第22章
「50騎がすぐに出せるのですか」
私は内心で驚いた。
騎士1人に従士4人が付くのが基本的な騎士の編制である(3人や5人の従士が付くこともある。)。
単純計算にはなるが、約250人の兵がすぐに出せるということになる。
しかも教会自身の本来の警護任務もあるのだから、どう少なく見積もっても教会は100騎は帝都に騎士を常駐させているのは間違いない。
正直言って、そんなに軍事力を帝都の教会が保有しているとは私の予想外だった。
教皇のトマスは平然として言った。
「何しろ教会自身も荘園を少ないとはいえ保有しております。荘園の維持管理には、教会騎士団を編制して自ら当たるしかないのですよ。それに教会はいろいろと宝を保有しておりますからな。自衛の必要が高いのです」
「確かにそうですね」
私は相槌を打った。
教会の荘園が少ないとは、謙遜どころか、皮肉もいいところだ。
大公家当主のヘンリーから私は教えられたが、教会の荘園は帝室や大公家に匹敵するとまでは言わないが、そんなに見劣りするものではないらしい。
大公家の半分は少なくともあるのでは、というのが、ヘンリーの見立てだった。
だが、正確なところは帝国大宰相たるヘンリーにも不明らしい。
何故なら教会の荘園の多くが州長官の許可しか受けていない荘園だからだ。
教会は各州に密着した存在のために、荘園の設置も州長官の許可のみによることが多い。
州長官のみの許可がされた荘園では、州長官が交代したら荘園で無くなるのが大原則になっている。
だが、教会相手では州長官も在地の住民の反発を怖れて、引き続き荘園として認めることが多い。
そのために教会の荘園は皇帝や大宰相にも正確なところが把握できなくなっている。
表向きは州長官交代に伴い、基本的に教会の荘園は、荘園では無くなる存在ではある。
また、荘園設置を認めることは国の税収減少につながるので、州長官としての査定が下がることになる。
そういったことから、州長官が認めた教会関連の荘園は、州長官が交代しても皇帝や大宰相には表向きは無いものとして報告されることが多いからだ。
教皇のトマスの発言はそういった状況から発せられたものだ。
とりあえず、私としては教会の軍事力の方がはるかに重要だ。
ちなみに大公家が帝都に常駐させている騎士は約50騎だ。
勿論非常事態になれば、帝国内に散在する大公家の荘園管理に当たっている騎士に大公家は都に来るように動員を掛けることになる。
大公家当主のヘンリーによれば、大公家が直接、主従関係を結んでいる騎士は1万程だという。
だが、帝国は広いし、実際には自分の収入に関わる荘園管理を優先する騎士が、どれくらい帝都まで駆け付けてくれることやら。
帝国全体を争乱に巻き込むわけには行かないし、私とヘンリーは帝都周辺で争乱は収めるつもりだから、帝都周辺の軍事力の把握は極めて重要な話だ。
教会は帝都周辺に関しては、大公家の2倍の軍事力を即時動員という観点からは保有している。
大公家が帝室と戦争に突入した場合、教会は絶対に敵に回してはならない。
いや、味方につけるのが必須の存在だ。
いけない、いけない、私の考えが物騒極まりないものになっている。
本来の目的、妹のアンと大公家当主のヘンリーとの結婚式警備に話を戻そう。
私は慌てて考えを結婚式に戻して話を続けようとしたが、教皇のトマスは更なる爆弾発言をさらっとしてくれた。
「全く甥には困ったものです。荘園整理をされて困りますな」
私は慌てて黙って肯いた。
声が出ない。
トマスの甥は元皇帝ジェームズしかいない。
つまり、トマスにとって荘園整理を進めようとしたジェームズは邪魔な存在なのだ。
確かに教会のトップ、教皇となったトマスとしては、血縁関係より教会の方が遥かに重要だ。
ジェームズはいつの間にか教会を敵に回している。
私は内心で歓喜した。
そして、トマスはそれを教えてくれた。
つまり、トマスは私の味方になる用意があると暗に言っているのだ。
とりあえず、トマスがここまで腹を割って、私に話してくれたことだけでもありがたい。
「教皇猊下の甥御様のことはともかく、結婚式のことを話しませんか」
私は内心を押し殺して本題に戻ろうとした。
トマスは意味ありげに微笑みながら言った。
「おお、大事なことを話さねば、大変失礼しました」
私は調子を合わせながら思った。
全くヘンリーといい、トマスといい、大変な狐と狸だ。
こんな調子だと、ジェームスも相当なタマだろう。
私はチャールズを守って幸せになれるのだろうか。
私は不安がこみあげた。




