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第14章

 父に至急、父の別荘を訪問してアンの結婚のことで相談したいことがある旨、私は慌てて手紙を書いた。

事が事である。

父にこちらに来てもらって話をしては、チャールズやアンの耳に入った場合が怖すぎる。


 父からの返事は翌日に届いた。

いつでも別荘に来ていい、ということだったので、明日、別荘を訪ねる旨をすぐ手紙に書いて、使いの者に渡した。


 私は1人で考え込んだ。

どうしたものだろうか、やはり、アンは誰かと結婚させるべきだろう。

アンが独身のままでいては、周囲が不審に思うだけだ。

今のアンの状況では、下手をするとチャールズとの醜聞までも引き起こしかねない。

ここはアンを誰かと結婚させて、無理矢理にでもチャールズとアンを引き離してしまうべきだろう。


 チャールズとのことがあるので、アンの我がままを聞いて、アンに結婚相手を決めさせようと私は考えていたのだが、今のアンには逆効果だったようだ。

私の考えが甘かった。

確かにアンは既に子どもまで産んだ身なのだ。


 それなのに初婚のように求婚者が殺到しては、アンにしてみれば、どうせ最愛のチャールズとは結婚できないし、無理に妥協して誰かと結婚して初夜を迎えても、自分が処女でないのが発覚してすぐに離婚を宣告されるだけ、と却って荒んだ思いに駆られてしまったのだろう。

ここは父の代理で私がアンを無理に誰かと結婚させた方が、アンにとって却っていいのではないか。

では、誰がいいだろうか。私は考え込んだ。


 この日は、幸か不幸か、チャールズは宰相府で当直だった。

それで、チャールズに置手紙をして、翌朝早々に、私は父の下へと護衛の騎士だけを連れて出かけることにした。


 そうしたところ、ジュリエットから出かける前に相談を受けた。

「アン様が、最近、キャロライン様の世話をしたいと頻繁に来られます。日帰りとのことですが、お出かけ中にアン様をキャロライン様に逢わせてよいでしょうか」

「別にいいわ。私の妹だから叔母も同然だし」

私はジュリエットにそう答えた。


 そういえば、アンはいつの間にか、キャロラインの世話をしたいとよく来るようになっていた。

本当はアンが実母なのだが、私の腹心のジュリエットといえど、このことについて真実は言えない。


 それにしても、アンにしてみれば、今やキャロラインが唯一のチャールズとの絆になっているのだろう。

チャールズは私との夫婦生活に満足しているようで、アンを顧みない状況だ。

あの一夜を忘れられないアンは、キャロラインに逢うことでチャールズを偲んでいるのだろう。

アンがあの一夜を忘れてしまえればいいのだが、キャロラインという子どもまでいては、とても無理だろうな、と私は内心で思った。


 父の山荘についた後、人払いをしてもらい、私は父と2人きりで密談することにした。

私が最近のアンの態度について話し終えると、父はため息を吐きながら言った。

「あんなに気立てのよかったアンが荒んでしまうとは思いもよらなかったな」


 私もそれには同感だった。

原作の中ではアンは亡くなる直前まで気立てのよい女性だった。

チャールズと初めてアンが会い、そして初夜を過ごした際に、チャールズはアンが侍女だと疑わずに去ったくらいだ。

その当時の私がアンと同様のことをしたら、チャールズにお前のような高慢な侍女がいるか、と一発で見破られてしまっただろう。


「それで、お前としてはどうしようと考えているのだ」

「大公家当主のヘンリーとアンを結婚させようと考えています」

私は一夜考えた末の結論を言った。


「それはダメだ」

父の返答は意外だった。

原作で、アンとヘンリーの結婚を推進したのは父だったから、当然、父は賛成すると私は思っていた。


「どうしてダメなのですか」

「私が帝室を完全に裏切ることになる」

父は続けて言った。

どういうことだ、私の頭の中に疑問が渦を巻いた。

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