第十話「新装備とクエスト」
バーナーさんのお店でホワイトパラディンの怨霊が宿る装備を買った私達は、村の公園で怨霊を払う事にした。
『エミリア、昨日俺が教えた大地の魔法陣は覚えているかい? まずはそれを地面に書いてくれるかな』
「覚えてるよ。地面に書けば良いんだよね」
『うむ。賢者の書を参考にしながら書くんだよ』
「わかった。試してみるね」
私は鞄から賢者の書を取り出して魔法陣を確認し、ユニコーンの杖を地面に向けた。ヘルフリートが描いた手本を忠実にマネして魔法陣を書き始めた……。五分程かけてゆっくりと大地の魔法陣を書くと、ヘルフリートは私の肩に飛び乗った。
『うん、なかなかいい! エミリアは魔法陣を書く素質がある! 毎日練習するように』
「本当? 嬉しいわ。賢者様に褒められるなんて」
『元賢者のガーゴイルだけどね……さて。早速浄化に取り掛かろう』
「どうしたら良いの?」
『今回の浄化の方法は二種類あるよ。俺の力を借りて浄化する方法と、エミリアの力だけで挑戦する方法。どっちがいい?』
「勿論、自分だけの力で挑戦したいよ」
『うむ。それでは方法を教えるよ。昨日教えた罠の魔法陣を覚えているかい?』
「うん、罠の魔法陣なら完璧に覚えているよ。それを書けば良いのね」
『そうだよ。この位置に書くんだ』
ヘルフリートが指差したのは、大地の魔法陣から五メートル程離れた場所だった。私は指示通りに罠の魔法陣を書いた。罠の魔法陣は昨日の夜、何度か書いたから覚えている。大地の魔法陣よりも書きやすく、曲線が少なく、若干尖った印象の魔法陣。
『よし、罠の魔法陣も完璧だね。それじゃ、昨日渡したファイアの魔法が入っている魔石を罠の魔法陣に乗せるんだ。ちなみに、この魔法陣は本人には効果が無いから、エミリアが魔法陣の中に入っても、罠は発動しないよ』
「それなら良かった。中心にセットしたら良いんだよね?」
『そうだよ。なるべく中心に置く事。ずれていても罠は発動するから心配ないよ』
私は鞄の中から、昨日ヘルフリートがファイアの魔法を込めてくれた魔石を取り出した。手に握ってみると、ほんのりと温かく、魔石の中では魔法の炎がユラユラと燃えている。この魔石の力で浄化できるのかしら? 魔石を罠の魔法陣の中心に置くと、罠の魔法陣は赤く燃えるように輝き始めた。
『これで罠はセット完了。試しに俺が発動させてみようか』
「え? 危ないよ!」
『大丈夫、見ているんだよ』
ヘルフリートは公園に落ちている木の枝を拾ってきた。罠の魔法陣に木の枝が投げ込まれると、魔石は鋭い炎の攻撃を放ち、木の枝を一瞬にして燃やした。凄い……これが私の戦い方? でも、これだけなら大地の魔法陣は必要ない気がする。
『さて、ここからが本番だよ。今日使う魔法は、聖属性のレベル2の魔法。名前はバニッシュ。効果は実体のない闇属性のモンスターや、怨霊等を消滅させる魔法だよ』
「バニッシュの魔法をホワイトパラディンの怨霊が宿っている装備に掛ければ良いの?」
『そういう事だよ。今のエミリアの聖属性の魔力では、きっと一撃では浄化する事は出来ないだろう。魔力が足りないなら、どうしたら良いのだろうか……?』
「大地の魔法陣によって聖属性の魔力を強化して、魔法を唱える?」
『正解! 流石エミリア。バニッシュの魔法を装備が入っている箱に唱えると、ホワイトパラディンの怨霊が装備の中から飛び出してくるだろう。間違いなく一直線にエミリアに向かって飛んでくるはずだ。するとどうなるだろうか?』
「罠の魔法陣に入って火だるまになる?」
『そうそう、だんだんわかってきたね。一撃で倒せないなら、魔法を連発して倒せば良い。さて、バニッシュの魔法の練習を始めようか。まずは適当な空いている場所に杖を向けるんだ』
私はヘルフリートの指示の通りに、ユニコーンの杖を公園の地面に向けた。
『聖属性の魔力を杖の先端から地面に放出し、遠くに置いてある物を魔力で持ち上げる様な感じで杖を持ち上げる。こんな感じだよ』
ヘルフリートは木の枝を持つと、杖の様に構えて見本を見せてくれた。手に持っている杖を対象に向けた後に、勢いよく振り上げた。
『怨霊が身を隠している装備から釣り上げるような感じだ。ただ魔力を注ぐだけではだめだよ』
「なるほど! 釣り上げるような感じね」
杖を地面に向け、魔力を込めると、銀色の美しい光の様が地面に流れた。これが私の魔力なんだ……。魔力を吊り上げるような感じで杖を持ち上げると、地面付近に漂っていた光は一気に宙に浮いた。
『よし、それで良いよ。何回か練習したら早速試してみようか』
「もし罠の魔法陣でもホワイトパラディンの怨霊が死ななかったら、その時はどうするの?」
『その時は俺がダガーで切り裂くよ』
「ダガーの攻撃は、実体のない怨霊にも効果があるの?」
『通常の物理攻撃は効果は無いよ。だからエンチャントを掛けて切り裂く』
「そういう事ね」
さて、早速バニッシュの練習をしよう。私はヘルフリートから教わった杖の動きを、何度も繰り返して練習し、実際に魔力を込めてバニッシュを三回使ってみた。威力はまだ分からないけど、上手くできるような気がする。
「いいわ。やってみましょう」
『よし、俺は近くで待機しているからね……どれだけ恐ろしい怨霊が飛び出してきても取り乱さない様に』
「わかったよ」
ヘルフリートはホワイトパラディンの怨霊が宿った装備を、罠の魔法陣から離れた場所に置くと、準備完了の合図を出した。私は杖を持ち、大地の魔法陣の中に入った。瞬間、公園の草木がざわつき、自然の魔力が私の体に強く流れ込んだ。体の中から溢れんばかりの魔力の強さを感じる。
杖をホワイトパラディンの装備に向けると、精神を集中させた。装備の中に潜んで居る怨霊を引き出す感じ……。聖属性の魔力を杖から放出させて装備に注ぐと、おぞましい呻き声が辺りに響いた。
『バニッシュ!』
魔法を唱えた瞬間、ホワイトパラディンの装備の中からは紫色の霧の様なモンスターが飛び出した。赤いドレス姿の女性で、ドレスは血で染まっている。きっと体を切られて命を落としたのね……。ホワイトパラディンの怨霊は、私を見つけると一目散に駆けた。ホワイトパラディンの怨霊が進む先には罠の魔法陣がある。
怨霊は私を睨み付けるように進むと、ヘルフリートの思惑通り、罠の魔法陣を踏んだ。瞬間、魔石に込められていたファイアの魔法が発動した。強い炎が体に纏わりつくように燃えると、ホワイトパラディンの怨霊はもがき苦しんだ。
『エミリア、ホーリーの魔法は使えるかな?』
「使えないわ。まだ練習した事ないよ」
『聖属性の魔力をぶつけるだけだよ。試してごらん』
「わかった」
私はヘルフリートの指示の通り、杖を向けて聖属性の魔力を放出した。
『ホーリー!』
魔法を唱えた瞬間、杖の先からは銀色の魔力の塊の様な物が飛び出した、私が放った魔法は、ホワイトパラディンの体に大きな風穴を開けた。今の攻撃で致命傷を負ったのか、ホワイトパラディンは火だるまになりながら、這いつくばって私を睨み付けると、最後に一瞬笑みを浮かべてから姿を消した。
『よくやった! ホワイトパラディンの怨霊は消え去ったよ。これで安心して装備を使えるね』
「今のでホワイトパラディンを倒したの?」
『そうだよ。初めてにして上出来だ。ホーリーの威力も申し分なかった! 本来ならホワイトパラディンは民を守る騎士なのだが、不本意に怨霊になってしまったのだろうな。浄化される瞬間は、すごく優しい笑みを浮かべていた』
「そうだよね……少し悪い事をした気がする」
『そんな事はないさ、エミリアが持ち主の代わりにこの装備を使って、民を助けられる魔術師になれば良い。難しい事かもしれないけど、死んだ彼女が最後に微笑んだのはそういう事だと思う……』
「私が彼女の代わりに頑張らないとね」
『うむ。新しい装備を身に着けたら、ギルドに行ってクエストを受けよう!』
「わかったわ」
私は新しい装備を一つずつ装備した。まずはメイル。銀製で非常に軽く、所々に金の装飾が施されている。メイルを装備してみると、思いのほか動きやすく、魔力が大幅に強化される感覚を覚えた。
次にフォールド。メイルのすぐ下、腰の位置に装備するタイプの防具で、軽くて邪魔にならない。フォールドを装備した後は、グリーヴを身に着ける。太ももから足の先まで、全体を覆うようなデザインのタイプだけど、履いてみるとかなり動きやすく、非常に軽い。最後にガントレットを嵌める。
全身のデザインが統一されているホワイトパラディンの装備を身に着けると、自分自身の魔力が信じられないくらい強化されている事に気が付いた。装備が常時、私の体に魔力を供給してくれているような感じ。この装備は本当に良い物なんだわ……。
「ヘルフリート! この装備は本当に凄い物みたい。魔力が大幅に強化されている気がするの」
『そうみたいだね。エミリアの体から感じる魔力は、既にレベル2の魔術師と同等、もしくはそれ以上だよ。きっと装備との相性も良いに違いない』
「それは良かったわ! 早速ギルドに行きましょう」
新しい装備を身に着けた私とヘルフリートは、スケルトンの討伐クエストを受けるために、冒険者ギルドに向かった……。