第18章
帰宅するとチャールズが私を待っていた。
私は2人きりにさせて、と侍女に命じて、チャールズと一室に籠った。
「本当のことを言って」
私はいきなり切り出した。
チャールズはきょとんとしている。
「キャロラインは私の妹、アンとあなたの子どもね」
「何を突拍子もないことを言いだすのだい」
チャールズはとぼけようとしたが、私は追い討ちをかけた。
「キャロラインを見ていて思ったの。何で私に似てくるのかな、って。それで、結婚式でのこと、アンのあの頃の体調、あなたの当時の態度、いろいろ考えていくと、そうとしか考えられなくなった」
本当は前世の記憶からなのだが、そんなことを言ったら、チャールズに却って信じてもらえなくなるだろう。
ここは正攻法でいこう。
幸いキャロラインが、私に似てきたのは本当だ。
何しろ、アンと私は姉妹だけあって似ている。
アンそっくりの美貌を誇ることになるキャロラインは、私にも似ている。
チャールズは、何とか誤魔化せないかと目を泳がせている。
私はトドメを刺すつもりで言った。
「特に最近のアンの態度よ。何でキャロラインが可愛いからといって、何度も来るの。おまけにキャロラインをあやしながら、涙ぐむこともある。義理の姪とはいえ、赤の他人なのよ。どうして、アンがそういう態度を取るの」
チャールズは、さすがに顔色を変えた。
そう、私が最終決断を迫られたのは、このこともある。
ジュリエット以下の私達の家の侍女たちが、どうしてキャロラインをアンがしばしば訪ねて来て、涙ぐむこともあるのか、不審に思いだしたのだ。
「もし、そうだったとしてどうするつもりだい」
チャールズは開き直るように言った。
「アンには結婚してもらって、家から出てもらうわ。どちらにしても結婚しないといけないのだし」
私は平然と言った。
「君の妄想通りだとしたら、アンはすぐ離婚させられかねないよ」
「大丈夫よ。全てを承知してでも結婚してくれるという方がおられたから」
「そんな人がいるとは思えないね」
チャールズは完全に開き直っている。
その証拠に口調が荒くなってきている。
私も言い返した。
「あなたの叔父のヘンリーが、アンに求婚してくれたわ。大公家当主のヘンリーなら真実を知っても沈黙を守らざるを得ない。何しろ大公家の大醜聞ですからね」
チャールズはぐっと詰まった。
チャールズといえども、実の叔父であるヘンリーは頭の上がらない存在だ。
実際、私の言う通りなのだ。
チャールズとアンが不倫をしたというのは、本当なら大公家にとって大醜聞だ。
ヘンリーは大公家を護るために裏の手口さえ使うだろう。
チャールズは攻め手を代えてきた。
「ヘンリー叔父がアンに求婚したって?20歳以上も年が違うし、娘もいる。ヘンリーと結婚するアンが気の毒だよ」
「じゃあ、アンにふさわしい相手があなたに思いつくの」
私は反問した。
チャールズは黙ってしまった。
実際問題として、チャールズはアンに結婚してほしくないと思ってきたようだ。
だから、こういう場合に返答を求められてもすぐに答えられない。
私は話を続けた。
「アンとあなたが関係を持ったのは、キャロラインを私が預かった時から考えても、私たちが結婚する前だと私は思いたいわ。それなら、私はまだ許せるし、沈黙を保つわ。でも、結婚後の事なら、私は許せない」
そう、この一線が私の許せるぎりぎりの線だ。
だが、原作から考えるとどうなることやら、結局、この2人はもう一度、この一線を破るのではないか。
「君がそう思いたいなら、そう思えばいい」
チャールズは吐き捨てるように言った。
暗に認めたな。
私は可愛い妻に戻ることにした。
ともかく私はチャールズに捨てられたくないのだ。
「お願い。私を捨てないで。キャロラインのためにも」
「分かった」
キャロラインは、私を実母だと思い、完全に懐いている。
アンが抱くと泣くのに、私が抱くとすぐに泣き止むくらいだ。
それで、アンがますます荒んだのは皮肉な話だ。
私たちの間に沈黙の時がしばらく流れた。
お互いに身動きが取れない。
私は自分から動くことにした。
「アンの所に行くわ」
何をしに行くのかは、お互いに言わなくても分かっている。
チャールズは私を黙って見送った。




