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第38章

前章から3年が経っています。

 昨日はエドワードの3歳の誕生日祝いを家族全体でした。


 私は祝宴疲れもあり、思わず物思いにふけった。

エドワードが産まれてから3年が経つが、アンの精神状態は良くなるどころか、微妙に悪化している。

いつになったら、エドワードを自分のお腹を痛めた子としてアンはきちんと認識するのだろう。


 私が心が壊れてしまったアンを垣間見てから約3年が経つが、それ以来、私は直接、アンの姿を見ていない。

ソフィアやヘンリーの話を総合すれば、アンはヘンリーに会う度に抱いてほしいとせがんでいるという。

ヘンリーと言えど木石ではない。

アンは絶世の美女であり、スタイルでさえ人並み以上の私が顔色を無くすくらいのものだ。

そんなアンに誘われてはヘンリーも断りきれない。


 アンとヘンリーの結婚式の際に、アンの着替えに結果的に付き添った私は内心でアンのスタイルが羨ましくて堪らなかったくらいだ。

しかも、その後、4人の子を産んだにも関わらず、ソフィアの話を信じるならば、アンのスタイルは変わっていないそうだ。

アンこそ悪魔の化身ではないかと、その話を聞いた際に私は思わず思ったくらいだ。

ともかくその影響が思わぬところで出ていた。


「大丈夫なのですか」

物思いから覚めた後で、私はヘンリーに帝室との戦争準備について相談しに赴いたのだが、ヘンリーと顔を合わせた際に驚いた。

ヘンリーは目の下に隈が出来ていた。

「大丈夫だ。大丈夫」

ヘンリーは口先で言うが、どうみても大丈夫ではない。


「ゆっくり休んでください」

私はヘンリーを労わったが、ヘンリーは長くないと思わざるを得なかった。

アンに付きあわされることで、ヘンリーは体力を消耗させている。

ヘンリーは40代だ。

どう考えても身が持つはずがない。

ヘンリーは徐々にやつれていた。


「準備はどうですかな」

ヘンリーは私に尋ねた。

それだけでお互いに通じる。

「今なら五分五分といったところですね。後2年あれば、圧勝できます」

私はヘンリーに報告した。


 3年の間、私はこのために奔走した。

帝都近辺、帝都に2日以内に駆け付けられる道程の圏内にある大公家の荘園の在地領主は荘園の管理人に立場がほぼ変わった。

二重名義故に生じる問題、共有名義の下級貴族から在地領主を管理人にすることに同意が得られない等々の問題点は、ヘンリーをバックにすることでアメとムチを使い分けることでやっと克服できつつある。


 そして、私はその一方で、ジュリエットの実家の軍人貴族の面々から軍事教育を多少なりとも受けた。

全く知らないのと多少は知っているのとではやはり違う。


 帝室、より正確に言えば元皇帝ジェームズは大公家の動きに驚くほど無関心だ。

大公家がいざと言う場合の武装蜂起を計画する等、帝室の権威から有りえないと考えているのではないか。

だが、ヘンリーと私はその覚悟を固めて準備を進めたのだ。

その差が徐々に出てきつつある。


 だが、荘園の管理人の旨みを充分に味わっていない今の段階では、在地領主は帝室にまだ刃を向けるだけの覚悟を私達と共有しているとは言えない。

後、2年は欲しいと私は痛切に願った。

しかし、皮肉にもアンが障害になりつつある。


 アン、本当にヘンリーを愛しているなら、ヘンリーを労わって、と私は願ったが、無理だろうと同時に諦めの境地に達した。

今のアンはヘンリーに抱かれることでしか、心の安らぎを得られないのだから。

「そうですか、後、2年ですか」

ヘンリーはそう言って遠い目をした。

私はヘンリーが少しでも休めるようにとヘンリーの前を去った。


 そして、それから2月後にヘンリーは急死した。

アンの目の前でヘンリーは幸いなこと(?)に死ななかった。

もし、ヘンリーの死をアンが目にしていれば、アンの精神状態はもっと悪化していたろう。


 ヘンリーの葬儀はチャールズが執り行い、アンは夫の死がショックで人前には出られないということで取り繕った。

ヘンリーの葬儀の後、アンはヘンリーの死をソフィアらが伝えても認識せずに、ヘンリーはいつ来るのと尋ねていると、私はソフィアから聞いた。


 ヘンリーの葬儀を済ませた後、チャールズは大公家の継承と大宰相への就任を皇帝ジョンに望んだ。

しかし、皇帝ジョンのバックにいる元皇帝ジェームズは、それを拒否し、逆にチャールズに反乱の嫌疑を掛けた。

予想通りの展開になったと私は判断し、直ちに動いた。


 後々まで語られる「帝都大乱」が始まった。

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