表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イナカオブザデッド  作者: ロボロフ鋤井
STAGE 01:村はずれの民家
3/21

チュートリアル 02:ナイストゥミーチューオブザデッド



「お、民家発見」


歩くこと体感時間で1時間半くらい。

野生動物の驚異は特になく、小鳥のピーチクパーチクがどこかで聞こえる程度で、リス1匹さえ見なかった。

やはり自然の動物諸君は警戒心が豊かだ。じゃなきゃ夜行性なのだろう。

とまあ、それは置いといて、ついに民家を発見した。


道沿いの和風住宅。

茅葺きとかそういうんじゃなくて、瓦葺平屋の一軒家だ。都会でも割と見かける、特別何も思うこところもないお宅だ。

家の向かいが少し広くなっていてバス停が立っている。

周囲に他の民家が見当たらないから、ある意味ここの住人専用のバス停みたいに見える。


とりあえず、まずはバス停の時刻表を確認してみた。

いい感じに錆び付いてるその表記は『 下草 』。フリガナはちょっと読み取れないが、多分『 しもくさ 』だろう。


ここ、楽設村らくせつむらには『 ふるさと楽設バス 』なるバスが運行されているようで、どうやら村内には9つのバス停がある模様だ。

現在地、『 下草 』は最初のバス停…村から見たら村はずれのバス停に当たる。

多分村の中心だろう『 楽設村役場前 』は3つ先だ。別にそこまで行くつもりはないけど。


余分な情報は置いといて、時刻表を見てみると…表記されてるのは朝の9時と夕方5時のみだった。

田舎だとは思っていたが、これはひどい。一本逃したら8時間後とか、都会じゃとても考えられないガバガバスケジュールだ。ゆとりありすぎにも程がある。

とにかく、本日は超勤確定のようだ。残業手当は無理そうだけど。



「 ぅ~ 」



…?

ちょっぴりセンチメンタリズムな気持ちになったその時、どこかで人の声のようなものが聞こえた。

振り返り、向かいの民家を見る。

表札は『 山本 』。横に掠れた文字で『 達三 』『 ハナゑ 』という名前が書いてある。

声は僅かに聞こえた程度だったし、きっとこの民家の住人の声が漏れたのだろう。


空家の可能性を若干危惧していただけに、実に有難い。

夕方までバスはなさそうだし、とりあえずはこれで電話を借りて会社に連絡できそうだ。

ついでに事故の原因でもある先輩に(運転中の電話はまあ置いといて)、本来行く予定だった目的地で待っているだろうお客へ謝罪の連絡とかお願いしよう。

ヒトん家で借りた家電で客先へ連絡とか非常識だし、至極当然の緊急措置だ。


「ごめんくださーい!!」


インターホンが見当たらなかったので、ノックしながら挨拶してみた。

ドアではなく古い木製の引き戸だったので、軽快なノック音はなく、はめ込まれた磨ガラスがガシャガシャと鳴る。

これはこれでインターホンがなくてもよく聞こえそうだ。



…。


………。


しかし、反応はない。


「ごめんくださーい!すみませーん!」


ワンモアセッ。めげることなくトライアゲイン。



…。


………。


はい無反応。


しかし諦めるわけにはいかない。

そう言えば、田舎のお宅の場合に限り、玄関扉を少し開けて中に声を掛けるのが赦されるという暗黙の了解っぽいのを聞いた気がする。

というわけでレッツトライ。



ガラッ!!



くさっ!?!?


玄関扉を開けた瞬間、キッツい刺激臭が鼻を直撃する。

想像してたのは線香の匂いとかそういうのだっただけに、ダメージはでかかった。


てか何?

何この匂い?生ゴミでも溜め込んでんの?


「ご、ごめんください!」


匂いはアレだが、扉に鍵も掛かってなかったし、声は聞こえた気がしたし、人がいることは多分間違いない。

暗い室内は、それにもかかわらず電気を点けてないらしく、奥まで見ることはできないが…留守ってわけではない感じもする。

この際こちらのお宅が汚屋敷だろうと汚部屋だろうと構わないから、とにかく誰か出てきてプリーズだ。表札にあった達三さんでもハナゑさんでも、他の誰でもいいから。



そんな願いが通じたのか、奥の方でのそりと“ダレカ”が動く気配がした。





「………」


そして俺は無言で玄関扉を閉めた。



よし、状況を整理しよう。

ここは『 山本 』さんのお宅。

俺は「ごめんください」して、中の“ヒト”は奥からゆっくり出てきてくれた。

よし、ここまではOKだ。問題ない。


………問題があるとすれば、その“ヒト”が何ていうかその、失礼だとは思うんですが、その、


あれゾンビじゃね?


いや、ちらっと見えた時点で玄関扉を閉めちゃったんで、100%確実に「間違いない」とは言えないんだけど、ねえ?


服装は田舎のばーちゃんとかが着てるような、女性服に疎いから何ていうヤツなのか知らないけど、そういう服を着ていた。おそらく『 ハナゑ 』さんだろう。

それだけなら良かったんだが、服にはべったりと赤黒い染み(血?)が付いてて、てゆーか『 ハナゑ 』さん白目剥いてたし。顔色も悪いを通り越して彼岸渡ってる感じだったし。

口元から喉元にかけて赤黒いのが見えたのは、口紅塗るのを失敗したわけじゃあないだろう。


ガシャン!


「うおっ!?」


扉の磨ガラスに人影が映ると同時に、それは引き戸を開く動作は一切せずに扉に体を打ち付ける。

情けない声を上げて思わず防御の姿勢(カバンを前に突き出して「ちょっとタンマ」のポーズ)を取った俺は、そのままゆっくりと後退った。


ガシャン!


なおも引き戸にタックル?をかます推定ハナゑさん。

開けたきゃ普通に引けばいいのに、それをしないってのがもうアレだ。ヤバい。


ガシャン!


しかしどうやらパワーは弱なようだ。

お世辞にも頑丈には見えなかった玄関扉は健在で、推定ハナゑさんは立ち往生の様子。

つっても怖いけど。


ガシャン!


OK、びーくーる。冷静になれ。

防御の姿勢のまま、とりあえずはバス停まで後退して考える。

この状況はナニコレどーしよう。


① テレビのドッキリ的なやつ

あれはハナゑさんでなく、特殊メイクをした役者で、どっかからTVカメラが俺の痴態を撮している可能性。会社とか同僚とかがそういう番組に応募した的な。

常識的にはこれが一番だし、そうであって欲しいけど…俺が事故ってこの家に来たのは完全に偶然だから、その可能性は限りなく0%だろう。

ターゲットが俺ではなく、偶然ここでやってたドッキリに巻き込まれた説も可能性小だ。

別のターゲットと間違えたんなら直ぐにスタッフとか飛んでくるだろうし、ターゲットランダムの待ち伏せ式だとしたら、この場所じゃ効率が悪すぎる。


② 俺はあの事故で実は意識不明の重体

夢オチパターンその1。

本当の俺は現在病院のベッドの上か、または未だに車の中で生死の境をさ迷い中。で、これは夢。

夢なのに夢も希望もないぜ!な可能性だ。これは悲しいけど①よりも現実的。

ただ、夢ってのは経験上、もう少しこうフワフワっと意味不明な感じだった気がする。

対して“コレ”は、事故直後からこの場所に至るまで普通に“普通”で鮮明だった。


③ そもそも事故なんて起こってないし、むしろ俺はまだアパートのベッドの中

夢オチパターンその2。

最も幸せなパターン。よぅし、さっさと起きて会社行かなきゃ!

…まあ、②と同じくってか、それ以上に確率低そう。出勤からここまで夢とか、俺の夢はどんだけリアル志向だって話だ。


④ あれはゾンビではなく、ああいう病気です

これは現実であり、しかしやはりゾンビとかいうファンタジーではない可能性。

あの推定ハナゑさんもゾンビではなくて俺の知らない病気であり、声に反応して向かっては来るものの、病気の影響で玄関扉を開ける能力は失われている的な。

そこそこ可能性的には高い感じだが、うむ。


で、ラストのパターン。

⑤ 現実は思った以上にファンタジー

一番最悪なヤツだ。これはないと願いたい。



バンッ!!



「!?」


一際でっかい音と共に、遂に第一防衛ラインであり最終防衛ラインでもあった玄関扉が外れる。で、推定ハナゑさんがその勢いですっ転んだ。

かなりの勢いがあり、受身を取った様子もなかったんで大怪我必至だろう。


「だ、大丈夫ですか………?」


距離そのままに、やっぱり防御の姿勢は解かずに訊ねてみる。

ピクリとも動かない推定ハナゑさ…、あ、やっぱ動く。スロゥリーな速度で顔を上げて…、


で、この時点を以てパターン①と④が無くなった。





いや、首の骨と目ン玉が飛び出て生きてる人間は、いないでしょ。

ねえ?

マジで誰かへるぷみー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ