第十四話「ゴブリンとの戦闘」
ついにスケルトンとの戦いが始まった。一番最初に攻撃を仕掛けたはヘルフリートだった。ルーンダガーを抜いて、素早い動きで敵の注意を引ている。スケルトンはメイスを振り上げてヘルフリートに攻撃を放つも、ヘルフリートはダガーを使って器用に攻撃を受け流している。
体はゴブリンでも精神はヘルフリートな訳だから、私は今賢者のヘルフリート・ハースの戦いを見ているんだ。ヘルフリートは余裕の表情を浮かべて、スケルトン達の攻撃を一人で受け切っている。そんなヘルフリートの後方からは、二体のゴブリンが猛スピードでスケルトンの群れに切り込んだ。
すぐに乱戦が始まった。ハンドアックスを持った背の高いゴブリンは、スケルトンに向けて斧の一撃を放つと、いとも容易くスケルトンの体を砕いた。残るスケルトンは四体。仲間を殺されたスケルトン達は、怒り狂って背の高いゴブリンに向かって駆けた。まずい……このままだとやられてしまう。ヘルフリートは咄嗟に左手を地面に付けた。
『ソーンバインド!』
魔法を唱えた瞬間、地面からは無数の棘が飛び出してスケルトンの足に絡みついた。ついに私の出番がきたみたいね。私は魔法陣の中からスケルトンに杖を向けて魔法を唱えた。
『ホーリー!』
魔法を叫んだ瞬間、杖の先端からは大きな光の球が発射された。聖属性の魔力を凝縮した球がスケルトンの体に触れた瞬間、小さな爆発を起こしてスケルトンの体を吹き飛ばした。前回よりも威力が上がっている。これもホワイトパラディンの装備で魔力が強化されたからだろうか。残るスケルトンはあと三体。
突然の私の出現でスケルトン達は狼狽した。ヘルフリートとゴブリン達はその瞬間を見逃さなかった。ヘルフリートは力強く地面を蹴って飛び上がると、スケルトンの頭部にダガーの一撃を放った。二本のダガーを構えたゴブリンは、スケルトンの胴体に素早い連撃を放ち、一瞬で命を奪った。残る一体のスケルトンは、ハンドアックスを持ったゴブリンの攻撃を頭部に喰らい、骨は砕け、バラバラに飛び散った。
もしかして、私が居なくても良かったような……。それにしても、ゴブリン達は随分戦い慣れているみたい。 ヘルフリートはスケルトンが落とした魔石を回収すると私を呼んだ。
『エミリア。上出来だよ! 良いタイミングで攻撃を放ったね』
「うん、大地の魔法陣を使って魔力を強化してからホーリーを使ったんだ」
『大地の魔法陣はもう完璧なんだね』
『多分大丈夫だよ。ねぇ、戦利品はどうやって分けるつもり?」
『そうだね、俺達が魔石を頂く代わりに、スケルトンの装備はすべて差し出そう。俺が交渉してみるから、一緒においで』
「うん」
私はヘルフリートに手を引かれ、ゴブリン達の元に案内された。二体のゴブリンは私を見上げると、嬉しそうに頭を下げた。ヘルフリートはスケルトンの装備をゴブリン達に押しやってから、魔石を貰ってもいいかとジェスチャーした。二体のゴブリンは喜んで提案を受け入た。ゴブリンって意外と賢いのかもしれない……。
すると、ハンドアックスを持つゴブリンが私の元に近づいてきた。肩に掛けている鞄を開いて中から袋を取り出すと、私に差し出した。なんだろう? 袋を開けてみると、中には魔石が四つ入っていた。これはありがたいわ。何かお礼をしないと。
「ヘルフリート、ゴブリンから魔石を貰ったのだけど、どんなお礼をしたらいいと思う?」
『そうだね。食べ物でいいんじゃないかな。きっと喜んでくれるはずだよ』
「わかったよ」
私は乾燥肉と堅焼きパンを二ずつ取り出して渡した。二体のゴブリンは私に対して深々と頭を下げると、嬉しそうに食べ始めた。それから私とヘルフリートは、墓地の中でゴブリン達と共に食事を摂った。昨日まで道具屋の従業員をしていた私が、今はヘルフリートと二体のゴブリンと共に、墓地の中で食事をしている。人生って本当に何が起こるか分からないんだ……。
食事を食べ終えた私達は、しばらく共に狩りをする事にした。ゴブリン達はスケルトンの装備を目当てに墓地で狩りをしていたらしく、スケルトン討伐の目的が一致した私達は、二時間程スケルトン狩りを行った。スケルトンの魔石はニ十個も手に入り、ゴブリン達もスケルトンの装備を大量に手に入れた。クエストの目的である討伐数十体を遥かに超えた私達は、二体のゴブリンに礼を言ってから別れた。
「ねぇ、ヘルフリート。モンスターに助太刀する事ってよくあるの?」
『時々ね。モンスター同士で殺し合いをしている場に居合わせたりすると、助太刀をする事もあるよ。俺は知能が高い方に加勢するようにしている』
「そうなんだ。なんだか狩りって奥が深いんだね」
『まぁね。結局はどちらを助けたいかなんだよ。今回はスケルトン討伐のクエストを受けていたから、ゴブリン達に加勢したけど、これがゴブリン討伐のクエストだったら、スケルトンに加勢していただろうね』
「うんうん。だけど二人とも気さくで楽しかったね。嬉しそうに堅焼きパンを食べていたし」
『そうだね、面白い経験をしたよ。エミリア、俺はガーゴイルの体に戻る事にするよ。賢者の書を出しておくれ』
私は賢者の書を取り出して地面に置くと、ヘルフリートは本の中に戻って行った。ガーゴイルとしてヘルフリートを再召喚すると、嬉しそうに翼をばたつかせた。
『やはりこの姿は良い。ガーゴイルは美しい! それに、俺は火属性が好きだ』
「ゴブリンは確か土属性だよね? さっき使っていた棘の魔法はなに?」
『あれはソーンバインドといって、レベル1の土属性の魔法だよ。地面から棘を出現させて対象の足に絡め、動きを封じる。力が強いモンスターなんかには全く通じないけどね』
「そうなんだ。便利そうな魔法だよね」
『土属性は特徴的な魔法が多いよ、石の壁を作り出して敵の攻撃を防ぐ魔法や、石のゴーレムを作り出して戦わせる魔法とかね』
「色々な魔法があるんだね。私も聖属性以外の魔法を覚えたいな」
『うむ。使用できる属性が多ければ戦いの時に有利になるよ。二種類か三種類の属性を極めた方が良いだろう』
「そうなんだ……」
こうしてヘルフリートから魔法の事を教わっているだけでも楽しい。どうしてもっと早く魔法の練習を始めなかったのだろう。魔法を使う事がこんなに楽しいなんて思わなかった。もっと魔法を練習して、優れた魔術師になるんだ。
私とヘルフリートは、今日のスケルトンとの戦いの事やゴブリンとの出会いについて、あれこれ話していると、コリント村に到着した。やっぱり自分が暮らしている村は落ち着くな。すぐにギルドに戻って魔石を納品しよう。きっとイーダさんが私達の帰りを待っているはず。
村の北口を抜けてしばらく進むと、冒険者ギルドに到着した。ギルドの扉を開けて中に入ると、イーダさんが駆け寄ってきた。
「エミリア! ケガはない? 大丈夫?」
「はい! 大丈夫です」
「スケルトンとの戦いはどうだった? 墓地の様子は?」
「ニ十体のスケルトンを倒しましたよ。墓地にはゴブリンも居ましたが、協力してスケルトンを倒しました」
「ゴブリンと協力してスケルトンを倒した? ゴブリンが人間と手を組むなんて……」
「はい、ヘルフリートが交渉してくれたんです」
「流石賢者様。本当、凄いとしか言いようがないわね。それじゃ早速魔石を確認するわ」
「お願いします」
私は鞄から魔石を取り出してイーダさんに渡した。イーダさんは魔石をカウンターの上に置くと、一つずつ丁寧に調べ始めた。魔石はスケルトンの物がニ十個。一体につき三クロノでクエストを受けているから、クエストの報酬は六十クロノ。それから中身の分からない魔石が四つ。これはゴブリンから頂いた物。
「スケルトンの魔石が二十個。まずはクエストの報酬として六十クロノ渡すわね。それから、この魔石が不要なら、一つ二クロノで買い取るわ」
「それでは買い取りをお願いします」
「それから、他の四つの魔石の中身はシルバーウルフ、ゴースト、インプ、アイスドラゴンだったわ」
「え? アイスドラゴンですか?」
「ええ、随分珍しい魔石ね。氷属性のモンスターで、レベルは2。これは貴重な物だわ。きっと生まれたばかりのアイスドラゴンだったのね」
『エミリア。ゴーストとアイスドラゴンの魔石は売らないでおこう。俺の体として使いたい』
『ゴーストも?』
『ああ。ゴーストの魔石があれば俺の姿をエミリアに見せられる』
『あ……そっか。私、ヘルフリートに会えるんだ!』
『ゴーストとしてだけどね。全盛期の姿を見せられるのは少し嬉しいな』
『楽しみだなぁ』
私はアイスドラゴンとゴーストの魔石を受け取ってから、残りの魔石を買い取って貰った。値段はシルバーウルフの魔石が二十クロノ、インプの魔石が十クロノだった。私はイーダさんにお礼を言ってから、すぐに家に戻る事にした。ヘルフリートの姿を見られるんだ。本でしか見た事が無かった、六百年前の勇者ヘルフリート・ハースの姿が……。