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第10章

 一方、大陸では古代帝国が、西方からの異民族の襲来、真教の分派行動等によって、徐々に崩壊していった。

帝国とは逆に450年ほど前に古代帝国の血脈は完全に大陸では絶えてしまい、小国が分裂して、戦乱と平和を繰り返す状態になった。


 ちなみに、今の帝国に伝わる真教は、自分達こそ正統派の信仰を伝えているとしている。

しかし、大陸に残存している分裂した真教徒の大半からは異端信仰だと敵視される存在である。

最も自分たち以外は全員、異端信仰だと、お互いに言っている20以上の宗派に分かれた大陸の真教徒に、そんなことを言われても困る。

帝国以外に広まっていないとはいえ、最大の信徒数を誇るのは、帝国の真教の宗派なのだから。


 今、大陸には人口1000万人以上の国は私の知る限り存在しない。

そして、帝国は大陸の宗教、民族の混乱に巻き込まれることを嫌い、300年ほど前に鎖国してしまった。

鎖国と言っても完全な鎖国ではなく、帝国の住民が大陸の住民と交易活動を行うのは黙認するが、帝国は庇護しないという鎖国だ。

もっとも、このために帝国住民は武装商船を仕立てての交易、海賊行為に大陸沿岸で勤しむことになった。

そのために帝国はますます大陸から孤立している。


 この結果、帝国から外国との外交、軍事関係は消滅した。

実際問題として、人口≒国力の産業革命以前の社会で、統一されて、いざとなれば質的に同等レベルの軍隊を編成できる人口5倍以上の海洋国家に渡洋侵攻を大陸国家が行うのは不可能だ。

そんなことをしたら、海洋国家の逆襲で大陸国家は滅亡しないまでも、その寸前に追い込まれる。


 帝国は国土統一後の反乱鎮圧後は、専ら内政に勤しみ、軍事力も警察力レベル以下にまで低下した。

そして、帝国の国土統一過程とその後の反乱への対処過程で、広大な農地が荒廃してしまった。

帝国は、有力者に農地開墾を奨励し、開墾された農地には一時的に免税特権等を与えた。


 帝国としては一時的なつもりだったが、こういった特権は貴族たちの私腹を肥やす方向へ働いた。

やがて、帝室もその旨みを覚えたために開墾農地は荘園になり、基本的に国税は非課税になった。

帝国は数百年に渡る統一戦争過程で、貴族は原則一代、但し皇帝の勅許で世襲を認めるというやり方を採用し、貴族の統制を図った。

但し、大公家の建国以来の忠誠を称えられ、大公家は特に世襲を認められると共に後述の特権を保持した。


 そして、現在、帝国は一般の国税が科せられる農地と、帝室私有の荘園、大公家私有の荘園の3つが主に農地として存在する有様になっている。

国税農地が5割、帝室私有の荘園が2割、大公家私有の荘園が2割、それ以外の荘園が1割と言ったところか。

最も帝室私有、大公家私有と言っても二重名義(例えば、大公家と他の貴族との共有名義)が大半だが、それでも帝室と大公家が帝国を二分する大勢力なのは間違いない。


 更に帝国の軍事力の低下は私兵の増大を招いている。

荘園が非課税なのを理由に、帝国領の各州長官は荘園内の治安維持を厭った。

そのために荘園自身が荘園内の治安維持や年貢の輸送のために私兵を集めるようになった。

今や帝国内には私兵が跋扈し、各貴族が私兵を雇い、その一部が治安維持のために逆用されて騎士の地位を与えられる例まで出ている。

こういったことから、荘園を大量に保有する大公家は気が付けば、数万の私兵を保有していた。


 ここに帝国の伝統が加わる。

皇帝即位には大公家当主の承認がいる。

これは皇帝は臣民から推戴されてなるものだという帝国の伝統によるものだが、今となっては、臣民の推戴の代わりを、大公家当主の承認が務めている。

一方、大公家当主の継承には皇帝の承認がいる。


 そして、貴族の爵位を授ける等にも、皇帝と大公家当主の連名が必要だ。

これは一時、無能な皇帝が続いた際に爵位を濫発したので、それを防ぐために導入された。

私の前世でも官僚の統制に最大の効果があったのは人事権だ。

今の帝国は皇帝と大公家当主が、共同して貴族の人事権を握っている。


 だが、こういったことが帝室と大公家の対立を今や生んでいる。

帝室としては数万人の私兵を抱え、伝統的権威も有する大公家は厄介な存在だ。

大公家を分裂させる等して、皇帝の膝下に大公家を置いてしまいたい。

一方の大公家は、無能な皇帝が即位した場合に生じる帝国の混乱を防ぐために、現行体制を続けるべきだと考えている。

皇帝は君臨すれど統治せずが、大公家の理想なのだ。


 外国の脅威が無いので、帝室と大公家の対立を鎮められなくなっている。

外国の脅威があれば帝国は一枚岩になるのだろうが、今の帝国には外国がいないのだ。


 こういった時代に、原作のアンは余りにも帝室と大公家の対立に無知だった。

 背景説明が続いてすみません。

 次章は原作の説明になります。

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