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第十七話「エミリアの魔法訓練」

 早朝に家を出た私とヘルフリートは、南口を出て十分程の場所にある森の中で魔法の練習をする事にした。ここは二日前にイーダさんがゴブリンから攻撃を受けて倒れた場所だ。村を出てしばらく進むと、目的の場所が見えてきた。


「ヘルフリート、あそこで練習しましょう」

『ここが二日前にゴブリンが湧いた場所かい? 今はモンスターの気配はないし、ここは良さそうだね』

「そうそう。お花も沢山咲いているし、綺麗でしょう」

『うむ。さて、それじゃ早速魔法の練習を始めようか』

「よろしく! 賢者様」

『今はただのガーゴイルさ。それじゃ始めるよ。左手にアイスの魔石を持ち、右手で杖を構える。氷属性の魔法の中でも最も基本的な魔法、アイスの魔法を練習するよ』

「わかったわ」


 私は昨日ヘルフリートから頂いたアイスの魔石を左手で持ち、右手で杖を構えた。杖を適当な木に向けて精神を集中させる。アイスの魔石が私の体に氷属性の魔力を吹き込んでくれる。杖の先端から氷属性の魔力を放出させる。


『アイス!』


 魔法を唱えた瞬間、冷たい風が杖の先から放出された。まだまだ威力は低いけど、一応魔法は成功したみたい。


『エミリア、氷属性の魔法の感覚を覚えるまで、魔石を使って何度も練習をするんだ。感覚を掴んだら、魔石を使わずにアイスの魔法に挑戦する事』

「うん。やってみるね」


 私は再び杖を構えて魔法を唱えた。


『アイス!』


 魔法を唱えると、杖の先端からは小さな氷を含む風が吹いた。さっきよりも威力が上がっている。少しずつだけれど、氷属性の感覚が分かってきたのかもしれない。この調子で何度も練習しよう。


 それから私は二時間程、魔石を使った状態でアイスの魔法を唱え続けた。魔力が切れそうになったら少し休憩をして魔力を回復させ、再び魔法を唱える。何度も魔法を使っているうちに、魔石を使わなくてもアイスの魔法を使えるようになった。杖の先から小さな氷の塊を飛ばせるようになり、氷の塊を飛ばして木に当てられるようにもなった。


『エミリア。短時間で随分上手になったみたいだね。次は実戦形式で練習しよう』

「実戦形式? どうするの?」

『俺に対してアイスを撃つんだ。俺は回避か防御をするよ』

「もし当たったら危ないんじゃない……?」

『大丈夫! まだ俺には当てられないだろう』


 こうして私とヘルフリートの実戦形式の魔法の練習が始まった。ヘルフリートは私の方を向いてダガーを抜くと、火のエンチャントを掛けた。ダガーを包み込むように激しい炎が燃えている。


『来い!』


 ヘルフリートが合図をした瞬間、私は思い切り魔法を放った。


『アイス!』


 魔法を唱えた瞬間、ヘルフリートは翼を開き、一瞬で上空に飛び上がった。ずるい……当たる訳ないじゃない。でもまだあきらめる訳にはいかない。


 楽しそうに上空を旋回するヘルフリートに目がけて、何度もアイスの魔法を放った。ヘルフリートはいとも簡単にダガーで私の氷を切り裂いた。やっぱりヘルフリートは凄いな。だけど負ける訳にはいかない……。何度もアイスの魔法を使っているうちに、体からは徐々に魔力が失われ、ついに全ての魔力を使い果たしてしまった。


『エミリア、なかなか良かったよ! 魔力を使い切ったみたいだね。今日はこの辺にして戻ろうか』

「うん、一発も当てられなかった……でも、いつか絶対当ててみせる!」

『うむ。飛行系のモンスターと出くわした時、攻撃が当たらなければ話にならないからね。素早い敵にも攻撃を当てられるようになる事。それが出来れば、地上の敵相手なら攻撃は絶対に命中する筈だよ』

「本当?」

『ああ。飛んでいる敵を攻撃する事がどれだけ難しいか。地上を走る敵に攻撃を当てるよりも遥かに難易度が高いんだよ』

「でも、どうして難しい方から練習するの?」

『その方が手っ取り早く強くなれるんだよ』

「そうなんだね、明日からまた頑張るよ。今日は随分早くに終わったけど、これからどうしようか?」

『エミリアはどうしたい? 俺は特にしたい事は無いかな』

「それじゃあ、家に戻って魔法学校に持っていく荷物の準備をしようかな」

『そうだ! その前にご飯を食べてから行こうか、せっかく森の中に来たんだし』


 私達は森の中で昼ご飯を食べてから家に帰る事にした。ザーラ叔母さんが作ってくれたスープを、ヘルフリートの火の魔法で温めて貰ってから、スープに堅焼きパンを浸して食べる。それから、ヘルフリートは堅焼きパンを割くと、間にチーズを挟んだ。パンに対してファイアの魔法を最小限の威力で唱えると、パンの中のチーズがトロトロに溶けだした。


 パンを噛んだ瞬間に、口の中には濃厚なチーズの風味が広がった。美味しいわ……。火属性の魔法って外で食事をする時にも便利なんだ。


 私はヘルフリートのために、金属製のコップの中に魔法で氷を作り出して差し出した。コップを受け取ったヘルフリートは、火の魔法でコップの中の氷を溶かして飲み始めた。


『きっとエミリアは氷属性の魔法にも適性があるんだろうな。一日でこれだけ上達するとは。聖属性と氷属性は毎日練習した方が良いかもしれないね』

「そうなのかな。私、聖属性と氷属性はもっと練習したいな」

『普通は水属性を覚えてから氷属性を覚えるんだけど、今の俺では水属性の魔法は使えないからな。まぁ、氷属性を使えるなら、水属性は覚えなくても大丈夫だな』

「そうなの? だけど、魔法の練習って楽しいね。どうしてもっと早くに始めなかったのかな」

『うむ。魔法の練習より面白い事は無いかもしれないね。ゆっくりと時間を掛けて魔法を学び、いつか俺を召喚出来る偉大な魔術師になっておくれ』

「任せておいて。いつかきっとヘルフリートを召喚してみせる。どれだけ時間が掛かっても」

『楽しみにしているよ。さて、そろそろ村に戻ろうか』


 私とヘルフリートは荷物を持って村へ続く林道を歩き始めた……。迷宮都市ベルガーには四日後の二十二日に出発する。生まれ育った村、両親との生活を失ってから、私は三年間この村で暮らしてきた。離れるのは少し寂しいけれど、新しい地域での生活は楽しみでもある。それに、一人で行く訳じゃないし、不安はない。今はただ、ヘルフリートとの新しい生活が楽しみ。魔法学校に入って友達が作れるか不安だけど……。


 そろそろ村が見えてきた。すぐに家に戻って支度をしよう。支度と言っても、荷物はほとんどない。魔法学校の授業に必要な物は、ゲレオン叔父さんが用意してくれている訳だから、私は身の回りの物を準備するだけ。


『村に着いたか』

「そうね、まずは道具屋に寄りましょう。ゲレオン叔父さんが学校に必要な荷物を用意してくれていると思うの」

『そうしようか』


 村に戻ってきた私とヘルフリートは、すぐに道具屋に戻った。ザーラ叔母さんはお客さんの相手をしていて、ゲレオン叔父さんは商品の補充をしていた。


「エミリア。魔法学校の荷物の準備が出来たよ。こっちにおいで」

「本当ですか! ありがとうございます」


 自宅のリビングに入ると、そこには魔法学校で使うための道具がトランクの中に入って置かれていた。ゲレオン叔父さんがトランクを開いて、一つずつ必要な物の説明をしてくれた。


 ・深紫色のローブ ・薬学用の大鍋 ・基礎攻撃魔法集 ・基礎防御魔法集

 ・十五種類の基本的な魔法陣集 ・ショートソード、スモールシールド

 ・空の魔石×10 ・石鹸やタオル等、洗面道具 ・羊皮紙、羽根ペン、インク


 ショートソードとスモールシールドは、課外授業の際に使うらしい。実際にモンスターを討伐する授業があるみたい。荷物は大き目のトランク一つに、余裕をもって入る量だった。授業で使われる魔導書や、その他授業に必要な物は学校で借りられるらしく、入学のための荷物は意外に少なかった。


「ローブはエミリアの髪の色と同じ色で選んでおいたよ。さぁ、着てごらん」

「はい!」


 深紫色のローブを身に纏うと、魔力が大幅に強化される感覚を覚えた。これは明らかにマジックアイテム……。


「そのローブは霊力のローブというマジックアイテムだよ。装備した者の魔力を強化する効果がある」

「こんなに立派な物を……ありがとうございます!」

「なぁに、気にする事は無いよ。迷宮都市ベルガーまでの移動に必要な馬車は、二十二日の朝に手配しておくよ。あとはエミリアが必要な物をトランクに詰めるだけだね」

「はい。色々ありがとうございます。これから支度をしようと思います」

「また何か必要な物があったらいつでも言うんだよ。そうだ。ハース魔法学校から届いた手紙を返しておくよ。授業の事について書かれているからね」


 手紙と荷物が入ったトランクを受け取ると、私とヘルフリートはすぐに部屋に戻り、荷造りを始めた……。

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