第二十六話「魔法試験」
私達が教室の中に入ると、これで全ての新入生が集まったのか、ゲゼル先生は教室の扉を閉めた。
「さて、皆さん集まりましたね。昨日もお伝えしましたが、今日は簡単な試験を行います。この試験では皆さんの魔力と属性を確かめさせて貰います。試験内容は、私が作り出したエレメンタルに対して魔法攻撃、もしくは物理攻撃を行って頂きます」
ゲゼル先生が教室の中央に立ち、杖を振ると火属性の魔力が建物に中に充満した。凄い魔力……。これがレベル7の魔術師の魔力なんだ。杖を向けた先には、人型の炎の召喚獣が生まれた。
「これはファイアエレメンタルと言って、召喚者の代わりに攻撃を受けたり、敵を攻撃する召喚獣です。通常の召喚魔法は魔法陣と魔石を必要としますが、この召喚獣は私の魔力から作られた召喚獣です。際限なく作り出す事が出来ますので、存分に戦いを挑んで下さい」
人型の火属性の召喚獣は、左手には火の魔力で作り上げた盾を持っている。
「ファイアエレメンタルは皆さんに対して攻撃はしません。攻撃を受けるだけですのでご安心を。それでは出席番号順に始めて下さい! 一番、リーゼロッテ・ヘルダー!」
名前を呼ばれたリーゼロッテは、ファイアエレメンタルに対して杖を構えると、風の魔力を込めた。教室内には突風のような風が吹き荒れた。
『ウィンドアロー!』
魔法を唱えると、空中には大きな弓が現れた。風属性の魔力で作られた弓からは自動的に矢が発射された。リーゼロッテが放った矢は、ファイアエレメンタルの盾に当たると、矢は一瞬で消滅した。
「素晴らしい威力ですね。魔力は三百三十、属性は風。皆さんもミスヘルダーに負けないように頑張りましょう。それでは次の方!」
出席番号二番は背の高い男子生徒だった。杖を構えて火属性の魔力を放った。
『ファイアボルト!』
炎の矢を作り出して飛ばす魔法なのか、ファイアエレメンタルは盾で炎の矢を殴りつけると、いとも容易く攻撃をかき消した。ゲゼル先生のファイアエレメンタルって、本当に強いんだな……。
「魔力は二百二十、属性は火属性ですね。それでは次の方」
出席番号三番はレオナだった。レオナはヘルフリートにウィンクをすると、彼女は楽しそうに前に進み出た。手には杖ではなく斧が握られている。どんな攻撃を仕掛けるのだろうか。
レオナは右手に持ったトマホークにエンチャントを掛けた。トマホークの刃は強い炎を纏っている。レオナはトマホークを大きく振りかぶると、思い切り振り下ろした。
『ファイアブロー!』
トマホークの刃に纏わりついていた炎の塊は、炎の刃へと姿を変え、ファイアエレメンタルに向かって放たれた。ファイアエレメンタルは盾を構えて攻撃を受けたが、炎の盾はレオナの攻撃を受けるや否や、魔力を失って消滅した。
「今の攻撃に込められていた魔力は二百八十です。技と魔力を融合させることにより、実際の魔力よりも遥かに強い攻撃を生み出しましたね。攻撃の威力は大体四百程度でしょうか。素晴らしいですよ。まさかファイアエレメンタルの防御を破るとは。あなたの成長が楽しみです」
ヘルフリートは満足そうに頷くと、レオナは嬉しそうに笑みを浮かべた。それから、次々と他の生徒達はファイアエレメンタルに攻撃を仕掛けた。しかし、誰一人としてレオナ以上の攻撃力を持つ生徒は居なかった。
「次の方! エミリア・ローゼンベルガ―!」
「はい!」
ついに私の番が来た……。ヘルフリートは私の背中に抱き着くと、念話でアドバイスをくれた。
『氷霧の魔法陣を使うんだよ、それから、アイスジャベリンの生成にはいくら時間を掛けても良い。全ての魔力を使い果たすつもりで挑むんだ』
『他の人は魔法陣なんて使ってないけど……大丈夫かな』
『使ってないじゃなくて、使えないんだよ。エミリアの様に、瞬時に魔法陣を書ける実力がないからさ』
『上手く出来るかな……それに、魔法陣を書いても威力が低かったら、少し恥ずかしいよ』
『思い出すんだ。氷霧の魔法陣は俺が魔王との戦いでも使用した最高の魔法陣。エミリアは賢者ヘルフリート・ハースの弟子なんだ。自信を持つんだよ』
『そうね……私はヘルフリートの弟子。ありがとう! ヘルフリート』
私は杖を構えて地面に魔法陣を書き始めた。魔法陣の形は完璧に記憶している、間違えずに書き上げれば良い。杖から魔力を放出させ、丁寧に、迅速に魔法陣を書いた。中央にアイスジャベリンの魔法が籠った魔石を設置すると、魔法陣からは心地の良い氷属性の魔力が流れた。
この状態で更に氷の魔法陣を使ったらどうなるのかしら? きっとより強い魔法を使えるはず。私は氷霧の魔法陣の隣に、氷の魔法陣を書いた。氷の魔法陣の中に入ると、氷霧の魔法陣から放たれる氷の魔力が流れ込んできた。氷属性の魔力が信じられないほど強化されている。今ならヘルフリートだって防げないアイスジャベリンを撃てるはず。
ファイアエレメンタルに向けて杖を構える。杖に氷の魔力を込めると、足元の魔法陣からは莫大な魔力が杖に流れた。魔力を放出させて氷の槍を作る。ついに私の魔法は完成した。私の身長よりも遥かに長く、巨大な氷の槍が私の目の前にある。
『アイスジャベリン!』
魔法を唱えると、氷の槍は物凄い速度で放たれた。ファイアエレメンタルの盾をいとも容易く貫き、攻撃の勢いは止まらずに、ファイアエレメンタルの心臓を貫いた。氷の槍の攻撃を受けたファイアエレメンタルは、魔力の体を維持出来なくなったのか、火の魔力を辺りに散らして消滅した。
ファイアエレメンタルを貫いた氷の槍は、教室の壁に突き刺さった。ヘルフリートは笑みを浮かべて私の方に飛んできた。
『エミリア! よくやった! 流石俺の弟子だ!』
『ありがとう、ヘルフリート!』
ゲゼル先生は私の方にゆっくりと歩いてきた。おもむろに手を差し出して私に握手を求めた。私はゲゼル先生の手を握りしめた。
「エミリア・ローゼンベルガ―。あなたは今までどこに居たのですか。これ程までに優秀な魔術師が、今まで無名だったなんて! レベル7の魔術師が作り上げたファイアエレメンタルを一撃で破壊した。これがどういう事か分かりますか?」
「いいえ……」
「あなたの攻撃はレベル7の魔術師にも通用するという事です。レベル3の一年生が、まさか私のファイアエレメンタルを破壊するとは。今日の出来事は魔法界に轟くでしょう」
自分でもさっきのアイスジャベリンは上手く作れたと思ったけれど、まさかゲゼル先生に褒められるなんて……。
「皆さんの中で今の魔法陣の正体を知っている人は居ますか?」
ゲゼル先生が生徒に対して質問をすると、リーゼロッテが手をあげた。
「ミスヘルダー」
「はい、氷の魔法陣です。もう片方の魔法陣は、氷霧の魔法陣。賢者ヘルフリート・ハースが魔王ヴォルデマールとの戦いで使用した魔法陣です」
「その通りです、ミスヘルダー。非常に複雑な氷霧の魔法陣を、十五歳の新入生が使いこなせるなんて! 信じられませんね。これは素晴らしい事です! 現代の魔法を学ぶ事も大切ですが、過去の魔法、賢者ハースの時代の魔法を学んでみるのも、良い事かもしれませんね」
試験は終わり、ゲゼル先生から学校生活についての説明等を受けると、終業のベルが鳴った……。