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第2章

 私の顔色が急変したことに夫のチャールズも気が付いたのだろう。

横から声をかけてきた。


「君の顔色も悪いよ。大丈夫」

 ソンナセリフ、マンガノナカデハナカッタハズ、トイウコトハ、ヨクニタベツセカイナノカ。

私の思考は完全に前世に捕らわれていた。

いけない、このままでは大騒動になる。


 これまでの人生経験等を総動員して、私は何とか落ち着いた声を出した。

「ごめんなさい。結婚式から披露宴で疲れていたところに、妹の具合が悪くなったのを見て、私も心配になったことから、気分が悪くなったみたい。1人、別室で横になって休んでいいかしら」

「いいよ。披露宴は終わりにしよう。アンは大丈夫だろうか」


 夫の声が他人行儀に聞こえる。

それは気のせいではない。

夫の声は私よりも妹を心配している声なのだから。

私は夫の声から、この世界があの漫画の中の世界であることを確信した。


 私は別室で休みながら、この世界に来る20年以上前に読んだり、観たりした漫画を思い出そうとしていた。

何しろ20年以上前なのだ。

記憶に自信が無い。

しかも、私の記憶の中では漫画版とアニメ版が入り混じった記憶になっているようなのだ。

大人気で1年間という長期のアニメ化もされた漫画で、原作愛好者にも好評と言う奇跡的なアニメ化がされた漫画なのだ。

しかし、漫画とアニメでは微妙に違うところがあった。


「暁星に願いを」というタイトルの漫画だった。

冒頭の名文句を前世ではファンの証しとして暗唱できたのに、今では自信が無い。

確かこんな感じの冒頭だった。


「暁星に願いを掛けるとその通りになって幸せになれる。

 そう子どもの頃に誰かに教えられた。

 私はそれから何度も暁星に願いを掛けた。

 でも、私は~」


 ヒロインのアンは15歳の夏、これまではいつも姉のメアリと連れ立って赴いていた都の北にある別荘に避暑のために1人で行った。

6歳上の姉は初秋に執り行われる結婚準備に忙しく、それどころではなかったのだ。

1人と言っても侍女も数名いるし、護衛の騎士もいる。

何の問題もないはずだった。


 だが、そこで男主人公のチャールズに会い、アンは過ちを犯して関係を持ってしまう。

チャールズは彼女を下級貴族の娘で公爵家の侍女と誤解しており、第二夫人にしようと考えたのだ。

しかし、真実はアンは婚約者メアリの妹だった。

家と家の結びつきが結婚の基本にあるこの世界で、妻の妹を第二夫人や愛人にすることは自分の妹と結婚するようなものでタブーとされることだった。


 真実を知って、チャールズとアンは苦悩するが、そこにアンの妊娠発覚と言う追い討ちが懸けられる。

何とか秘密裏にアンは娘を出産し、チャールズに娘を渡して、チャールズは死んだ愛人の娘だとその娘を世間体を取り繕って発表することになる。

アンは何とかチャールズとの関係を諦めようとするのだが、チャールズはアンを諦めきれないで、何とか関係を持とうとする。


 そして、そのことがアンの姉メアリの更なる誤解を招く。

メアリは夫をアンの方が積極的に誘惑していると誤解してしまうのだ。

それが原因でかつて仲の良かった姉妹は絶縁する。

これが第一部の主な内容で、この後、更に第四部まで続く大河少女漫画だった。


 アンとチャールズは相思相愛なのに、どうしても結婚までにはいかないのだ。

アンは最終的に臣下になった皇帝の孫娘としては最高の准皇后という地位にまで上るのに、大公のチャールズとはどうしても結婚できない。

最後は、退位した元皇帝のジェームズとの間に秘密裏に皇子ウィリアムを産み、その子が帝位に即位したのを聞いた直後に、アンは亡くなる。

私は准皇后よりも皇帝の母よりも本当はチャールズの妻になりたかった、と言い遺して。


 アンの姉、メアリの運命も悲惨だった。

第一部でチャールズと夫婦関係が事実上破たんしたことから、第二部で元皇帝ジェームズの娘キャサリンの嫁ぎ先としてチャールズは目を付けられてしまう。

そして、元皇帝は娘を降嫁させる。

そのために、メアリはチャールズの第二夫人に落とされてしまい、プライドを幾重にも結果的に傷つけられたメアリは半ば狂死するのだ。


 冗談じゃない。

私たち姉妹には、このまま行くと悲惨な運命が待っている。

私は半ば狂死するし、妹アンにしたって、准皇后になり皇帝の母になったとはいえ、産んだ子どもは関係を表向きにできない子ばかりなのだ。

更に最愛のチャールズとは結ばれずに終わるのだ。

私は運命を変えてみせると決意した。

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