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第二話「少女の未来」

 〈フィンクの道具屋〉


「戻りました。遅くなってごめんなさい」

「良いんだよ。エミリア、ちょっと話があるんだ。家まで来ておくれ」

「分かりました、ゲレオン叔父さん」


 私はゲレオン叔父さんに呼ばれて、道具屋の隣にある家の中に入った。玄関を開けてリビングに入ると、ゲレオン叔父さんは楽しそうに笑みを浮かべて、ソファに座った。何か嬉しい事でもあったのかな?


「エミリア。俺の道具屋で働き始めてもう三年になるんだね。今まで毎日働いてくれてありがとう。ザーラから聞いたんだが、ハース魔法学校から手紙が来たんだって?」

「いいえ、働かせてくれてありがとうございます。はい、ハース魔法学校から手紙が来ました」

「魔術師になるつもりなのかい? もしエミリアがしたい事を見つけたなら、俺は全力で応援するよ。エミリアのお父さんには何度も助けてもらったからね」

「実は……少し迷っています。魔法学校に入学するお金もありませんし……」

「お金なら心配しなくていい! エミリアが魔術師になるなら、俺が全て負担しよう!」

「え……本当ですか? ゲレオン叔父さん!」

「ああ、勿論だとも。魔法学校に入りたいなら入りなさい! 自分がしたい事を追求しなさい」


 私はゲレオン叔父さんの言葉を聞いて、思わず涙がこぼれた。私のやりたい事を尊重してくれる人がこの世界に居たんだ……。


「エミリア! やりたい事をやりなさい。まだ十五歳だろう?」

「はい、先月十五歳になりました」

「それじゃ魔法学校にも入学出来るし、ギルドにも登録出来るな。エミリア、店の手伝いをしてくれるのはありがたいが、俺はエミリアが幸せになってくれる事が一番嬉しいんだよ」

「ゲレオン叔父さん……」

「魔法学校に入りなさい。それがエミリアのしたい事なんだろう?」

「はい……」


 魔法学校に入って魔法を学び、両親に掛けられた呪いを解除出来る魔術師になる必要がある……。それがどれだけ難しくても、私は自分の力で両親を救いたい。


「エミリア、そうと決まれば早速入学のための準備をするんだ! ハース魔法学校は迷宮都市ベルガーにあるんだろう?」

「ありがとうございます! はい、迷宮都市にあるみたいです」


 私はハース魔法学校から届いた手紙をゲレオン叔父さんに渡した。ゲレオン叔父さんは難しい表情を浮かべてから、手紙をポケットに仕舞った。


「魔法学校の入学は四月一日。今日は三月十六日だから、もう時間が無いな。エミリア、今日から少しずつ魔法の練習をするんだ。授業に必要な道具は俺が全て用意しておこう」

「ありがとうございます。ゲレオン叔父」

「そうだ、俺が昔使っていた魔法の杖をあげるよ、ちょっと倉庫までおいで」

「魔法の杖ですか?」

「ああ。魔術師になるのだから魔法の杖が必要だろう?」


 私が魔法学校に入学出来るんだ! それに、ゲレオン叔父さんは学費も出してくれるし、授業に必要な道具も揃えてくれると言っている。


 私はゲレオン叔父さんと共に、道具屋の裏手にある倉庫の中に入った。倉庫の中は薄暗くて埃っぽく、売れ残ったアイテムや、ポーションを作る時に使う大鍋等が置かれている。


「ああ、ここにあったか」


 ゲレオン叔父さんは埃をかぶった箱を開けると、箱の中から杖を取り出した。杖は銀製で、長さは四十センチ程。杖の柄には金色の美しい魔石が嵌っている。


 杖を受け取ると、杖自身が持つ魔力が体に流れ込んできた。暖かい……。杖が私に力を貸してくれている。杖を振ってみると、杖の先端からは色とりどりの小さな光が流れ出た。美しい……。これが魔法なのかな?


「柄には聖属性のモンスター、ユニコーンの魔石を嵌めてある。この杖は使用者の聖属性の魔力を高める効果があるんだよ。俺も昔使っていたのだが、どうも俺とは相性が合わなくてな」

「杖には相性があるんですか?」

「勿論、杖以外にも武器にも防具にも相性がある。例えば、回復魔法を得意とする魔術師が、破壊魔法を得意とする杖を装備した時、杖の真の力を発揮してやる事が出来ないんだ。この杖は回復魔法、防御魔法、補助魔法に特化した杖なんだよ」

「杖が私に力を与えてくれているみたいです」

「それはエミリアと杖の相性が良いからに違いないよ。きっとエミリアは聖属性に適性がある」

「聖属性……」

「ああ。呪いを解く事が出来る唯一の属性だ……」


 それからゲレオン叔父さんは、箱の中から一冊の本を取り出した。革の背表紙の本で、タイトルは書かれていない。


「この本は昔友達から貰った本で、本の中に言葉を書くと返事をしてくれるんだよ」

「返事をしてくれる本ですか?」

「そうだよ。簡単な会話なら出来るみたいだな。低級のモンスターが本の中に潜んで居るのだろうと俺は推測しているんだが……ある日を境に何も言葉を返してくれなくなったんだ」


 ゲレオン叔父さんは楽しそうに笑い声をあげた後、私に本をプレゼントしてくれた。


「これからすぐに魔法の練習をするんだ! 出発までの間、もう店の手伝いはしなくていいからね。それから、冒険者ギルドで登録してみるのも良いかもしれないな」

「冒険者ギルドで登録ですか?」

「ああ。魔術師を目指すなら、ギルドに登録をしておくのは良いと思うぞ。簡単なクエストをこなすだけでお金を貰えるからな」

「楽しそうですね! それでは早速登録をしに行く事にします」

「ああ、そうだ。それから最後に……」


 ゲレオン叔父さんは一度店に戻ると、魔導書を持ってきてくれた。魔導書のタイトルは『入門者向け魔法集』だった。フィンクの道具屋では、専門的な魔導書は扱っていないけれど、入門者向けの簡単な物は取り扱っている。ほとんど売れる事もなく、店の隅で埃を被っているのだけれど……。


「色々ありがとうございます! ゲレオン叔父さん!」

「なぁに、気にするな!」


 私はゲレオン叔父さんにお礼を言った後、倉庫を出てから再び冒険者ギルドに向かった。私が魔法学校に入学出来るんだ。本当に楽しみだな……。


 村を襲撃され、両親が正気を失ってから、私は生きる目的を失っていた。愛する父と母は、私の事を自分の娘だと認識できない程、精神を虫食まれている。一度だけ面会に行った事があるけれど、その時は私に向けて拳を振り上げてきた。私は思わず涙を流し、もう二度と面会には行くまいと思った……。


 父と母の治療を担当している魔術師は、呪いの進行を食い止める事は出来るが、自分の力では呪いを解く事は出来ないと言っていた。そして、この呪いを解けるのは、賢者ヘルフリート・ハースぐらいだろうと。 要するにこの世には父と母の呪いを解ける者は居ない。六百年前に命を落とした賢者以外には……。


 だけど、私は今日イーダさんの言葉を聞いて勇気が湧いた。自分で魔法を学んで、両親の呪いを解けば良いのではないかと。努力して、賢者並みの魔法を使えるようになったら、その時はきっと父と母に掛かられた呪いを解く事も出来る。夢の様な話だけど、挑戦する価値はある。


 それに、魔法学校に入学すれば私は一人で自立して生きる事が出来る。丁度良い機会だわ。冒険者ギルドに向かうまでの道で、あれこれ考えていると、イーダさんが再び私を呼び止めた。


「エミリア! 今日はまた来てくれたのね。お店の仕事は大丈夫なの?」

「イーダさん。実は……」


 私はゲレオン叔父さんとのやり取りを全てイーダさんに伝えた。すると、イーダさんは自分の事の様に喜んで私を抱きしめてくれた。


「それじゃあ、迷宮都市ベルガーまで移動しなければならないのね! ギルドに登録もするんでしょう?」

「はい、一応登録してみようと思います」

「それが良いわ。ギルドのクエストをこなせばお金を稼ぐ事も出来るし、魔法学校に入学してもお金には困らなくなると思うの」

「お金を稼いで生きる……なんだか楽しそうですね!」


 私はなるべくゲレオン叔父さんにお金を出して欲しくない。生活費等のお金は自分で用意しよう。私はイーダさんに案内されて、ギルドの登録カウンターの席に座った……。

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