幕間ーアン2
結婚してから姉は変わった。
以前は口の悪い私の侍女の1人に言わせれば、皇帝の孫娘ではなく女帝並みと評された高慢さが陰を潜め、チャールズに気に入られようと姉は努力していた。
元々、姉は人並みどころか標準以上の美人だし、チャールズに気に入られようと努力していれば、当然のことながらチャールズも姉を正妻として大事にして愛するようになる。
ソフィアですら、結婚すると人が変わるというけど本当なのね、と姉を評していたが、私は違うと思った。
結婚の際に何か姉の身に何か起こったのではないか。
でも、それが何かは私には分からなかった。
そうこうしている内に姉は妊娠し、姉とチャールズは揃って教会に礼拝に行き、無事に丈夫な子が産まれるようにと祈るようになった。
この時までは私は姉を単に羨ましいとだけ思っていた。
だが、結局、姉は流産してしまい、それから寝込むようになり、チャールズが出来る限り姉に付き添うようになった。
私が自分の妊娠を知ったのはその頃だった。
しばらく月のものが来ない。
体調不良が続いているせいだと私は思い込んでいた。
だが、ソフィアが私の身体を見て気づいた。
私が妊娠しているのではないかと。
ソフィアに月のものが来ていますか、と私は聞かれて、来ていないと答えた瞬間に、ソフィアの顔色が変わった。
そして、ソフィアに私が妊娠していることを告げられた。
私はその瞬間はチャールズとの縁が切れていなかったのだと嬉しく思った。
だが、ソフィアの話を聞くうちに真っ青になり、姉を憎みたくなった。
「チャールズとの子を妊娠しているですって。教会にチャールズと礼拝して、丈夫な子が産まれるように願わないと」
私が言った瞬間に、ソフィアは頭を振って言った。
「ダメです。このことは秘密にしないといけません」
「どうして」
「義兄の子を妊娠したのは、大変な醜聞です。チャールズにとっても大変な問題を引き起こしますよ」
「そんな。姉とチャールズは揃ってあんなに幸せそうに教会に礼拝しに行っていたのに」
「本当にチャールズとアン様が大公家の希望通りに結婚していれば」
ソフィアは思わず言ってしまったのだろうが、私はその一言に驚愕した。
「どういうこと」
私はソフィアを問い詰めた。
言ってはならないことを言ってしまったと、ソフィアは顔色を変えたが、私の権幕に嘘はつけないと思ったのだろう。
ぽつりぽつりとソフィアは私に話してくれた。
最初は大公家は私をチャールズの結婚相手として希望したこと。
それを聞いた姉がどうして私より先にアンが結婚するのと強く主張したこと。
姉がそう強く主張したことで大公家もチャールズの結婚相手として姉を選んで、結果的に姉とチャールズが結婚したこと。
そういったことをソフィアは説明してくれた。
私はそれを聞いて、姉をあらためて憎いと思った。
どうして、姉は私からチャールズを奪ったのだろう。
ソフィアは私のためにいろいろと骨を折ってくれた。
チャールズとも秘密裡に連絡を取り、私の子をチャールズの子として育てられるようにしてくれた。
私の出産が迫ってくると、ソフィアは病気になったふりをした。
そして、自分の実家に移り、私に心細いから来てほしいと手紙を書いて、私が自然とソフィアの実家に来られるようにもしてくれた。
この時には、私の子が無事に生まれた時はチャールズの母に、私の子は引き取られることになると私は聞かされていた。
そして、私はソフィアの実家で、キャロラインを無事に出産した。
すぐに私はキャロラインをチャールズに引き渡すべきだった。
だが、キャロラインをチャールズに引き渡したら、もう2度と母子と名乗れることは無くなると思うと、私は中々踏ん切りがつかなかった。
結局、10日近くキャロラインを私は引きとめた。
泣く泣くキャロラインをチャールズに渡した後、私は落ち込んで寝込んでしまい、ソフィアを心配させた。
ようやく心身が回復して、私が家に帰ると思いもかけないことが待っていて、私は姉を更に憎むことになった。
姉、メアリが結婚後に性格が変わったのは結婚の際に前世の記憶がよみがえったせいなのですが、当然のことながら周囲は全くそれを知りません。
ただ、妹のアンは長年一緒に過ごしてきたので、何かが姉の身に起こったと察してはいます。
ですが、それが何かは全く分かっていません。




