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~カットメロンの逆襲~

 あの痛ましいメロン事件から数年。

 世界では空前の野菜アタックブームが巻き起こっていた。

 畑で取れる果物や野菜が見境なく人を襲うようになっていたのだ。

 今やもう丸腰で畑に入る者などいない。

 護衛を引き連れ、遅い来る野菜達を撃退しながら畑の手入れを行なう事が農業関係者の常識となっていた。

 彼等は今日も命がけで野菜を育てる。


 ◆


 あの痛ましいメロン事件から数年。

 俺はメロンハンターとなっていた。

 人々を襲うメロンを退治するのが主な仕事だ。

 今日も事務所に依頼人がやって来る。


「貴方に依頼したいのはカットメロン退治です」


「カットメロン?」


 おかしな事を言う。あいつ等果物は破壊されたら活動を停止する。

 人間で言えばカットされた手足が襲ってくるようなモンじゃないか。


「おそらく新種の農薬です。今回発見されたメロンは刃物で切られても活動を停止しないのです」


「くそっ、SYKめ!」


 SYKとは世界野菜協会の略である。

 植物は世界でもっとも繁栄し最も長寿な生命体だ。だから食べるのはおかしい。動けない彼等を救うのが我々の使命であり、彼等が動けないのなら動けるようにすれば良いのだ。と言うイカれた理念の下に行動する悪の野菜結社だった。

 あのメロン事件も奴等の犯行だった。

 連中はダミー会社を作りメロン用の農薬と偽ってメロンが自立活動できる薬を世界にばら撒いた。

 理由は組織のPRの為だ。


「報酬は?」


「今回は高級カットメロン工場です。可能な限り工場を破壊しないで頂きたい。前金で200万。成功報酬で300万追加です」


「その依頼受けよう」

 

 ◆


 メロンハンターの仕事はメロンを滅ぼす事だ。偶によくメロン以外も滅ぼす。

 只倒すだけでなく、新種の野菜や果物を倒した際はどのようにして倒したの詳細なレポートを求められる事も多い。

 今回の様にコレまでの手段では倒せない野菜が現れた際の戦闘マニュアルを作る為だ。

 戦闘マニュアルを確立させたハンターには追加報酬が手に入る。

 更にマニュアルはダウンロード販売されており、ダウンロードされる度に代金の5%が戦闘マニュアルを作ったハンターの口座に振り込まれるシステムとなっていた。

 そうした側面もあってか新型果物を専門に狙って戦うマニュアルハンターも少なくない。もっとも実力のないハンターは直ぐに淘汰されるが。


 ◆


俺は装備を整えて高級カットメロン工場へ向かう。

カットメロン工場の外には避難してきた工場員達が暗い顔でへたり込んでいた。


「依頼を受けたハンターだ。状況は?」


「おお、ハンターさんですか! 工場内に取り残された従業員が居るんです。どうか助けてやってください」


 俺は工場員に告げる。


「俺の仕事はメロンを刈る事だ。助かるかどうかはそいつの運しだいだ」


 担当者と内部構造やメロンの配置について打ち合わせを始める。


「ここがメロン倉庫です。普段は檻の中にメロンが収監されています。カットする際はカットマシンまで檻を運び、ドアを下向きにしてマシンの上に置きます。そしてスライド式のドアをあけると自動的にメロンがマシンの中に落ちていくという寸法です」


「成る程、メロン専用処刑マシーンという訳か」


「ええ、メロンに親しい人を殺された方々がよく見学にいらっしゃいます」


 メロン処刑ショーとは良い趣味をしている。


「此方がカットされたメロンが流れてくるベルトコンベア室です。最初の犠牲者が出たのもここです」


 担当者が無念の表情を浮かべる。


「安心しろ。俺が被害者の墓前にメロンを供えてやる」


「お願いします」


 ◆


 今回の依頼は圧倒的多対一になる。

 となると装備は対多数用の装備以外にない。

 俺は棒の先端に二つの箱が付いた装備を取り出す。


「やはりコレか」


 さらに追加でカラビナの付いた黒い塊を二つ、ベルトに引っ掛ける。

 準備は出来た。出撃だ。

 裏口のドアを開ける。

 だがイキナリ入ったりはしない。

 そっと豚肉の入ったパックを床に放り投げる。

 すると物陰から緑の物体が飛び出てきた、メロンだ!

 俺は慌てず棒の中央のボタンを押す。すると先端の黒い物体の側面がスライドした。

 メロンが豚肉に夢中になっている間に上から黒い物体を被せ地面に置く。

 そして再びボタンを押す。

 スライドした側面の部品が戻り、閉じ込められた事に気付いたメロンが暴れだす。

 だがもう遅い。

 俺は真ん中の赤いスイッチを押す。黒い箱からヴーンと言う低い音が鳴り出す。

 その数瞬後メロンは爆散した。

 対メロン用装備ダブル電子レンジ。バッテリーで稼動するメロンを破壊する為の兵器だ。


 ◆


 慎重に工場内を進んでいく。奴等は何処に居るのか分からない。信頼出来るのは豚肉パックだけだ。

 メロンを発見したら確実に電子レンジで爆散させる。それがもっとも確実なメロンを破壊する方法だからだ。

 今や電子レンジはメロンの破壊になくてはならない品となった。

 護身用の電子レンジがバカ売れする時代である。


「狂った時代だぜ」


 などといっている間にもメロン倉庫に到着する。ここの確認も依頼の一環だ。

 俺はそっとメロン倉庫のドアを少しだけ空け、手鏡を使って中を確認する。

 だが中は暗く手鏡では確認できない。仕方なくドアを開いて中に光を入れる。

 そこで俺が見た者は何百と言う数の解き放たれたメロン達の群れだった。


「っ!」


 ドアから入った光にメロン達が反応する。

 俺は間一髪でドアを閉め鍵をかける。

 直後、ドアに大量の衝撃が加わる、まるでゴリラのドラミングだ。


「数が多すぎる」


 とてもではないが一人で対応できる数ではない。ハンター達を複数集める必要がある。

 俺は無線機を起動してハンターの追加要請をした後再び奥に進んだ。

 カットメロンのベルトコンベアー室前に到着する。

 本来ここはカットメロンを容器に詰める為の部屋だが、今ではカットメロンの巣窟となっていた。

 ここのオペレーター室に逃げ遅れた工場員が居るはずだ。

さて、どうやって対処したものか。大量のカットメロンの相手をするとなると電子レンジでは手間がかかりすぎる。

 その時、何か小さなモノが擦れる音がしたような気がした。

 咄嗟に前方に向かって体を投げ出す。

 体勢を立て直して自分が居た場所を確認すると、そこには小さな三日月が動いていた。


「違う、コイツは……カットメロンか!」


 そう、三日月の正体はカットメロンだった。

 カットメロンが俺を見据える。

 俺は電子レンジを構えてカットメロンと相対した。

 カットメロンが飛び掛ってくる。

 俺は横に飛び、カットメロンの攻撃を避ける。

 攻撃を外したカットメロンが床にぶつかり三日月の先端が潰れる。

 チャンスだ! 俺は勢い良く電子レンジをカットメロンに叩き込んだ。

 電子レンジに潰されたカットメロンはビクンビクンと痙攣するとやがて動きを止めた。

 どうやら全身を潰せばいかなカットメロンといえど活動を停止する様だ。

 対抗策が見つかった俺は意気揚々とコンベア室に入った。

 そこは一言で言えば地獄だった。

 見渡す限りのカットメロン、そして真っ赤なソースで彩られた床、

 ここはカットメロンの支配する修羅の国。

 ドアを開けた愚か者の姿をカットメロンが一斉に見る。

 臆するな、相手はたかがメロンの切れ端。俺は電子レンジをモップのように構えて駆け出す、

 目指すはオペレーター室だ。地面を這う電子レンジに取り付けられたコロがキャリーカートの様に本体を安定して進ませる。

  電子レンジと床の間に挟まれたカットメロン達が次々と轢死体になってゆく。

 仲間を殺された怒りからカットメロン達の群れが飛び掛ってきた。

 360度全周から180度の半球を作ってカットメロンの包囲網が出来上がる。何処にも避けられない絶対包囲網。

 だが俺は慌てる事無く上下の電子レンジを繋ぐ棒の真ん中にあるスイッチを押す。

 すると上の電子レンジの上端からネットが発射される。

 メロン捕獲網だ。

 前方のメロンを封じた俺はそのまま前に向かって突撃する。

 間一発メロンの攻撃を回避した俺はそのままオペレーター室へと飛び込んだ。

 幸いオペレーター室のドアは空いていた。無用心だがメロンにドアを開ける手が無かったのが幸いしたといえる。


「助けに来たぞ!!」


 だが俺の声に応えるものは無い。

 有るのはただ、カットメロンに食い尽くされた死体だけだった。


「何てこった」


 俺はせめてもの供養にとカットメロン共を叩き潰す。

 すべてのカットメロンを退治した後、隙間にカットメロンが隠れていないか確認してから無線を起動させる。


「こちらハンター。オペレーター室は手遅れだ。カットメロンは潰せば死ぬ。一旦脱出して他ハンター達との連携でメロンを殲滅……」


 その時猛烈な悪寒が走る。

 慌てて飛びのくと上空からカットメロンが飛び掛かってきた。

 どう言う事だ? 部屋の中のカットメロンは全て始末したはずだ。

 その時、密室である筈の室内に三日月が昇っているのを目撃した。


「通……風口……だと!?」


 そう、それは空に浮かぶ三日月ではなく、通風口を伝って進入してきたカットメロン達だった。

 カットメロン達が次々に飛びかかってくる。

 一体一体は弱いものの、狭い室内では電子レンジをの取り回しが困難だ。

 こうなったらドアを開けてオペレーター室から逃げ出すしかない。そう思ってドアに向かおうとした俺は凍りついた。

 コンベア室を一望できるオペレーター室のガラス窓には一面びっしりとカットメロンが張り付いていたのだ。

 種の絡まる繊毛部が触手の様に蠢きガラスを削っていく。

 通風口から迫るカットメロン、ドアとガラスを覆い尽くすカットメロン。


「閉じ込められたか」


 万事休す。このままではカットメロンに殺される。

 襲い来るカットメロン達を叩き潰しながら通風口に物を捻じ込んで蓋をする。

一時しのぎだろうが考える時間を確保できれば良い。

 まず部屋の中に利用できる物が無いか捜索する。


「コレだけか」


 見つかったのはある薬剤が入ったビンとバケツだけだった。


「仕方ない、やってみるか」


 俺は薬剤をバケツに流し込み、水道水を加える。


 そうして出来上がった液体を少量カットメロンの残骸にかける。


 そしてボールペンで液体のかかった部分を突つくと、ボールペンに納豆の様な糸が引いた。


「何とかなりそうだな」


 俺は意を決してドアを開ける。その途端にカットメロン達がなだれ込んできた。

 俺はバケツの液体をカットメロン達にかけ即座に後退する。

 カットメロン達が次々とオペレーター室に入ってくる。

 俺はバケツの中の液体を新たに入ってくるカットメロン達にかける。

 そして遂に部屋の奥まで追い詰められた。

 まだか?

 その時だった。

 カットメロン達の動きが突然鈍くなる。まるで電池の切れかけたラジコンの様に。


「今だ!!」


 俺は出口に向かって駆け出す。

 カットメロンが飛び掛ろうとするが上手く動けず転倒する。

 俺は足を前にスライドするのではなく上から落とすように走る。

 コレは山中で木の根などに足を取られない為の移動法だ。

 そうやって俺は動きの鈍ったカットメロン達を踏み潰し進む。

 俺がかけたのは増粘安定剤を希釈した液体だ。

 増粘安定剤とは食品に粘りやとろみをつける為の液体で、俺はコレを使ってメロン達の水分に粘りを与え動きを鈍らせた。

 動きの鈍ったカットメロン達では俺を追う事などできない。

 素早くオペレーター室を抜け出た俺は増粘安定剤をかけられていないカットメロン達をかわしながら出口に向かう。

 その時だった。大きな満月が俺に飛び掛ってきた。

 回避した事で地面に落ちたそれはぐるぐると回りながら此方の様子をうかがう。


「馬鹿な、メロンだと!?」


 そう、そこに居たのはカットされていないメロンだった。

 表面の網は細かく、糖度の高そうな肌をしている。その甘い芳香に思わずよだれが垂れそうになった。


「正に高級メロンか」


 目の前のメロンから発せられる圧倒的なオーラに身構える。

 高級メロンはバレーボールの様に跳ねながら俺の周囲を回りだす。

 カットメロン達は高級メロンを恐れるように遠巻きに見ているだけだ。

 と、その時高級メロンが俺に飛びかかってきた。

俺は電子レンジを虫取り網の様に振るって捕獲を試みるがさすがは高級メロン、動きが素早い。

 高級メロンは遅い遅いとあざ笑うかの様に俺の服を削り取る。

ケブラー繊維とチタンプレートで編まれた装甲服が紙のように削られてゆく。


「舐めるなよ果物」


 俺は腰にマウントした黒い物体、携帯バッテリーを電子レンジに取り付ける。

 そして上下の電子レンジを連結する棒の真ん中にある青いボタンを押す。すると電子レンジを繋げる棒が真ん中で分離した。

 二レンジ流だ。

 双レンジになった事で取り回しがよくなった電子レンジを振るい高級メロンを迎え撃つ。

 2倍の捕獲範囲の前にはさしもの高級メロンも回避は不可能。

 哀れ高級メロンは電子レンジの中に納まった。

 俺はスイッチを押して電子レンジを起動。

 高級メロンは爆散した。


 こうしてカットメロンの危機は去った。

 助けられなかった工場員はかわいそうだが、それも世の定め。

 俺は彼等の墓前にそっと100%メロンジュースを供えた。

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