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メロンに襲われた。

「本日未明、畑で作業していた男性がメロンに襲われる事件が発生しました」

「何だそれは」

 文字通りそれが第一印象だった。

 ニュースキャスターが自分の読んでいる文章を笑わない様に堪える。プロだ。

 エイプリルフールはまだ先の事だ。だとすれば映画のCMだろうか?

 もしそうならB級映画間違いなしだ。どうでも良い事なのでさっさと学校に行こう。


 だがそれは事実だった。

 通学途中にあるスーパーの中から悲鳴が上がる。

 何事かと思いスーパーに向かうと、そこには既に人だかりが出来ていた。

 見ればクラスメイトも居るではないか。

 オレはクラスメイトの肩を叩き何が起きているのかを聞く。

「いや、なんかメロンが襲い掛かってきたとか言ってんだよ」

 その言葉に朝のニュースが思い出される。

 それと同じくして人だかりの前方から再び悲鳴が上がる。

 突然人々が逃げ出し始めた。

 何が起きているのか分からない俺達後方の住人は、逃げ出そうとする前方の住人に何度もぶつかられる。

 さすがにコレはおかしいと気付いた時には手遅れだった。

「おい、コレ何だよ?」

 そう質問してくるクラスメイトの肩にはメロンが乗っている。

 器用な奴だ。そう思ったのだが、なにやら様子がおかしい。

 クラスメイトの肩からはとめどなく血が流れる。

 それと同時に肩のメロンも揺ら揺らと揺れる。まるでおもちゃのダンシングフラワーの様だ。

 と、そこでメロンが落ちた。

 一体どんな手品なのかとクラスメイトに聞こうとして衝撃を受ける。

 クラスメイトの肩がなくなっていたのだ。

 腕は辛うじて残った脇で繋がっているものの、どう考えても使い物にはならない。

「オレの……腕が……」

 クラスメイトの顔が絶望に囚われる。

 その顔を見た事で冗談などではないと気付く。

 足元に当る何かの感触。

 見ればメロンが真っ赤な口を開けていた。

 違う、アレはクラスメイトの血だ。

 本能的に足を引っ込めたのとメロンがガチンと口を閉じるのはほぼ同時だった。

 かろうじて俺のほうが早かった為、メロンは靴の先端を齧るだけに終わった。 

 メロンがオレを見る。お前何避けてんだよと言わんばかりに。

 逃げた。クラスメイトを置いて逃げた。

 後ろからクラスメイトの悲鳴が上がる。

 助けを求める声が聞える。

 だがその声を無視して逃げる。逃げる。逃げる。


 街中を走っている間にもそこかしこから悲鳴が聞えた。

 メロンって意外にそこら中にあるんだな。

 そうして、やっとの事で家までたどり着く。

 鍵を閉め家の中に入る。

 専業主婦である母親は、学校はどうしたのと外の事など知らぬ有様だ。

 オレは母親に絶対に外に出るなと言った後、家中の窓を閉めカーテンを閉めた。

 突然の行動に母親が何事かと仰天する。

 オレは何も答えずにTVのチャンネルを変えてニュースを探す。

 そして映ったのは地獄絵図だった。

 画面の中はスーパーを映していた。

 生放送なのだろう、地面に落ちたカメラが横向きに店内を撮影している。

 そこに映っていたのは歯形だらけの大量の死体と蠢くメロン達だった。

「何コレ? 朝から趣味の悪い番組ねぇ」

 コレは現実だと母に説明するも笑って信じてくれない。

 それ所か買い物に行くと言い出したので必死で止めた。

 最初は冗談かと思っていた母だったが、俺が本気だと分かると病院に行くべきだと言い出した。

 気持ちは分かる。俺だって誰かからそんな事を言われたら同じ事を言う。

 だが俺は見てしまった。クラスメイトが死ぬ所を。

 だから俺は言った。狂ってても何でも良いから絶対に外に出るなと。

 俺が完全に狂ったと思った母は顔面蒼白になる。

 寧ろ好都合だ。

 後は警察なり自衛隊なりが事態を収拾してくれるまで待つだけだ。

 だがそんな希望を打ち砕く事態が起きる。


 ドンドンと壁を叩く音が鳴った。

 全身が恐怖に竦む。誰かが助けを求めてるのか?

 だとしたら申し訳ないが諦めてくれ。

 もしメロンが近くまで来ていたら自分達まで巻き添えになる。

 俺は見知らぬ誰かを見捨てる事にした。

 音は鳴り続ける。

 いい加減にしろ。何時までもドアを開けないウチなんか諦めて他の家に助けを求めろよ。そのほうが余程賢い選択だ。

 なおも音は鳴り続ける。

 しかしそこでおかしな事に気付く。音の源が近い気がしたのだ。

 音を頼りに何処から鳴っているのか探る。うろうろとしているとその音は台所から聞える事に気付いた。

 恐る恐る台所に入る。

 そして俺は悲鳴を上げそうになった。

 いや、恐怖のあまり悲鳴も出なかったというのが正しかった。

 台所の中から聞えた音の正体、それは冷蔵庫だった。

 冷蔵庫の中からドンドンという音が聞える。音と共に冷蔵庫も揺れる。

 俺は慌ててリビングの母に冷蔵庫に何が入っているのかと問い詰めた。

 母は怯えながら、先日遊びに来た祖母が土産として置いて行ったメロンが入っていると答えた。

 気が狂うかと思った。

 心の中で祖母を罵る。俺は母に絶対に台所に近づくなと命令し、再び台所に戻った。

 何とかして冷蔵庫の入り口を塞がなければ。

 このままでは何時メロンが飛び出るか分からない。

 俺は近くに会ったガムテープを手に冷蔵庫に近づく。

 しかし運命は時間切れを告げた。

 一足遅かったなと。

 冷蔵庫のドアが開く。中から飛び出したのは大きなメロンだ。

 普段の自分ならその大きさに喜んだ事だろう。

 だが今のオレにとってメロンの大きさは恐怖の大きさでしかなかった。

 急いで居間に逃げた俺は母に逃げろと告げる。

 しかし俺に怯えていた母は何の事か分からず身を竦めるばかりだ。

 そんな事をしてもたついている間にも絶望は近づいてきていた。

 ズリズリッ……

 廊下に響いた音に思わずビクリと体を竦ませる。

 振り向けばそこに居たのはメロン。

 メロンが俺達に近づいてくる。

 俺は慌てて飛び避けた。

 ソレとまったく同じタイミングでメロンが口を開けて襲い掛かってくる。

 俺の居た場所の床がメロンによって削り取られる。

 クラスメイトを骨ごと喰らったメロンの牙だ。

 母が悲鳴を上げる。

 腰を抜かしヒィヒィと悲鳴を上げる事しか出来ない母。

 そんな母はメロンの格好の獲物だ。

 当然の様に母に向き直り近づいていくメロン。メロンが口を開ける。

 今正に母を食いちぎらんとしたその時、俺は近くに会った本を投げつけた。

 食事を邪魔されたメロンは怒り、再びターゲットを俺に変える。

 せめて母だけは護ろうと、近くにあった物を投げつけてメロンをこちらに誘導する。飛び掛って来るメロンを紙一重で避けながら、何でも良いから投げれる物を投げ続ける。

 しかしそれ等の品はことごとくメロンに食いちぎられた。

 もっと重い物を、もっと硬いものを、もっと武器になる物を。

 メロンの攻撃を凌ぎながら俺はメロンを倒す事のできる物を探す。

 その時手にした硬い感触、コレならいける! そう思った俺は固い物体を掴み思いっきりメロンに殴りつけた。 

 それは電子レンジだった。

 だがコンセントが繋がっていた所為で電子レンジはメロンに届かない。

 しかも攻撃を外した俺に対し、メロンが反撃をしてくる。

 咄嗟に電子レンジでガードする俺。

 コンセントが繋がったままではメロンを攻撃出来ない。

 だが悠長にコンセントを抜いていたら俺のお尻がスイカになってしまう。

 何とかしてコンセントを繋げたまま電子レンジで攻撃する方法は無いか!?

 その時俺の脳内がメロンソーダの様にスパークした。

 俺は電子レンジの蓋を開け守りの姿勢をとる。

 動きが止まった事を好機と見たメロンが俺に飛び掛る。

 メロンと自分の間に電子レンジを構える。蓋は天に、本体は地に、その姿は正に天地を繋げ人外の魔と闘う構えだった。

 電子レンジ越しに激しい衝撃が走る。

 俺は天に掲げた牙を噛み砕く様に振り下ろす。

 カチリと言う音と共に電子レンジの蓋が閉められた事を確認した俺はすかさず電子レンジを地面に置き、ダイヤルを回す。そしてスイッチオン。

 メロンは爆散した。


 激しい戦いの末、遂にメロンを倒した俺。

 さすがの母も実際に動くメロンを見た事で俺の言葉が真実だと気付いた。

 そうして人々が家に篭城して数日後、メロンは腐って死んだ。

 所詮はナマモノだった。


 後日、メロンが人を襲いだした原因がとある会社の開発した農薬の所為であったと判明。

 各国政府はその農薬を使用禁止とし、回収廃棄した。

 そして時は流れ、人々はこの痛ましい事件を忘却の彼方へと忘れ去った。


 そんなある日のニュース。

「本日未明、畑で作業していた女性がミカンに襲われる事件が発生しました」

 ソレを見ていた日本中の人達が呟いた。

「もういいっちゅうねん」

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