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第3章

 でも、どうやって、そう考えた瞬間、私は真っ青になった。

これって、既に詰んだ状態では?

どうして、もっと早く前世の記憶が戻らなかったのだろう。


 記憶通りなら、既に妹のアンのお腹の中にはチャールズの娘がいるのだ。

中絶手術などないこの世界ではアンは娘を産むしかない。

そして、娘が産まれたとして、その後をどうすればいいのだろう。


 前世だったら、私はチャールズと離婚して、アンとチャールズが結婚すれば済む(一時的な大騒動は当然起きるだろうが。)話かもしれない。

だが、結婚が家と家との結びつきと言うのが基本にあるこの世界で、そんな離婚が簡単にできるものではない。

仮にも大公家の次期当主と皇帝の孫娘が結婚したのである。

形式だが、皇帝の許可も一応は受けた結婚なのだ。


 離婚はまず不可能だし、この世界では大スキャンダルになって、夫も妹も(私も当然)社会的に抹殺されるという結果になりかねない話だった。

それにしても、前世といい、この世といい、私は幸せの絶頂から奈落に転落させられる人生をどうして歩むのだろう。

あらためて甦った前世の記憶を思い出しながら、私はいろいろと考え込んでしまった。


 私は前世で陸上の特待生として大学にスポーツ推薦で合格した時、将来の五輪の日本代表候補とまで周囲に言われていたものだった。

でも、大学1年生の時に、骨肉種を発症。

幸い四肢切断は避けられたが、既に肺に転移していたこともあり、治療のために大学中退を余儀なくされ、当然、陸上選手の路も閉ざされてしまった。


 その後の私の人生は病院と自宅を行ったり来たりだった。

私の今に残っている最期の記憶は、新型抗がん剤の投与の副作用で呼吸困難から意識を失うものだ。

その後の記憶が全く無いということは、自分はその後すぐに亡くなったということではないだろうか。


 そして、この世では、一応は皇帝の孫娘として産まれて、大公妃になるのに、夫の浮気に苦しんで半ば狂死するなんて、救われなさすぎる。

思わず私は自己憐憫にふけった。

どうすればいいのだろう。


 ああ、それにしてもチャールズがろくでもない男なら嫌いになって、仮面夫婦になろうと割り切れるのに、とチャールズに八つ当たりしたくなった。

チャールズは、原作中では私の妹アンの方が大好きと言うのがメアリにとって唯一最大の欠点といっていい存在なのだ。

浮気相手が妹のアンで無かったら、私を第一夫人にしてくれるのならチャールズの浮気は構いませんと(この世の常識に私が毒され過ぎているのもあるが)私は断言したろうに。


 容姿も家柄もチャールズは申し分が無い。

政治的才覚も充分で、18歳にして帝国の宰相(帝国の統治は大変なので宰相は4人いるけど)の1人になっている。

更に将来は大公家当主のみが就任できる大宰相就任が確実視されているのだ。


 貴族としての教養も当然身に着けているし、財力も大公家当主にふさわしいものだ。

性格も悪くないので、貴族社会の評判も上々、唯一のチャールズの欠点が女遊びをしないということだ、という冗談があるくらいだ。


 そういう人が、恋に狂うと人生まで狂わせるとはよく言ったものだ。

チャールズはアンとの初恋によって、人生を狂わせてしまう。


 アンが亡くなったとき、チャールズはアンを元皇帝に奪われた復讐を遂げるために、大宰相でありながら、帝国への叛乱を計画している。

皮肉なことに皇帝の玉座にいるのはアンの忘れ形見なのに、チャールズはそれを知らないのだ。

漫画はアンが亡くなるシーンで終わっており、叛乱をチャールズが実際に起こしたのか、それがどうなったのかは不明になっている。

作者自身は、読者の皆様の想像にお任せしますとしているので、読者の間では、この後の帝国がどうなったのか、話題になったものだった。


 そんな夫チャールズとの関係を、今後、私はどうすべきか、とりあえずそれを決めることにした。

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