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第7章

 父に迷惑かもと私は思わなくも無かったが、うつ病を治すために、とりあえず私は父に毎日、手紙を書くことにした。

こうして思いのたけをさらけ出すのは生まれて初めてのような気がする。

考えてみれば、母は私が6歳の時に亡くなり、そして、アンと違って、私は乳母や乳姉妹とは折り合いがそうよくない。

それで、子どもの頃からアン、アンと呼んで、妹ばかりといたような気がする。


 何故、乳母や乳姉妹と私が折り合いが悪かったのか、前世の記憶が戻った今になってみればよくわかる。

何かあると、父の代に既に皇族の身分を離れたとはいえ、私は皇帝の孫娘と言う誇りを私が鼻にかけたせいだ。

乳母達にしてみれば、確かにそうだが、と敬遠したくなるのもよくわかる。


 結婚後、前世の記憶も併せ持ってしまった私は、周囲にわからないようにと以前と同様に振る舞っているつもりだった。

しかし、侍女たちの話を小耳に挟む限り、私がしおらしくなった、と思われているらしい。

結婚されて本当に良かったと侍女たちが喜んでいるのを聞くと何とも複雑な気分になる。


 父は私の手紙に目を通してアドバイスをしてくれた。

この世界にはカウンセラーなんていないが、父がカウンセラー代わりになって、私の気持ちは楽になり、うつ病は少しずつ良くなった。

そうこうしている内に、アンの出産の日が近づいた。


「アンの子どもが無事に生まれたらしい。私も知らないふりをしているので、詳しく聞けないがね」

私がアンの出産を知ったのは、父の手紙の一節からだった。

父はソフィアの実家の警備という名目で腹心の騎士を送っていた。

ソフィアは嫌がったが、ソフィアが心配なので父が騎士をソフィアの実家に常駐させるというのは、ある意味自然な話(この世界の治安は決してよくない。自衛するのが当然)なので、ソフィアも受け入れざるを得なかった。


 そして、その騎士からソフィアの家で誰かが出産したらしく、産声が聞こえたことがある。

それで、どなたの出産か、と自分が誰何したら、侍女が急に産気づいて子どもを産んだと聞いた、という話があったという。

その後も時々、赤子の泣き声が聞こえるという続報があった。


 騎士は本当に単なる警備と思っているので、世間話のつもりで父に連絡してくる。

だが、父も私もほっとしていた。

そして、侍女が子どもを連れて教会に洗礼を受けに行き、そのまま実家に戻ったので、子供の泣き声はしなくなったという連絡があった。

チャールズが無事にアンの子ども、キャロラインを引き取ったのだろう。


 さて、どうやって、キャロラインを引き取ろう、と私は考えた。

侍女の噂話が私の耳に入ってからチャールズに話をしないと不自然になる、

何で私が知っているのか、とチャールズが不審に思うだろう、私が悩んでいるうちに、チャールズから話をしてくれたのは私にとって意外だった。


「聞いているかもしれないけど、愛人に子どもが生まれたんだ。その愛人が出産の際に亡くなってね。女の子なのだけど、どうすればいいと思う」

チャールズは私に尋ねた。

原作には無かった展開だ、私は驚いたが、私にとっては好都合だ。


「可哀想な子ね。私の子として引き取っていい?」

私はできるだけ自然に聞こえるようにチャールズに言った。

チャールズは喜んでくれた。


「君は優しいから、そういってくれるかも、とは思っていたけど、本当にそう言ってくれて僕は嬉しいよ。乳母とかは僕が探しているから」

「お願いね。流産した子の生まれ変わりのような気がして」

私がぽつんと言うと、チャールズは慌てた。


「君のお腹を痛めた子も産まれるよ。僕も協力するから」

「ありがとう」

私は二重の意味で心からの笑みを浮かべた。


 これで、キャロラインを私が引き取れるし、チャールズも原作と違って少なくとも多少は私を愛しているのが分かった。

本当に嬉しかった。

だが、嬉しさの余り、私は重大なことを忘れていた。

私とチャールズが原作と違って仲良くなったことで、アンの機嫌を私は知らず知らずのうちに損ねていたのだ。

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