第二十五話「学友との出会い」
〈ヘルフリート視点〉
魔法学校は俺が想像していたよりも遥かに立派で、エミリアを育てるには最高な環境だ。食事も非常に美味しく、部屋も広い。あとは教育の質次第だ。
ゲゼル先生はレベル7の魔術師らしいが、今の時代の魔術師の中では高レベルなのだろうか。俺が生きていた時代にはレベル7を超える魔術師は多く居た。レベル8以上の魔術師には大魔術師の称号を与えられ、俺も賢者の称号を得るまでは大魔術師の称号を持っていた。
しかし、まさか俺の念話を理解出来る種族が居るとは思わなかった。レオナという獣人の少女は、エミリア以上の潜在能力を秘めているかもしれない。モンスターに命令を与え、自在に操る力だってあるだろう。きっとあの少女は偉大な魔術師なる。これからの成長が楽しみだな。
エミリアは一日でアイスシールドの魔法を覚えてしまった。彼女の魔法に対する理解力、適応力には目を見張るものがある。だが、戦闘の技術はまだまだ未熟だ。魔力は鍛える程に強くなるが、戦闘の訓練も同時に行わなければ、真の強さは身につかない。魔力を強化するための訓練と、戦闘の訓練を並行して行う必要がありそうだ。
部屋に戻ると、俺はエミリアと共に葡萄酒を飲んだ。こうしていると人間に戻った様な気分になるが、俺はまだガーゴイルのままだ。エミリアは俺とお酒を飲んでいる時、突然俺を抱きしめた。彼女の心地の良い魔力と温かさが伝わってきた。
俺はこの子に出会うために、六百年もの歳月を本の中で過ごしていたのかもしれないな。これからも彼女の事を大切にしなければならない。俺は人生で一度も弟子を取ったことが無かった。俺にとっての初めての弟子はエミリアで決まりだな。
「おやすみ、エミリア……」
俺はエミリアの腕の中で眠りについた……。
〈翌朝・エミリア視点〉
朝早くに目を覚ますと、ヘルフリートはすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。そういえば、ヘルフリートがベッドで眠ったのも六百年ぶりだったのかな。もっと早くに私のベッドで寝かせてあげれば良かったな。いつもヘルフリートはソファか床の上で寝ていたから。
「朝だよ。ご飯を食べに行こう」
『おはよう、エミリア』
防具を身に着け、マントを羽織り、ベルトに杖を差す。今日の一時間目はゲゼル先生の試験だから、攻撃魔法に関する本を持っていけば良いのかな。鞄に羽根ペンと羊皮紙とインク、それから基礎攻撃魔法の本、魔石と賢者の書を入れ、部屋を出た。談話室に入ると、レオナがハーフエルフの女の子と話をしていた。
「おはようエミリア、ヘルフリート。一緒にご飯を食べに行こうよ」
「おはよう、レオナ。そちらの方は?」
「私はハーフエルフのリーゼロッテ・ヘルダー」
「よろしく。私はエミリア・ローゼンベルガ―よ。こっちはガーゴイルのヘルフリート。一緒に朝食を食べに行きましょう」
新しく出会ったハーフエルフの一年生は、色白で緑色の髪を長く伸ばしている。エメラルドグリーンの目がとても美しい。彼女の体からは強い風の魔力を感じる。きっと風属性の魔術師なのだろう。
談話室を出て大広間に入ると、既に他の一年生達は朝食を食べていた。食事をしながら魔導書を眺めている生徒も居れば、テーブルに武器を載せて手入れをしている生徒も居る。みんな今日の一時間目の試験のために準備しているんだ。
『あそこの席に座ろうか』
「うん」
私はヘルフリートの体を持ち上げ、隣の席の上に乗せた。今日の朝食も随分豪華だ。野菜サラダ、チーズ、パンの種類も多く、カップに入った見た事もないデザートがある。肉料理も種類が豊富で、ベーコンや燻製肉、ソーセージにハム等。ヘルフリートはテーブルの上にある肉料理を片っ端から自分の皿に盛っている。
『ここの食事は最高だね。一人分の学費で俺まで食べ放題なんだから』
『あ、そっか。ヘルフリートは無料なんだよね』
『エミリアの召喚獣だからね』
『そう考えると、召喚獣にとっては良い環境よね』
『うむ。良い時代になったな。このカップに入ったデザートはなかなか美味しい!』
ヘルフリートは朝から大量の食事を摂っている。そんな様子をレオナは楽しそうに見つめている。
『レオナはどんな魔法を使うんだい?』
『私は火属性と土属性』
『え? 俺に対して念話まで使えるのか……』
『そうだよ。念話じゃない方が良い?』
『別にこのままで良いよ。火属性と土属性か。今日の試験、楽しみにしているよ。レオナがどんな魔法を使うか』
『私、魔法はあまり得意じゃないの。魔法よりも武器を使った戦いの方が得意』
レオナはそういうと、マントの中から小さな斧を取り出した。銀色に輝く手斧だ。
『トマホークか。武器での攻撃も出来て、魔法も使えればより強くなれるはずだよ』
『そうだね。ヘルフリートはガーゴイルなのに随分賢いよね。こうしてまともな会話が出来るんだから』
『まぁ……俺は少し特殊なガーゴイルなんだ』
『きっとそうだと思うよ。普通のガーゴイルはここまで利口じゃない。お皿に料理を盛って行儀よく食事なんて出来っこないよ』
レオナはヘルフリートに興味があるのか、猫耳を楽しそうに立てながらヘルフリートを見つめている。レオナにはいつか本当の事を話した方が良いのかもしれない。私とヘルフリートの念話を理解出来るのだから、いつかヘルフリートの正体がばれるに違いない。
『さて、教室に移動しようか。そろそろ試験が始まる。エミリアもレオナも頑張るんだよ』
私はヘルフリートを抱き上げると、肩に乗せて大広間を出た。ついに試験か……。内容は分からないけど、ヘルフリートを失望させたくない。
だけど、レオナの武器には驚いたな。魔法学校にトマホークを持って来るなんて。ほとんどの生徒は杖、もしくは剣を持っているけど、斧を持つ生徒はレオナ以外には居ないんじゃないかな。
『レオナのトマホーク。あれはマジックアイテムだね。素晴らしい武器だよ』
「そうなの?」
『武器から強い魔力を感じた。レオナはきっと武器を用いた戦闘が得意なんだろうね。ますますどんな魔法を使うのか楽しみになってきた』
「もう、レオナの事ばっかり考えて……」
『俺はいつもエミリアの事を想っているよ。俺を召喚した主人だからな。他の人間にはあまり興味がない』
「本当?」
『勿論。さぁ、教室に入ろう』
私達は試験が行われる攻撃魔法の教室の中に入った……。