第十一話「エミリアのステータス」
〈冒険者ギルド〉
私はヘルフリート共に、初めてのクエストを受けるために冒険者ギルドを訪れた。ギルドの受付では、イーダさんが優雅に紅茶を飲みながら本を読んでいる。
「イーダさん、おはようございます」
「おはよう、エミリア。ちょっと気になる事があるんだけどいいかな?」
「はい、どうしましたか?」
「昨日エミリアが私を助けてくれたじゃない? その時に、エミリアの本が魔法陣の書き方を教えてくれたって言ってたよね?」
「はい……そうですが」
「あの魔法陣を調べてみたのだけど、本の中の自称勇者は只者じゃないわね。あれは大地の魔法陣と言って、ガザール暦400年頃に大魔術師のガル・アレクサンダーが初めて使った魔法陣なんですって」
「400年ですか? 今から900年も昔の魔法陣だったんですね」
「ええ、そこが気になるのよ。どうしてこんなに古い型の魔法陣を、本の中のモンスターが知っていたのか……低レベルのモンスターでは知っている訳もないし、まして本の中から的確にエミリアに指示するなんて、絶対に不可能よ」
『エミリア。イーダさんになら本当の事を話しても良いかもしれないね』
『そうだよね。イーダさんは大丈夫だと思う』
「イーダさん、ちょっと外で話しましょう。他の人には聞かれたくないんです」
「ええ……」
私はイーダさんをギルドの外に呼び出して、ガーゴイルが賢者ヘルフリート・ハースだという事を説明する事にした。
「イーダさん、昨日も言いましたけど、本の中には賢者ハースの魂が入っていたんです」
「やっぱりその話、本当なの?」
「はい。私も信じられない事だと思いましたが、イーダさんが流血の呪いに掛けられた時、本の中に魔法陣を書いて私に見せてくれたんです。それ以外にも、本の中の賢者ハースは、私に魔法を教えてくれたり、罠の魔法陣を教えてくれたんです」
私は賢者ハースの魂が入っている本をゲレオン叔父さんから頂いた事から、全ての出来事をイーダさんに説明した。
「その話を聞く限り本当みたいね……まさかガーゴイルの中に賢者ハースが居るなんて」
「はい、私は本物だと信じています」
「エミリア。一つだけ、ガーゴイルが本物の賢者ハースか確認出来る方法があるわよ」
「本当ですか?」
「ええ。昨日エミリアが行った冒険者登録があるでしょう? あの手続きを行えば、石板に触れた者の正体を暴く事が出来るの」
『石版……その手があったか。是非やってみよう。エミリアに心から信用してもらうためにも』
『私はあなたが賢者ハースだという事を信じているけど……試してもらっても良い? 失礼な事かもしれないけど』
『勿論さ。早速試してみよう』
ヘルフリートは私を優しい目で見つめている。彼の事は信じているけど、一度確認してみる必要はあると思う。心から信じるためにも……。
「イーダさん、ギルドの他の職員の方には内緒でお願いします」
「勿論よ。それじゃ戻りましょうか」
私とヘルフリートはイーダさんと共にギルドの中に戻ると、冒険者登録を行うカウンターに向かった。
「それじゃ始めましょう。この石板に魔力を注いで頂戴」
『始めるよ、エミリア』
『うん……』
ヘルフリートはカウンターの上に飛び乗って、石板の上に手を載せた。彼が魔力を注ぐと、石板は静かに輝き始めた。しばらくすると、石板の上にはヘルフリートのステータスが表示された。
賢者 ヘルフリート・ハース
Lv.10:力…750 魔力…1000 敏捷…850 耐久…900
属性:【聖】【雷】【氷】【火】【風】【水】【土】
え……? 嘘。こんな事があるはずない。魔力が1000? 以前本で読んだ賢者ヘルフリート・ハースのステータスが、そのまま石板の上に表示されている。それから、ヘルフリートのステータスのすぐ下に、ガーゴイルとしてステータスも表示されていた。
召喚獣 ガーゴイル(賢者ヘルフリート・ハース)
Lv.1:力…140 魔力…170 敏捷…150 耐久…155
属性…【火】
『遥か昔、冒険者ギルドで登録した公式のステータスだな……魔力が1000を超えた記念で登録した時の情報がまだ残っていたとは』
『やっぱりあなたは賢者ハースだったんだ!』
『そうだよ。これで信じてくれるかい』
『勿論よ。少しでも疑ってしまってごめんなさい』
『良いんだよ。相手の正体を知ってから付き合う事が大切さ』
私はヘルフリートの体を持ち上げて肩の上に乗せた。やっぱり本物だったんだ。イーダさんはヘルフリートを敬意の眼差しで見つめている。
「本物の賢者様がガーゴイルの姿で現世に蘇るなんて……」
「イーダさん、この事は内緒にしておいてくださいね」
「ええ……」
「そうだ、今日はヘルフリートと一緒にクエストを受けに来たんです。昨日教えて頂いたスケルトンの討伐クエストなんですが」
「ああ、受けてくれるのね? それじゃギルドカードを石板の上に乗せて頂戴」
私は鞄から小さな銀色のギルドカードを取り出すと、昨日とのステータスの違いに気が付いた。あれ……?
エミリア・ローゼンベルガ―
Lv.2:力…120 魔力…255 敏捷…135 耐久…205
属性:【聖】
魔法:キュア ヒール バニッシュ ホーリー
魔法陣:大地の魔法陣 罠の魔法陣
杖:ユニコーンの杖(魔力+30)
防具:ホワイトパラディン・シルバーメイル(耐久+30 魔力+30)
防具:ホワイトパラディン・シルバーガントレット(耐久+20 魔力+15)
防具:ホワイトパラディン・シルバーフォールド(耐久+20 魔力+15)
防具:ホワイトパラディン・シルバーグリーブ(耐久+20 魔力+15)
特殊効果:ホワイトパラディンの誓い(魔力回復速度上昇)
召喚獣 ガーゴイル(賢者ヘルフリート・ハース)
Lv.1:力…140 魔力…170 敏捷…150 耐久…155
属性:【火】
魔法:ファイア エンチャント・ファイア
武器:ルーンダガー(魔力+40)
私のステータスが更新されているし、ヘルフリートのステータスまで私のギルドカードに表示されている。それにしても、ホワイトパラディンのセット装備がこんなに私のステータスを上昇させているなんて……。レベルが2に上がっている。
『ヘルフリート、この特殊効果っていうのは?』
『それはホワイトパラディンの装備に宿る力だね、セットで装備する事によって特殊効果が生まれたんじゃないかな。性能の高い装備にはよくある事だよ』
『もしかしてマジックアイテムっていうやつ?』
『そうそう。ホワイトパラディンの全身装備はなかなかの性能を持っているマジックアイテムみたいだね。これはいい……』
イーダさんの指示の通りに、石板にギルドカードをかざすと、石板の上には私のステータスが現れた。イーダさんが驚いた表情を浮かべている。
「エミリア? もうレベル2に上がったの?」
「はい、装備のおかげでレベル2のステータスに上がりました」
「これならスケルトンの討伐クエストは問題なくこなせそうね。賢者様もいる訳だし……」
『勿論大丈夫だ。エミリアはバニッシュもホーリーも使えるのだから、スケルトンの様なモンスターに負けはしない』
「多分大丈夫だと思います」
「わかったわ。クエストの説明を始めるわね。今回のクエストはスケルトンの退治。場所はコリント村の北口を出て一時間程進んだ場所の墓地。墓地に巣食うスケルトンを十体倒して魔石を持ち帰って頂戴。それがクエスト達成の条件。報酬はスケルトン一体で三クロノ」
「分かりました。早速行ってきます」
「気をつけてね」
私とヘルフリートはクエストを受けると、すぐにギルドを出た……。