二十二話
時間が一年単位で空いたので初投稿です。
イェルサレン大遺跡群での調査を終え、3人はジョージ翁に報告すべく野道を歩いていた。
「しっかし、なんだってゴーレムが薬草なんか持ってたんだろうなぁ」
「またそれか」
「だって不思議でしょうがねぇだろ。少なくともゴーレムから薬草が手に入るなんぞ聞いてないぞ」
「そうですねぇ。薬草って採取に時間がかかるアイテムですし、
経験値稼ぎのついでに手に入るならゴーレム狩りがもう少し活発化するはずです」
リリィの話を聞いて、アレックスはその疑問に答えた。
「恐らくだが、あの土人形共が薬草の群生地全滅の原因なのだろう」
「はぁ?」
「ゴーレムがですか?」
「私もにわかには信じられんが……状況証拠だけ見れば、そうとしか考えられん」
「ゴーレムが薬草を採取してたとでもいうのか?」
ゴーレムは本来、エリアを徘徊しながら見つけたプレイヤーに片っ端から喧嘩を売る単細胞。
それがプレイヤー達の共通認識だ。
もちろん、床に落ちたアイテムを拾うような魔物ではなかった。
素材を吐き出すことはあっても、それはあくまでゴーレムの構成部品でしかない。
「とにかく、それを含めジョージ翁に相談するしかあるまい」
「何はともあれクエストクリア優先ですね」
「よーし、じゃあ帰るついでにショートカット方法も教えてやるか!」
疑問をそのままに、帰還することを選んだ一行。
今までのシリアス感を吹き飛ばすように意気揚々と何かを掲げるテオ。
それは何かの古びた紙、スクロールと呼べばいいのだろうか。
複雑な円形の文様が紅いインクで刻まれたそれはアレックスにとって初見の代物だった。
「なんだそれは」
「[帰還]のスクロールです。
スクロールというのは、魔法を閉じ込めることができるアイテムなんですよ」
「それはまた便利そうな……」
「つってもドロップ率は低いわ、ストレージ圧迫するわ、
閉じ込められる魔法も少ないわ弱体化されるわであんま実用性は無いけどな」
「[帰還]のスクロールも結構お高いですけど、その分効果は大きいですよ」
「[帰還]の効果は最後に利用したギルドに転移だ。俺たちの場合は首都テラだな」
「道中のショートカットは便利だな」
「使い方はー、こうして上に掲げて」
テオは掲げていた腕をそのまま突き上げて叫ぶ。
「[帰還]!」
瞬間、殺風景な視点が渦を巻くように捻じ曲がる。
視界が明滅し、一瞬意識が飛びそうになる感覚を覚えながら
3人はイェルサレン大遺跡群を後にするのだった。
◆◇◆◇
「―-ということだ。ジョージ翁」
「成程。群生地が全滅しておったか。おまけに薬草を拾う土人形共……」
「あのー、拾っておいた薬草類はどうすればいいですか?」
「ン。それは此方で加工しておくわい。数が数じゃからギルドにも納品する必要があるしの」
「……正直乱獲レベルだからな」
ドロップした薬草類は3人のストレージにギリギリ収まるレベルの量だった。
一瞬ジョージ翁に渡す分以外はネコババしてやろうと考えていたアレックスだったが、
この量は想定外だった。
ジョージ翁曰く、この量は市場に流そうにも相場が崩れる可能性もあるので、
ギルドに押し付け……もとい納品してギルド側の判断に任せるつもりらしい。
「……で、問題は土人形の件だ」
「それそれ」
「それです!」
「薬草を拾う、この場合は採取する土人形か」
茶を飲みながら疑問を語り合う4人。
しかしその答えはあっさりと老人の口から零れ出た。
「そりゃあ……単純に土人形に採取命令を出した奴がおるんじゃろう」
「は?」
「ゴーレムに命令?」
「どういうことだ?」
「土人形共は元々イェルサレンの錬金術師が造った代物だ。
当時の主人共はとっくに砂の下じゃろうが、
古い命令を上書きすることは同じ錬金術師なら不可能じゃあない」
「錬金術師、ですか」
「古いロールじゃよ。今は全く見ないがのう」
「そいつが黒幕だってことか?」
「というかそれしか考えられんよ。命令の上書きは錬金術師だけの能力じゃ。
何処かに生き残りがおったのか、その辺りは知らんがな」
「錬金術師……」
攻略組でも知らないだろう情報が次々出てくる現象に、
若干眩暈を覚えるテオとリリィ。
アレックスは顎に手を当てて考え込んでいるが、情報は逃さず耳に入れているようだ。
「こりゃまた新情報がゴロゴロと……」
「うーん。ひとまず錬金術師の線を追ってみるのがいいってことですか?」
「それが一番早いじゃろうな。因みに少なくともこのテラには錬金術師はおらん」
「錬金術師……土人形……」
「ギルドで怪しい初見の奴がいないか聞いてみるか」
意見をまとめ、一行はひとまずギルドへ報告に行くことにした。
……何かアレックスが静かにブツブツ呟いている。
「よーし。じゃあギルドにクエスト報告しにいくか!」
「土人形……人形……ハンドメイド……」
「ついでに薬草の納品も行っちゃいましょうか」
「おお、それは助かる。納品分の報酬は上乗せしておくからな」
「ヒュウ!太っ腹ァ!」
「ハンドメイド……自動で動く……動く人形……」
「……いい加減、触れなくていいんですか?」
「シッ!言うんじゃない!」
「またあの馬鹿弟子は意識が異次元に飛んでおるのか……」
茶を飲みながら、立ったままブツブツと呟くキチg……アレックスを見る3人。
「―-良し!」
「うぉッ!?」
「急に蘇った……」
「ん?どうしたお前ら」
「こっちのセリフだよ」
「何を考え込んでいたんですか?」
「よくぞ聞いてくれた!!」
キラキラとした目で語るアレックス。
「このアエラにおいて、私の最終目標がようやく決まったんだ!」
「え?人形収集じゃなかったんですか?」
「ゴキブリスキルの完全習得だろ?」
「知っとる知っとる。儂の完璧な小間使いじゃろう?」
「リリィのそれは当初の目標だな。脳筋と爺は今すぐ死ね」
「私の目標。それは――――」
笑顔で両腕を万歳の格好で振り上げながら叫ぶ。
「―-錬金術師になって生きた人形を創ることだ!」
◆◇◆◇
「はいはい」
「じゃあ納品いきますかー」
「じゃあのー」
「貴様らァ!!」
読了ありがとうございました。




