第43章
前章より9年ほど、時間が流れています。
「これが私が名前を貰った叔母さんのお墓なの」
「そうよ」
私は一緒に連れてきた娘に説明した。
「このお墓はどうして他のお墓と違うの」
「夫婦墓というの。最後の審判まで添い遂げると約束した夫婦は一緒のお墓に入るの。そうでない場合は、1人1人でお墓に入る。ヘンリーとアンは最後の審判まで添い遂げると約束したから、同じ墓に入ったの」
「パパとママも同じなの」
「そうね」
私はそう説明しながら、内心で思った。
本当のところ、私はどうなのだろう、私はチャールズと最後の審判まで添い遂げたいのだろうか。
チャールズは、私を内心でかなり怖れているので、私から言いださない限りしがみついてきそうだが。
私はこの娘を産んだ後、信頼できる医師複数から、夜は止められた方がと忠告された。
それで、第二夫人を持ったら、と私はチャールズに言ったのだが、チャールズが妻は君だけだと言って断った。
陰で、私が怖くて第二夫人など持てない、とチャールズは笑って言っていると私は聞いた。
失礼な、私はそんなに怖い女ではない、優しくて夫を立てる女なのに、もう少し言い方と言うものがあるだろうに。
「アン、大きくなったらどうしたいの」
私は娘に問いかけた。9歳になる娘は大きな声で答えた。
「エドワードと結婚する」
「ダメよ。エドワードは婚約しているの」
「ええ、婚約しているだけなら、まだ大丈夫じゃないの」
やれやれ、娘のアン、本当に妹のアンの生まれ変わりではないでしょうね。
婚約者のいる男性と結婚したいだなんて。
それにエドワードは、あなたの本当は異母兄なのよ。
もっともエドワードも大概だ。
ジョンの姉妹であるキャサリンと婚約したのだが一悶着あった。
キャロラインとずっと結婚したいとエドワードは思っていたらしい。
キャロラインと結婚したいと私達に懇願したのだ。
だが、私もチャールズも猛反対した。
キャロラインとエドワードはお互いに知らないとはいえ同父母姉弟なのだ。
帝室と大公家の融和のためと、私とチャールズは説得に努め、エドワードは渋々納得した。
もっともエドワードの気持ちも分からなくもない。
エドワードは12歳、キャロラインは15歳、一方、キャサリンは24歳だ。
年齢的にはどう考えてもキャロラインの方が妥当だ。
そして、キャロラインは皇帝ジョンに皇貴妃として、つい最近、結婚した。
本当は別の男性と結婚させたかったのだが、先にジョンに嫁いだマーガレットがジョンの子を産まない。
結婚して6年にもなるのだ。
このあたりは原作通りなのだろうか。
止む無く大公家としては、キャロラインもジョンに嫁がせることにした。
もっとも原作と違い、マーガレットとキャロラインは仲が良い。
男の子、つまり皇太子ができた暁にはマーガレットが養子にすることで2人の話はついているらしい。
私はアンとヘンリーの墓の前にぬかづいて祈った。
前世の記憶が甦った時、アンを幸せにするつもりだったのに、幸せにできなかった。
むしろ、原作より不幸な目にアンを遭わせてしまった。
アンの自業自得と私の内心が叫ぶ一方で、どうしてこうなったのか、という想いが自分の中に浮かぶ。
アン、来世では早くヘンリーに逢うのよ。
そして、正気のまま、ヘンリーと幸せに暮らすのよ。
私はしばらく祈り続けた。
事実上の終わりです。
エピローグは、主人公が亡くなった後、後世の史書の記載という形になります




