幕間ーアン3
私が家に帰ったところ、赤子の泣き声が聞こえた。
キャロラインの泣き声そっくりだ。
私が涙にくれていると、乳母のソフィアがおそるおそるというか、渋々というか、そんな感じで手紙を出してきた。
私がその手紙に目を通すと驚くようなことが書かれてあった。
チャールズが母に、愛人が出産の際に亡くなり、遺児を託されたので、母に育ててほしいと言ったら、正妻のメアリにそのことは告げたのと母に諭された。
確かに愛人の子を正妻が育てるのはよくあるので、メアリに話したら、流産した子どもの代わりにその子どもを引き取りたいとメアリに大歓迎されてしまった。
それで、キャロラインをメアリに託さざるを得なくなったということだった。
私は呆然とした。
あの女は姉のメアリではない、別の化け物が成り替わったに違いない。
皇帝の孫娘という誇りを持つ姉がそんなことをするはずがない。
夫の愛人が産んだ子を喜んで引き取り、姉が自分の子として育てるなんてありえない。
だが、家に帰った私がそれとなく観察していると、姉はキャロラインを実子と同等、いやそれ以上に可愛がっているように見えた。
実際にキャロラインは姉を実母と思い、完全に懐いてしまった。
しばらく経ってから、気が落ち着いた私は姉を訪ねて行き、その際にキャロラインを私が抱こうとした。
そうすると、キャロラインが泣き喚いてしまったので、姉が慌ててキャロラインを抱いたら、キャロラインは泣き止んで笑顔で姉にしがみついてしまった程だ。
私は驚き、かつ姉を憎んだ。
姉は私の初恋にして最愛の人チャールズのみならず、お腹を痛めた私の最初の娘キャロラインも私から奪って行ってしまった。
理不尽極まりない怒りだと自分でも思う。
だが、姉の幸せそうな笑顔が、いつも私の目に入ってくる。
夫に愛され、血のつながらないとはいえ育ての娘に愛されて、家庭の幸せを姉は満喫している。
姉のそんな顔を見るたびに、本来は私がそれを享受できるはずなのに、チャールズもキャロラインも私の横にいるのが本当なのに。
そんな真っ黒な想いが自分の心の中に起こるのが止まらなかった。
そうこうしている内に、月日は流れ、私は17歳になり、結婚をいろいろなところから申し込まれるようになった。
その中には、皇帝陛下(最も皇帝自身は11歳なので、側近が私を皇后候補として打診しているのだろうが)やその父の元皇帝陛下さえいた。
だが、私はこれまでの歳月の中で心の一部が荒んでしまっていた。
ソフィアの制止にも関わらず、求婚の手紙に自筆で返事を書こうとしたり、キャロラインにしばしば会いに行っては涙にくれたり、私はしてしまった。
だって、私の最愛の人チャールズは私を完全に忘れ去ってしまっているように、私には思えてならなかったからだ。
私は表向きは男性と付き合ったことは無い。
だが、真実はチャールズとの間に子まで生しているのだ。
もし、誰かの求婚を受け入れて、初夜を迎えたら、私は処女でないことが発覚するだろう。
そして、ふしだらな女として、すぐに離婚する羽目になり、姉や父から皇帝の孫娘にふさわしくないことをしたと責められるだろう。
更に、修道院に無理矢理送り込まれ、一生、再婚どころか恋人を持つことも許されずに神に仕える人生を送る羽目になるだろう。
そう思ってしまうと、私は何もかも嫌になり、捨て鉢な気持ちになった。
そういうことをしてしまったので、姉は遂に真実に気づいてしまったのだ。
キャロラインが私の実の娘であり、かつて私とチャールズが関係を持ったことに。
報復として姉はいろいろ画策して、自分達の世間体を保ちつつ、私をヘンリーとの結婚と言う生き地獄に追い落としてしまった。
自業自得という想いが浮かぶ。
でも、私から愛する者を何もかも奪って行くように思える姉を、私はどうしても許せなかったのだ。
幕間の終わりです。
次章から本編に戻り、主人公のメアリ視点になります。




