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第二十二話「ダンジョン二階層」

 ダンジョンの二階層は、一階層よりも広く、通路が入り組んでいる。今日はこの階のモンスターを全て討伐したら町に戻ろう。早くレベルを上げるためにも、ヘルフリートの力に頼らずに、私自身の力でモンスターを倒さなければならない。二階層の通路を進むと、奥の方から冒険者達の話し声が聞こえてきた。


「まさかこんなところにウェアウルフが居るとは……どうして二階層にレベル3のモンスターが居るんだ!」

「知らねえよ! 今はこいつの手当てが先だ!」


 通路の奥からは、二人の男性が血相を変えて走ってきた。体格の良い戦士風の男性と、短剣を二本腰に差し、軽装を装備している男性。戦士風の男性は背中に女性を背負っている。怪我をしているのか女性の意識はなく、体からは血がしたたり落ちている。


「すまない! 回復魔法を使えるなら力を貸してくれないか?」


 男性は女性を床に降ろすと、服をめくって患部を見せてくれた。女性の左腕には鋭利な爪で切り裂かれたような傷が出来ている。傷を覆い隠すように、黒い霧の様な魔力が肌に密着している。これは通常の傷ではないはず。


「ウェアウルフに切り裂かれたんだ! 血が止まらない!」

『流血の呪いだな。大地の魔法陣を使ってキュアを掛けるんだ、その後にヒールの魔法を使う事』

「任せて下さい!」


 私はヘルフリートの指示の通り、大急ぎで大地の魔法陣を床に書き始めた。ユニコーンの杖から魔力を放出させ、丁寧に、失敗が無いように急いで書き上げると、すぐに大地の魔法陣の中に入った。ダンジョン内の石や土は魔法陣に共鳴するように光り輝くと、私の体には聖属性の魔力が流れてきた。杖を女性に向け、体中から集めた魔力を注ぐ。


『キュア!』


 魔法を唱えた瞬間、杖の先からは銀色の美しい魔力が流れた。腕を覆い隠すかのように、体に纏わりついていた黒い魔力が消え去った。すぐに傷を治さなければならない。


『ヒール!』


 ヒールの魔法を唱えた瞬間、女性の体は銀色の光で包み込まれ、腕に出来ていた傷は一瞬で塞がった。傷が治ると、苦しそうな表情を浮かべていた女性の顔は穏やかになった。しばらく待っていると、女性は意識を取り戻した。


「どうなっているの……? ウェアウルフが現れたところまでは覚えているのだけど……」

「ウェアウルフはすぐに仕留めたよ。こちらのお嬢さんが傷を治してくれたのさ」

「ありがとうございます。あなたのお陰で助かりました。私は冒険者ギルドのオリヴィア・ブッシュです」

「どういたしまして。私も冒険者ギルドに所属しています。エミリア・ローゼンベルガーです」

「ローゼンベルガ―さん。今度改めてお礼をさせて下さいね。あなたには感謝してもしきれません」

「いいえ……当然の事をしただけです。ウェアウルフというモンスターが居たのでしょうか?」

「ええ、二階層まで上がってくるはずはないのですが。レベル3の闇属性のモンスターです。この事はすぐにギルドに報告しなければなりません」

『エミリア、俺達も戻ろうか。ダンジョン内に居るのは危険だ』

『わかった』


 私達は急いでダンジョンから出て、冒険者ギルドに向かった。



 〈冒険者ギルド〉


 冒険者ギルドに入ると、何人もの冒険者が床に倒れていた。皆大きな怪我を負っている。話を聞いてみると、ウェアウルフの集団に出くわしたのだとか。怪我人を治療するために、魔法の心得が有る者が杖を向けているが、ウェアウルフの流血の呪いが強力なのか、呪いの解除に手こずっている。


『エミリア、さっきと同じ要領で治してあげてくれるかな』

『うん』


 私は急いでギルドの床に大地の魔法陣を書き上げた。魔法陣の中に入ると、ダンジョン内とは比べ物にならない程の聖属性の魔力を感じた。今なら最高の魔法を使える。苦痛の表情を浮かべ、床に倒れている冒険者達に杖を向けた。


『キュア!』


 魔法を唱えると、冒険者達に掛かっていた流血の呪いは一瞬で解除された。すぐに冒険者達を回復させるために、ヒールの魔法を唱えて傷を癒した。何度もキュアとヒールを使っているうちに、魔力が枯渇しそうになった。マナポーションを飲んで魔力を回復させ、次々と冒険者を癒した。


『これで最後だね。エミリア、よくやったよ! 俺は君の事を誇りに思う』

『上手く出来て良かった』

『大地の魔法陣の効果が高かったからだね。よく間違えずに書いたよ』

『急いで書いたから自信はなかったけどね』


 冒険者達は意識を取り戻すと、一部始終を見ていたギルドの職員が私に近づいてきた。


「確かあなたはエミリア・ローゼンベルガ―様ですよね?」

「はい。そうですが……」

「冒険者達を回復して下さってありがとうございます! 不在のギルドマスターに代わってお礼を申し上げます。ローゼンベルガ―様が居なければ冒険者達は命を落としていたかもしれません」

「お役に立てて光栄です」

「ダンジョンの中の比較的浅い層に、闇属性のウェアウルフが現れたらしいのです。突然の敵襲により、ダンジョン内に居たギルドメンバーが攻撃されてしまいました」

「そんな事もあるんですね……」

「通常はありえません。低レベルの冒険者を殺すために、悪質な何者かがウェアウルフを召喚したのではないかと思います」


 冒険者を殺すためにウェアウルフを召喚する?どうしてそんな事をする必要があるのだろうか。たまたま私達の前に現れなかったから良かったものの、レベル3の闇属性のモンスターが不意に現れたら、私とヘルフリートは生き延びられたのだろうか。


『俺達は運が良かったみたいだね。エミリア、今日はそろそろ宿に戻ろう』

『うん……』


 私達がギルドを出ようとすると、ギルドの職員が私の腕を掴んだ。


「お待ち下さい! ローゼンベルガ―様。今回の冒険者達の治療の報酬をお渡ししたいのですが、何か必要なアイテム等があれば何でも申し付け下さい」

『報酬を頂けるのか、それじゃファントムナイトの魔石があるかどうか聞いてくれるかい?』

「それでは……ファントムナイトの魔石ってありますか?」

「ファントムナイトですか! はい、確か以前買取した魔石があったような……少々お待ち下さい!」


 ギルドの職員は急いで魔石の買い取りカウンターに戻ると、小さな魔石を手に持って私の元に戻ってきた。


「報酬としては少ないかもしれませんが、レベル4のファントムナイトの魔石です」

「ありがとうございます」


 私はヘルフリートが欲しがっていた魔石を頂いてから、今日集めた魔石を換金し、冒険者ギルドを出た。


「ヘルフリート、どうして私、もっと早くに魔法の練習を始めなかったのなか。もっと早く努力をしていたら、多くの人を救える魔術師になっていたかもしれないのに」

『十五歳から魔法の練習を始めたなら早い方さ。きっと魔法学校には杖を持った事すらない人も入学すると思うよ』

「本当?」

『ああ。だけど、魔法の練習を始めてから毎日努力しているじゃないか。今のペースで魔法を覚えれば、魔法学校を卒業する頃には偉大な魔術師なれる』

「私が偉大な魔術師に?」

『そうだよ。自分の力で民を救い、地域を守る魔術師になるんだ。俺が育てるんだから、エミリアは間違いなく最高の魔術師になる。だから焦らずにゆっくりと練習するんだよ』

「ありがとう。ヘルフリート」

『なぁに、こちらこそありがとう。そうだ、エミリア、ファントムナイトの魔石をおくれ』

「はい」


 冒険者ギルドで頂いたファントムナイトの魔石をヘルフリートに渡すと、嬉しそうに魔石を握りしめた。ヘルフリートだって本当はモンスターの姿では暮らしたくないはず。私はいつかきっと、ヘルフリートを召喚できる魔術師になるんだ。


『ファントムナイトっていうのは気の良いモンスターでね、困っている冒険者を助けながら旅をしているんだよ。俺が生まれる遥か昔から、冒険者を助け続けている神聖なモンスターさ』

「人間を助けるモンスターも居るんだよね」

『そうだ。全てのモンスターが人間と敵対している訳じゃないからね。さ、今日も酒場に寄って食事をして帰ろう』


 昨日と同じ酒場で食事をした後、部屋に戻った私達は、明日の入学のために荷物をトランクに詰めた。ゆっくりお風呂に入り、モンスターとの戦いの疲れを癒すと、明日のために早めに休む事にした。 


 ついに、明日から私とヘルフリートの魔法学校での生活が始まる。コリント村で暮らしていた事が遥か昔の事の様に思える。だけど実際にはそれ程長い時間は経っていない。ヘルフリートはソファに寝そべりながら、瓶に入ったナッツを美味しそうに食べている。


「明日からついに魔法学校に入学するんだね。私、新しい生活が楽しみだな」

『俺も同じだよ。まさかこの歳で学校に入る事になるとは。まぁ厳密にいえばエミリアの召喚獣としてだけど』

「そうだよ。ヘルフリートも一緒に学校に入学するの。私の召喚獣だからね」

『獣か……不思議な気分だけど、モンスターの体で居るのも悪くない気がしてきたな。勿論、人間の体には戻りたいけど、この体もなかなか良い』

「ヘルフリートは私と一緒に授業を受けてくれるんだよね?」

『勿論。俺が本の中で眠っていた間、どんな新しい魔法が生まれたのか知りたいからね』


 ヘルフリートは懐からファントムナイトの魔石を取り出すと、嬉しそうに見つめている。魔石の中には、小さな銀色の鎧の様な物が入っているように見える。あれがファントムナイトなのだろうか。


「ファントムナイトって、どんな見た目なの?」

『全身を鎧で固めている冒険者みたいな見た目さ。鎧の中身は魔力の塊だけどね』

「鎧なんだ。それじゃヘルフリートがファントムナイトになれたら、人間の武器も使えるよね」

『そうだね、杖でも剣でも使える。更に効率の良い狩りが出来るようになるだろう。それに、聖属性の魔法が使えるようになるからね。回復魔法や防御魔法、攻撃魔法、何でもこなせる』

「ヘルフリートは聖属性の魔法が一番得意なの?」

『一番魔法のバリエーションが多いのが聖属性かな、純粋な魔法攻撃力なら火属性のメテオが一番威力が高い』

「メテオって隕石を落とす魔法?」

『そうだよ。俺の得意魔法さ。火属性、レベル9の魔法』

「レベル9の魔法……ヘルフリート以外に使える人って居るの?」

『俺の時代には居なかったな』


 メテオか……。ヘルフリートが体を取り戻したら見せてもらおう。さて、明日の入学のために、今日は早めに休もう。明日は八時にハース魔法学校の正門前に集合らしい。入学日は、学校の説明を受けるだけで、授業は翌日から行われるらしい。


「そろそろ寝ようか。お休みヘルフリート」

『ああ。おやすみ、エミリア……』


 フカフカのベッドの中で、新しく始まる学校生活の事をあれこれと考えているうちに、眠りについていた……。

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