限にまで高めるとは。


 エミリアは天才だ。間違いない。今の俺ではエミリアを鍛えるには弱すぎる。俺自身も早くエミリアに追い付かなければならないな……。火属性のガーゴイルの体では火属性の魔法しか使えない。複数の属性を体に秘めるモンスターの魔石が有れば、俺は更に効率よくモンスターを狩る事も、エミリアに魔法を教える事も出来る。


 今の俺に出来る事は、ガーゴイルとアイスドラゴンの体を育てる事。ファントムナイトの体が手に入り次第、ファントムナイトをメインにレベルを上げよう。


 二時間目、エミリアは極限まで魔力を使い、彼女の魔力は枯渇状態に陥っている。俺はエミリアを連れて部屋に戻ると、すぐにマナポーションを飲ませた。魔力は極限までの使用と回復を繰り返せばいくらでも強くなる。きっとエミリアなら生前の俺をも凌駕する魔力を身につけられるだろう。


 そのために俺が今しなければならない事は、エミリアが魔法の練習の後に使うマナポーションを手に入れる事だ。マナポーションさえあればいくらでも魔法の練習が出来る。 勿論、魔力が回復したからといって、本人のやる気が無ければ魔力を強化する事は難しい。


 しかし、エミリアは魔法に対して強い関心を持っている。十五歳の誕生日を迎え、俺に出会うまでの間、エミリアは一度も魔法を使った事が無かった。きっと魔法を使わない環境が良かったのだ。


 初めて魔法を使う喜び。この喜びはやがて薄れ、魔法は当たり前に使えるもの、存在するものに変わる。エミリアが魔法に対して強い関心を抱いている間は、彼女は成長し続けるだろう。道を誤らなければ、エミリアは偉大な魔術師になれる。


 さて、俺が今日しなければならない事は、モンスターを倒して金を稼ぐ。それからエミリアのためのポーションを買う。それだけだ。そうと決まればすぐに外に出よう。


 しかし、ガーゴイルの見た目の俺が一人で外に出る事は非常に危険だ。間違いなくモンスターだと間違われるだろう。ダンジョンに潜れば冒険者から攻撃される可能性もある。どうしたら俺が一人でダンジョン内で狩りを出来るだろうか……。明らかに召喚獣だと分かる恰好をすれば良いのだろうが、全く想像出来ないな。


 エミリアの名前をマントに書いて羽織れば良いだろうか。そうすれば召喚獣だとみなされるだろう。まず、マントを手に入れなければならないな。俺はゲゼル先生を探して相談する事にした。


 エミリアにしばらく外に出ると告げた俺は、戦闘魔法の教室に飛んだ。案の定、ゲゼル先生は教室の中に居て、室内の掃除をしていた。


「あなたはミスローゼンベルガ―の召喚獣ですね。確か名前はヘルフリート! そうだわ。あなたの主人は偉大な魔術師ですよ。私のファイアエレメンタルを破壊したのですからね!」


 ゲゼル先生は嬉しそうに話し始めると、俺を抱きかかえて頭を撫でた。


「こんなに可愛いガーゴイルが、私になんの用かしら?」


 こんな時に口が利ければ良いのだが、ガーゴイルの体では人間の言葉を上手く話す事が出来ない。俺は教室に置かれてあった羊皮紙と羽根ペンを手に取った。


『そとにでたい』


 なるべく汚い字を書いてゲゼル先生に見せると、心底驚いた表情を浮かべた。


「言葉がわかるのですか!」

『わかります』

「まさか……信じられません! ガーゴイルが人間の言葉を理解出来るなんて!」

『そとにでて、モンスターをたおしたい』

「どうしてモンスターを倒すのですか? ミスローゼンベルガ―と一緒ではだめなのですか?」

『じゅぎょうはたいくつだ。ダンジョンでおかねをかせぐんだ』

「授業が退屈だから、その間にダンジョンで狩りをしたいのですか。あなたの気持ちは理解しました。良いでしょう! ここまで知能が高い召喚獣の考える事ですから、あなたの意思を尊重します!」


 ゲゼル先生が杖を抜いて魔法を唱えた。すると、赤い魔力が俺の体を覆う様に纏わりついた。魔力はマントへ姿を変えた。マントにはハース魔法学校の紋章が入っている。俺はすぐにお礼を書く事にした。


『ありがとう』

「どういたしまして。ダンジョンに行って冒険者を助けて来てくださいね」


 俺はゲゼル先生に頭を下げると、すぐに学校を飛び出してダンジョンに向かった。ダンジョンまでの道で出会った人々は、俺の姿を見てもあまり驚かなかった。元々この町には召喚獣が多いからだろう。


 それに、ハース魔法学校の紋章が描かれているマントのお陰でもある。すぐにダンジョンの中に入った。なるべく短時間で、大量のモンスターを倒すんだ……。



 〈ダンジョン一階層〉


 ダンジョンの一階層の敵に構っている暇はない。今日は守らなければならないエミリアが居ない訳だから、存分にモンスターと戦える。


 一階層の広い通路を、天井スレスレの位置で飛んでいると、駆け出しの冒険者だろうか、背の低い獣人が二体のスケルトンと交戦していた。小さな獣人は、目に涙を浮かべてショートソードを振り回している。剣を持った事が無いのだろうか、スケルトン相手に苦戦するとは。


 二体のスケルトンは、獣人の少女を馬鹿にするように煽りながら、ロングロードで切りかかった。少女は敵の攻撃をギリギリのタイミングで回避した。回避技術に関してはエミリアよりも勝っているが、攻撃力が圧倒的に足りない。防御すべき敵の攻撃まで全て回避してしまっている。


 俺はルーンダガーを抜いてエンチャントを掛けた。ダガーに炎を纏わせると、スケルトンの頭上に急降下した。ダガーをスケルトンの頭骨に突き立てると、スケルトンの頭骨は一撃で砕け散った。獣人の少女は突然の俺の登場に驚いて固まっている。


『ファイアスラスト!』


 エンチャントを掛けた状態の鋭い突きをスケルトンの胸部に放つと、スケルトンの骨は通路の遥か彼方まで吹き飛んだ。足元には二つの魔石が落ちている。俺は魔石を拾い上げると、格好良く立ち去ろうとした。


「待って!」

『え?』

「一人にしないで! ちゃんと最後まで助けてよ!」


 狼の様な耳が生えている獣人の少女は、小さな手で俺のマントを掴んでいる。どうしたものだろう。最後まで助ける? 何をもって最後とすれば良いのだろうか。助ける事は構わないが……。


「助けてくれてありがとう。私はティアナ・ブロスト。薬草を探しに来たの。あなたの名前は? ガーゴイルだから話せないか……」


 薬草を探しに来たって? 剣の使い方すらわからないような獣人の少女では、このダンジョンのモンスターとの戦いは厳しいだろう。彼女が使っている剣は、錆びついていて今にも折れそうだ。どうしてこんな最低な装備でダンジョンに潜っているのか……。


「ねぇ、魔石を持ったままじゃモンスターは倒せないでしょう? 私の鞄をあげる」


 ティアナは身に着けていた小さな革の鞄を俺に差し出した。俺はティアナから鞄を受け取り、ベルトに通した。不思議とサイズはぴったりで、動きの邪魔にならない。ありがたく頂こう。


「ねぇ、一緒に薬草を探してほしいの。あなたは誰かの召喚獣なのかな? それって、魔法学校のマントだよね。それもベルガーで一番の有名な魔法学校のマントだよね」


 ティアナは話している間も、俺の手を握って放さない。髪は銀色で、青色の目。容姿はどことなく生前の俺に似ているような気がする。髪の色も目の色も同じか……。


 ふわふわした尻尾が生えていて、頭には形の整った美しい耳が付いている。狼と人間の中間種だろうか。薄手のレザーアーマーを装備していて、ブーツもガントレットも装備していない。彼女が身に着けているアイテムは、レザーアーマーだけだ。かなり貧しい家の子供なのだろうか……。彼女には鞄を貰った訳だし、助けた方が良いだろうか。


「薬草は三階層にあるの! 早く行こう!」


 俺はティアナに手を引かれてダンジョンを進んだ……。

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