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イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 02:九十九林の集落
6/21

MISSION 01:生存者を見付け出し合流せよ その2


白い壁の家はすぐに見付かった。


『 九十九林 』のバス停から歩くこと体感時間15分ちょいだが、もうあたりは薄暗い。

そんな中でもよく分かる白い壁。

バス停近くの昭和とか大正とかの息吹を感じる空家と違い、割と近代的っぽい家だ。大手の建築会社が規格通りに建てる、いわゆるメーカーハウス。

俺のアパートの周囲にも、コレと同じような規格の家が、クローンみたく乱立している。

だから親しみ深いはずなのだが…。


「『 富士原ふじはら 』。………合ってるよな」


目の前の家に向かって呟く。

表札はお客の苗字で間違いない。

玄関には何だかよく分からない花が植えてあり、少し葉っぱや木の枝で汚れてはいるものの、掃除を少しサボった程度だ。空家じゃないことは確かだろう。

しかし門に設置されたインターホンを押しても特に反応がなく、耳を澄ませても何も聞こえないことから、どうやら鳴っていないような感じだ。


というか、まず電気が点いていない。


周囲はもう薄暗いのだ。

頭上にある対人センサーが付いているだろうライトが点かないのはまあいい。電気代節約とかかもしれないし。インターホンだってオフにしてあるのかもしれない。

でも室内は普通に真っ暗だろうから、居れば電気くらいは点けるはず。


横にある駐車場には軽自動車が一台停っている。車にあんまり興味がないんで名前までは知らないが、そこそこ見かける珍しくもないやつだ。

ここに住んでいるお客は、『 富士原 道子 』さん。

ポメラニアンのステフィちゃん(雄・3才)との2人(1人と1匹)暮らしと聞いている。

例え「ステフィちゃんはペットじゃなくて家族だ!」と富士原さんが思ってたとしても、法律上犬は運転できないから、きっとこの車は彼女のものだろう。

で、それがそのまま駐車してあるってことは、車でどっかに遠出しているわけではなさそうだ。

なら、ステフィちゃんを散歩に連れ出してその辺を歩いているのか?


反応のないインターホンを連打するのを止め、門から少し離れてみる。

窓は1階から2階までカーテンが閉めてあり、暗いのもあって中の様子は分からない。


この富士原家の他に、見える範囲で民家は3軒。

同じメイン道路沿いに1軒と、山の方へ向かう細い側道の先、小川に掛かった2mもない橋の傍に1軒、もう少し進んで山を背にした1軒だ。

最後の1軒だけが他と離れていて、かつ向かいに倉庫みたいなのもある立派な和風住宅。他は十数m内に集中している。


なぜかメイン道路の所々に陶器の破片っぽいのが落ちているのがちょっと気になるけど、家とは関係ないし今はどうでもいいだろう。

あと、富士原家以外のお宅も全く明かりらしきモノが点いていないってのも気に……うん、やはりコレも今は気にしないでおこう。気にしたら負けだ。

また空家だらけって可能性もあるし、今は昨日アポが取れたという他にはないアドバンテージを誇る富士原家に集中すべきなのだ。


気を取り直して。

富士原さんが散歩をするとして、メイン道路の他は小さな2本の道くらいか。

しかしどちらも道の先は暗い森へと続いており、こんな時間に行くような場所じゃない。犬種がドーベルマンとかシェパードとかならともかくとして、ポメラニアンじゃ…決してポメをディスっているわけじゃないが…、護衛犬としては不安すぎる。

野生動物の脅威に対し、あのフワフワな毛玉みたいなのが対抗できるとは思えない。


散歩でないとすると、ひょっとしてもう寝たとか?

老人は早寝早起きというし、電話の感じではそれなりに老婦人な感じだった。見たいテレビ番組がなくて、起きてたって仕方ないってんで早めのグッナイ?

それなら当然電気なんて消してるだろうし、インターホンだって安眠を邪魔されたくないと切っててもおかしくないだろう。


うん、だったら申し訳ないけど起きてもらおう。

ブチ切れられても構わない。とにかく、今の俺には生きている人間が必要、……ん?


反応のない門をスルーして直接玄関に向かおうとしたその時、家の向こうに人影が見えた。

家庭菜園だろうか。何かの野菜が植わる中、こちらに背を向けて立っているようだ。

なるほど、家の傍で農作業をしていたってワケか。もう暗いが、長年培った経験と勘とかで簡単な作業ならできてもおかしくはない。納得。


「あのー!すいませーん!!富士原さんですかー!?」


安心感からか、ちょっとテンション高めに声を掛ける。


「昨日ご連絡いたしました、“(株)小さな家族ライフ生命”の馬銜澤はみさわです!富士原さーん!」


無視ですか。

それとも耳が悪くて聞こえない?はたまた作業に集中してる?

んじゃもう少し近付いてと。


「ええと、すいませーん!富士原さ、」


…あれ?


そこで気付いた。

老婦人にしちゃガタイがいいってか、あれ男じゃね?

だったら富士原さんじゃなくてご近所さんだ。別人なら、そりゃ呼んでも振り向いてなんてくれな、


振り向いてくれた。

お顔の半分がスプラッタでいらっしゃる、いろいろグロ注意な顔で。

グッドイブニングオブザデッド。


「………Oh」


思わずイングリッシュ。



「オオオオオオォォォォッ!!」



「う、うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」



呻き声を上げながら突進してくるゾンビ。てか速い!?

ダッシュというより早歩き的なスピードだけど、山本ハナゑさんに比べると何倍も速い!

あれと比べるのはちょっとアレだけど!!


とにかく逃げないと!アレはヤバい!てか普通に怖い!

って言ってもどこへ!?


相手のポテンシャルは不明だし、こちらはけっこう歩き回って疲れきってるから走って逃げ続けるのは無理っぽい。そもそも第一、今からどこへ逃げるというのか。

初めて来た地理不明な場所&暗くなってきたこの時間にゴールの見えない逃避行とかマゾゲーすぎる。

同じ理由で隠れるって選択肢もナシだろう。

ヤバい、これは本格的にヤバい。


もうアレか、開き直ってヤるしかないのか?

でも戦うにしろ、武器は野生動物対策にカバンの中に入れたL型レンチしかない。そんなんであんなのと接近戦とか嫌すぎる。

そもそも、車載工具でしかないL型レンチによる攻撃がどれくらい有効なのか。

無論、倒せるとは思えない。殴ればそれなりには痛いだろうけど、痛いと感じて退散してくれるタイプの人には見えない。

殴られて「痛っ!?酷い!もう帰る!!」とか思ってくれるような繊細な連中だったら、目ン玉飛び出たり腸をぶら下げたりしてるのにも関わらず元気にあうあう言えるわけがない。


実に蟷螂の斧だ。焼け石に水感がハンパない。

まあ、だからって無抵抗主義を掲げるほど俺はガ○ジーじゃないんだけど。


………あああぁぁ、もう!

ちくしょう!なんだよクソ!

マジですか。


もしこれが夢とかならさっさと覚めてくれることを祈りつつ、カバンに手を突っ込む。

逃げたり隠れたりが選択肢から外れた今、もはや頼れるものは己の腕力(+レンチ)のみだ。ぶっちゃけ自信ないけど頑張って何とかするしかない。

傷害罪とかそういうのはアレだ。正当防衛で何とか乗り切ろう。ゾンビの人権とかあるかどうか分からないけど。


ふへへ、そうと決まればやってやるぜ!

俺のグレートL型レンチでゾンビ共をファイナル人生。

大丈夫、夢なら覚めれば大丈夫!現実だっても多分何とかきっとおそらく大丈夫!!

よーしパパこれからいっちょリアルバイオ○ザードしちゃうぞー。難易度MAXで。



ガラッ!



窓を開く音。

少し行った側道の先、小川の傍の家だ。そして、その2階から誰かが顔を出す。

明かりがないし、少し離れているので顔は見えない。でも。



「そこの人、こっちへ……!玄関の鍵、開けてあるから…!!」



確かに聞こえたその声は、半ばヤケクソになりかかっていた(嘘。なっていた)俺を正気に戻すのには十分だった。





飛び込んだ先は、やはり電気の点いていない暗い家。

でも迷うことなくドアを閉め、鍵を掛ける。

少し遅れてそのドアに、どすんとナニカがぶつかった。間一髪…よりは少し余裕があったが、それでも胸はドキドキだ。


「ァァァァァ……」


ドア越しに呻き声が聞こえ、その後ガリガリやったりドンドンぶつかったりと粘着を開始する外のヒト。

このドア…この家もまた、富士原家と同じような近代的なメーカーハウスだ。

『 下草 』の山本家みたいな年代物の引き戸よろしく簡単に突破されることはないだろう。


「ァァ…ァァァ………」


だからといって潔く諦める、ってつもりはないようだ。

民家に逃げ込んだはいいが、このままだと延々と待ち伏せされる状態になるかもしれない。

うん、アタマ悪そうだから諦めも悪そう。


とか思ってたら外から何かがガシャンと割れる音がして、ゾンビの粘着が止んだ。

恐る恐るドア穴から外を覗いてみると……って、もう外が暗くて何も見えない。門灯でも点いてれば確認できるんだが。

これじゃどうなったか分からない。



「―――― 音に、」



「!」



声に、振り返る。



「音に反応するから…。今ので向こうに、離れていきました」



ランタン型の小さなライトを手に、階段から降りてくるそれは、楽設村に来て初めて出会った生きてる人間。

正直ムチャクチャ心細かったんで、誰でもいいから助けてプリーズだった俺の前に現れた希望。四方八方塞がりでヤケクソバトルに及ぼうとした俺を止めてくれた暫定救世主。


「大きな音を立てなければ、これで大丈夫、…です」


ようやく出会えた、切望していた“人間”は、

……だがしかし、


「あの、こんばんは…。その、役場の人とかじゃ、ない、ですよね…?」


抑揚のない声で淡々と、探るように話すその人物は。

どう贔屓目に見ても、あんまり頼りにはならなさそうな、



「……それで、あの、大丈夫、ですか…?」




中学生くらいの女の子だった。



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